第三章 十四節

誰が見ても一方的な殺しだった。


万の軍勢に包囲された十人と少し、それを長槍で叩き突き刺す。




串刺しになり、味方が誰一人いなくなった中、一人の偉丈夫が敵の将軍と思われる男に向かって突撃する。




「ガアアアアァァァ!!!」




それは、言葉にならぬ咆哮だった。


突き刺さった槍が、体に食い込もうと構わぬと言った全身全霊の特攻。




「アルフレッド様をお守りしろ!」




「コイツ化け物か!!」




トールが膝を付いて止まった所は、アルフレッドが目前となった所だった。


皆が息を付いて安心した。それ程の勢いをトールは持っていたのだ。




「……戻り次第、全軍で戦線を押し上げるぞ」




アルフレッドは、トールに背を向けて次の一手を口にする。


それを待っていたと言わんばかりに、死んだと思われた男が持っていた大槌を振り上げる。




「アルフレッド様―!!!」




大槌が振り下ろされた。




が、アルフレッドはトールに背を向けた時に要人していた。


振り下ろされた大槌は空を切り、アルフレッドの剣は振り返りざま、トールの首を切り落とした。




「おおおおおー!!!」




見事敵を討ち返したアルフレッドに歓声が上がる。


それを当たり前だと言う様に、アルフレッドは次の指示を出す。




「敵将の四肢を切り落とし、各戦場に送れ!!」




トール将軍戦死を聞きグランデルニア王は、大きく肩を落とした。


名だたる武将を全て失ったからである。他にも将軍は残っているが打開策を持つ者は、残ってはいなかった。しかし、王たる者諦める訳にはいかない。




「全軍撤退だ……」




王である使命が、辛うじて体を動かした。


それでも現実は非常なものである。




「事前の通りだ。各将軍に伝えよ、掃討戦だ」




アルフレッドが言う掃討戦とは、言葉の通り敵を完璧なまでに排除する事だ。


これ為にアルフレッドは、落とした城で敵の情報を集めていた。時には、拷問などで吐かせたモノもある。




主に情報は、敵将の名と掲げる旗、敵将の持つ領地だ。


それを羊皮紙にまとめ、各戦場にいる将軍に渡していた。




「見つけた!お前が、ブリュナ領のドーゴ将軍か!!」




「な、何故。敵が我の名を!?」




「敵を前に尻尾撒いて逃げるとはな!!情けない!!お前の領地は既に把握している。


 近いうちに滅茶苦茶にしてやるから楽しみに待っとけ!!」




「言わせておけば!!」




これに撤退していた将軍達の多くが足を止め、無謀な戦いに身を投じた。


中でも多くの敵を屠ったのが、意外な事にペアレスだった。


見るからに弱そうな顔をしたペアレスだが、それが敵の激情を駆り立てたのだろう。




こうして連合軍は、グランデルニア侵略戦を一か月にして確なるものとしたのである。


後は目前にあるグランデルニア王都を残すのみである。




大逆転劇を演じた連合軍は、その夜大きく賑わった。


数多くの死傷者が出たが、その分彼らは場を楽しむのだ。亡くなった友を悼む為。




守りに適した湿地帯を手にし、拠点を盤石とした連合軍は、本国からの後方支援を受け二週間後、グランデルニア王都に向け再び進軍を開始した。




どの騎士団よりも攻城戦を得意とする白冥軍は、此度の王都戦も楽なモノになると考えていた。が、いざ戦場を見渡した斥候兵は、その考えは風の様に吹き飛んだ。




今までの戦争において籠城戦になると、その残虐性を持って戦う白冥軍を考え、籠城戦を不利と見たグランデルニア軍は、野外戦をもって連合軍に決戦を望む事にしたのだ。




それを事前に聞かされたアルフレッドは、決戦の日より二週間前、身の毛もよだつある出来事を行ったのだ。




湿地帯の河川敷に、呼び出された将校らは何も聞かされず、アルフレッドを待っていた。


少し待った後にアルフレッドは、生け捕りにした敵セロ将軍とその親族を連れて来た。




セロ将軍の親族は運の悪い事に、この侵略戦の範囲内に領土があったので捕まってしまっていた。




「待たせたな……」




河川敷に敵将とその親族が連れてこられる。考えられる事は余り無い。


その中にいた将校たちは、皆揃って顔をしかめた。




連れてこられた親族の中には、幼い子供が泣きじゃくっている。




アルフレッドは、用意されていた椅子に腰をかけて話始めた。




「これからグランデルニアの王都を滅ぼすにあたって、重要な事がある。


 それは、グランデルニア大国を支えた物を破壊する事だ。ならその支えとは何か、アフマ教だ。グランデルニアは、かつてあったミケア大国に続く宗教国家だった。それを破壊する」




アルフレッドが話をする中、黙々とその前に捕虜が並べられていく。




「その話と、これは何の関係が……?」




恐る恐るルートは、アルフレッドに問う。


それは彼の中にある善性が、これから起こる惨劇を見据えての事だろう。




「敵将オーウェンが俺にある事を言ってな、俺に心があるかと。


 それが俺を苦しめるらしいのだ。ならば、今この手で切って捨てようと考えた」




「アルフレッド様、お言葉ですが……それを御捨てては、世界平和など夢のまた夢では!?」




「世界平和の前に、まずは世界を滅ぼさねばならぬ。それに行きつくには、心など不要。


 どのみち多くの者を殺すのだ。変わらんよ」




「どうか閣下、ご再考を。女子供だけでも」




「ええい!!鬱陶しいわ!!


 ここで子供を逃がせば、復讐の連鎖が続くと分からぬか!?」




目の前で首を垂れるルートをアルフレッドは蹴り飛ばし、腰にあった剣を引き抜いた。


まずその剣の前に立たされたのは、セロ将軍の長男の青年だった。




「父上……」




「ウォルフ……やめてくれ!誰か止めてくれ!」




涙に濡れる顔をセロによく見える様、目の前に固定する。


怒りに震えるセロは、兵が数名で押さえていた。


アルフレッド自ら手を下す様で、セロの息子の首に剣を構えた。




「やめろおおおおおおおお!!!」




悲痛な叫びと共に、その首が切り落とされた。


ゴトリと、重い石が落ちる様にセロの前に息子の頭が転がる。


温かな血が吹き荒れ、セロの顔を濡らす。




「よし、次はその赤子にしよう」




セロが悲しみに暮れる間も無く、アルフレッドはもう一人の子を指名する。







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