第三章 六節

「俺が……ロレインの友達……?」




キュネに胸倉を掴まれながらアルフレッドは、戸惑う。


確かに俺達は、子供の頃から共に育ってきた、けれどそれでもアイツは俺達とは違う男だった。




「そうだ、分かったんだ。何でロレインがお前達に命をかけたのか、それはステラに似ていたからだ!!」




「ステラって前に話した、ロレインの」




愛した人、その人に俺達が似ている?




「どういう事だ?」




「似てるんだよ、アンタもサラも……金髪に青い目、真っ直ぐで頑固な所も全部」




ズルリと、胸倉を掴んでいた手が離される。




「それでも、俺達の為と分かってもアイツは殺し過ぎた……」




「違う!!」




顔を地面に伏せながらキュネが否定する。




「何が違うんだ、大勢を残虐非道なやり方で殺し滅ぼして、勝手に死んで……いい迷惑だ」




そう言いながらも内心アルフレッドの心は傷ついていた。


何故かは分からない。




「大勢の犠牲を出したのは、サラを守る為でしょ。他国が彼女を狙っているから」




「それでも」




「それが最短の道だってロレインが言ったのよ!!」




アルフレッドの言葉を遮りキュネが続ける。




「他国を全部滅ぼして、この千年の争いを終わらせるって」




「そ、そんな……」




その時、ミケア大国を攻めた時のロレインの言葉を思い出した。


『そんな生半可な気持ちでやるから世界はずっと血を流し続けてんだろうが!!』


アイツは、ああ見えて本気で世界の平和を願っていたのか。




「だがら、ロレインの気持ちを少しでも汲んであげてよ……」




キュネは、胸に手を当てながら言う。


このままだと、ロレインはただの虐殺者になってしまうと。




「……分かったよ。その話サラは知っているのか?」




少しアルフレッドは考えて、口を開けた。


それに『知らない』とキュネは首を横に振る。




「レグネッセス王に再び会いに行く、それに他の全騎士団団長にもだ、使いを出せ!!」








一月後、冬の寒さも落ち着いて来た頃。


首都ティタンジェルの宮廷、王の間にレグネッセス王と全騎士団団長が集った。




「騎士団団長に就任し、早一ヶ月、我らを集めるなどそれ程の話なのだろうな」




レグネッセス王は、あまり機嫌が良くなさそうだ。


何と言っても、公爵の地位のある者でも王とは位の差では言い表せない程の差があるのだ。




「ハッ、私の為に集まって頂いき誠にありがとうございます」




「「「……」」」




王とアルフレッドが対面する左右には、他の騎士団長達がいる。


それぞれから、重たい重圧を感じる。




「して、話とは?」




「「「!?」」」




王の返答待たずに、オスカーが話を促す。


その顔は、鬼の様な面頬に隠されていて表情が読めない。




「オスカー貴様、王の御前だぞ」




これに、元上官のフォーグが黙ってはいない。




「そんな事は百も承知だ。今も尚、戦場は動いている。そんな中、我々を集めた訳を早く聞きたいのでな」




「それはそうだが、場をわきまえよ」




各団長達の中では、領土間の争いを置いて駆け付けた者もいる。


くだらない事で呼びつけたと合っては、自分の首も危ういかも知れない。




「話とは、我が友ロレインの考えた事についてです」




アルフレッドが、話を進める。




「「「「!!」」」」




場の空気が張り詰める。


世界を変えた男の話となると、どんな者であろうと聞く耳を立てなければならないだろう。




「ロレインは、世界を滅ぼそうと考えていました。そして私も今それを成そうと考えています」




「な、なんという事を」




王がうろたえる。


それもそうだろう。これだけを聞くとただ気が触れたとしか思えない。




「しかし、これは只滅ぼす。と言う話ではありません。世界から傷つく者を無くす為、世界の平和の為だと信じて頂きたい」




「……ロレインの為なら、俺はその話乗るぞ」




今まで黙っていたゴドフロウが口を開ける。その巨躯は動く岩の様だ。


ゴドフロウは、自身の配下だったロレインに思い入れがあるのかもしれない。




「アルフレッド……俺も戦争の根絶を願う者だが、その様な浮説を聞かされてもな」




フォーグが、飽きれ顔で言う。


そんな事出来る訳無いと。




「いや、可能だ。世界を滅ぼすだけならな……」




オスカーの言葉に、しばし場が凍り付いた。


そう、レグネッセスは今それ程の軍事力を持っている。




「はい、その為の策も考えてあります。それをするか、しないかを本日決めて頂きたいのです。今集っている騎士団団長に王が命令して頂ければ、世界を滅ぼす事は可能です」




「……な、何故なのだ」




ゴクリと固唾を飲んでから、王は問う。




「私は、常に正しい事をしようと考えてきました。しかし、戦場に全も悪もありません。そんな中で、ロレインは意味を見出し戦いました。アイツの掴みそこなった未来を迎えに行きたいのです」




「……滅ぼすと、言うのは」




恐る恐る聞く王は、きっとロレインの戦い方を知っての事だろう。




「はい、残虐非道を多く行うでしょう。そして、今ある世界の在り方を壊すと言った意味で、です」




「……」




王は頭を抱えて考える。


王と言えど一人の人間だ。想像も出来ない人の不幸を、答え方次第で背負う事になるのだ。


並の人ならそのプレッシャーに、押しつぶされてもおかしく無いだろう。




「わ、分かった。だが、それは世界の、人の平和の為なのだな?」




額に脂汗を浮かべながら、王はアルフレッドに確認する。


世界を滅ぼすのは、世界平和の為だと。


矛盾している様で筋の通る答え、それはまるで人間そのものだ。




「勿論です。その世、まだ見ぬ未踏の地で王は平和な世界を統治してください」




アルフレッドは心の中で思う。『僕らは、既に後戻りは出来ない』と、友の築いた屍の山が報われるにはこれしか方法は無い。






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