第三章 七節
陥落寸前の城ルセルを救ったのは、かつて争ったレグネッセス軍だった。
突如現れた七万の軍勢にドアキア軍は撤退を開始した。
「何故あれ程の大群に、気が付けなかったのだ!!」
後退するアムド公は、側近の者に聞く。
その目は怒りを帯びている。七万の敵に気が付かない者がいる筈が無いと。
「先陣の兵によると、レグネッセスに入っていた諜報員並びに斥候兵の死体が、掲げられていたと……」
「そんな馬鹿な話が」
『ある筈が無い』事が起こっていた。
白冥軍の情報管理は、とても厳しい物だった。ミケア州にある各城で数千の兵を置き、少しずつ合流して此処ルセルに進軍をしていたのだ。
その中で、作戦が伝えられてから今日まで城門を出る怪しき者は、皆殺されていた。疑わしきは罰す、だ。
ドアキア軍の背を追うのを、重臣のリディとキュネに任せアルフレッドはルセルに入城した。城内では、武装を解除しようとしない者が大半だった。レグネッセス軍が助けた形とは言え、敵である事には変わらないのである。
「アルフレッド様、危険です。もう少し後ろに」
アルフレッドを庇う様に、ルートが前に出る。
その目は、武器を此方に向けるハドマス兵に向けられている。
「大丈夫だ。
ハドマスの兵士よ、私は貴様達の王に話がある!!
それが叶わぬなら、戦闘が再開されるものと知れ!!」
アルフレッドの言葉に、ハドマスの兵士達は威圧され尻込みする。
「私が案内します……先ずは、危ない所を救って頂きありがとうございます」
その兵士達の中から、まだ幼い少女がハドマスの国旗を手に前に出た。
砂埃で汚れ、背格好に合わない無骨な鎧を身に纏っているが、その顔は勇敢な戦士そのものだった。
「フッ、名は?」
その少女が知人に似ているからか、アルフレッドから笑みが零れる。
それに隣にいたルートが気づくが、訳を知る由も無い。
「私は、アンネ。ハドマス王を守る守護隊員です」
「よろしく頼む、アンネ」
案内された城の警備は、籠城戦に周っていたのか手薄であり、ハドマス王は顔を出そうとしなかった。
軍事力も此度の戦で失い、ハドマスに国と呼べる力は無くなった。
「お前達が、ハドマス王最期の側近達か……」
「「……」」
二人の騎士が、アルフレッドと顔を合わせる。
何か言いたげな顔をしているが、既にハドマスはレグネッセスの手中にある。二人はそれを分かっていて、口には出さないのだろう。『この国をどうするつもりか』と。
「救われた恩を仇で返すとは、ハドマス王には此処で死んでもらう。
お前達は俺が貰い受ける。残された文化、民を守る為、精々努力するのだな」
「「ぐぐっ……」」
二人の騎士は、血がにじむほど唇を噛みこれに承諾した。
かつて大国として栄華を極めたハドマスは、これによって地図から姿を消すことになる。
犯行勢力が現れない様、アルフレッド達白冥軍はルセルに滞在した。
それから、アルフレッドが提案した世界滅亡のシナリオが動き出す。
先ずは、レグネッセス南部の白鳳軍だった。
海に面する南部で、他大国の何処にも知られず水軍を起こし、北方に位置するドアキア超大国に奇襲をかけようとしていた。
「サーンジュお前は、何処かドアキアとの中間地点の島を探せ」
「ハッ」
オスカーが、猿に似た家臣に命令する。
これまで、レグネッセスとドアキアの海を越えた例は無い。だからこその奇襲。
これを成功させれば、陸と海を挟んでの攻撃が可能となる。
オスカーは、前人未踏の不可能とされた絶海探索に取り掛かった。
その期間の間、ハドマスの残り火ルセルを壁としてドアキア超大国を塞ぎ、アルフレッドはフォーグ等白竜騎士団と連合を組んで、グランデルニア大国に攻め入った。
友を失い、同時に友と思っていた者に裏切られた。
仇敵グランデルニア。
アルフレッドのみならず、重臣のキュネ等も奮起し指揮は頂点まで上がっていた。
それは、フォーグも同様だった。かつての教え子を二人も失ったのである。怒らずして、何が師か。
白冥白竜連合軍は、アルフレッド・フォーグ両名を総大将とし十五万の数で進軍した。
「前回は、痛み分けで終わりましたが今回は此方の完全勝利です」
アルフレッドが、軍議での説明を終える。
「ククッ、お前と共に戦をする日が来るとはな」
かつての師、フォーグが感傷に浸る様にそう口にした。
亡くした弟子を思い出さずにはいられないからだろうか。
「師の賜物ですよ」
「よせや」
師も、もう歳からか白髪交じりの髪が目立つようになった。
それを照れるように掻く。
「師よ、私はこれから世界に酷い事をします。
多くの者に恨まれる事になるでしょう。きっと貴方であっても私を見る眼は変わってしまう。だからこれを最後に、例を言います。私をこれまで育てて頂き有り難うございました。貴方はとても厳しい師でしたが、もう一人の親の様でした」
アルフレッドは、フォーグの前で片膝を付いて感謝を告げた。
まるでもう会えないかの様に。それはこれから待つ悲劇を思ってだ。
「アルフレッド……ロレインの様にカッコつけずとも良い。いつでも俺は味方だからな」
フォーグは、その肩に優しく手を置いた。
「お言葉嬉しく思います。が、私だけ幸せになる事は絶対にあってはいけません。
それでは、フォーグ将軍。御武運を」
そう言ってアルフレッドは、本陣のテントから出て行った。
その背中は、酷く哀れに見える。
「ホント、どいつもこいつも一人でカッコつけやがって……」
かつての師は、過ぎ去った者の背中にポツリと一言呟いた。
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