第三章 五節

ハドマス大国の重要都市ルセルの壁は、ドアキア兵が占拠しつつあった。


壁の上で掲げられていたハドマス旗は降ろされ、悪趣味な髑髏に巻き付く蛇が描かれたドアキアの旗が上がっている。一つを除いて。




「見ろ、まだ戦っている者がいるぞ!!」




「子供じゃないか?」




階段で戦っていた者達が、ハドマスの旗を持つ子供を見つける。


子供を助ける為、兵士達は結束する。




子供が戦っているんだ。ここで倒れてなんていられない。今助けるぞ。




「「「うおおおー!!」」」




気持が一つになった兵士達は息を吹き返し、階段を攻める敵を押し返す。


占拠されつつあった壁の階段は、辛うじて阻止された。




「早く!こっちだ」




「持ちこたえろ!!」




盾で作られた味方兵士の道を進み、アンネとデュラハンは九死に一生を得た。


しかし助かった喜びを感じる間も無く、階段から見える景色に二人は膝を付いた。


他にある壁の階段が全て敵に占拠されていたのだ。




街には所々火が上がっており、壁の扉が今開けられそうになっていた。




「おい、お前達急いで階段を降りろ!!此処ももうもたん!!」




味方兵士の盾の壁が今にも突破されそうだ。


急いで下に降りないと、と視線を向けた頃には時既に遅く、他の階段から降りたドアキア兵が此方に攻めて来ていた。




もう無理だ。




階段を下りる足が徐々に遅くなる。


諦めて今此処で泣き崩れたい。そう思った。




すると、上の方から叫び声が聞こえた。


もう上に味方はいない、そうすると叫び声を上げるのはドアキア兵しかいない。




でも何でドアキア兵が?




振り返ると、敵兵が焦りながら帰っていく。


一体どういう事だ?理解が追い付かない中、アンネは旗を再び握り締めた。




「逃がさないで!!敵の背中を討つのよ!!」




「お、おう!!」




分からないながらも、この機会を逃してはいけない。と、アンネの直感が囁いていた。


逃げる敵を討つのは簡単だった。壁に上がると、何故敵が退いたのか原因が分かった。




それは、第三者の敵が現れたからである。




「フ、フフフ、フハハハハッ。戦争はやはりこうでなくてはな!!


会いたかったぞ!!白冥軍!!               」




アムド公の目は、白冥軍の先陣をきるアルフレッドの姿が映っていた。




南から侵略して来ていたレグネッセス超大国が、偶然此処ルセルに辿り着いたのである。


しかし、敵は敵いづれにしても窮地なのは変わらない。そうハドマスの兵士は思っていた。




が、各地にレグネッセス軍から使者が送られてきたのだ。




「我は白冥軍の指揮官ルートである。我が主アルフレッド閣下から命じられ馳せ参じた。


ハドマスの騎士達よ、今は共に手を取り合い血濡れたドアキアを討とうではないか!!」




破られた門からなだれ込んで来たドアキア兵を、蹴散らし颯爽と現れたその騎士は白いマントを翻し、共同戦線を敷いたのだった。




だが、これは極めて一方的なものだった。


共同戦線と聞けば聞こえはいいが、断る事などハドマスには出来っこないのだ。


アルフレッドが率いて来た軍の数は7万人、断るものなら侵略されるのがおちだ。




既にハドマスは抵抗する力も無い。




ドアキアはレグネッセスに良いとこ取りをされたのだった。漁夫の利である。


全てはアルフレッドの思い通りだった訳だが。








時は一年遡る。


全大国にその名を轟かせた男、英雄ロレインが戦死しその後釜としてその席に座る事になったアルフレッドはレグネッセス王から王宮に呼ばれた。


それは三大国が侵略を諦め、レグネッセスに平和が戻り直ぐの事だった。




『アイツは何がしたかったんだ


サラを理由に世界を荒らして、屍の山を築いて、自分勝手に死んでいきやがって』




イラつく思いを地面に当てて歩く、その中には悔しさも混ざっていた。


通り過ぎる宮廷の婦人方が驚いている。僕は今酷い顔をしているんだろう。




「汝、白冥騎士団団長に任命する」




「謹んでお受けします。我が王よ」




任命式を終えても、アルフレッドの胸の靄は晴れなかった。








北部を納める任の為、ミケア大国があった土地はその名を付けられミケア州となった。


広大な土地を治める為、爵位が大公に上がったアルフレッドはほぼ王の様なものだった。




臣下として、ロレインの補佐であったキュネとリディはそのままアルフレッドの下に付く事になったのだが




「私は、ロレインの頼みだから付くだけだ。勘違いすんなよ」




城主となったアルフレッドの部屋で、彼等は顔を合わせていた。


仕方なくと言った感じのキュネに




「私もそうですね、まさかあの若が……」




まだ信じられないのか涙を浮かべるリディ。その気持ちは誰もが抱いていた。


千年もの歴史を変えた男ロレイン。




「アイツは一体何がしたかったんだろうな」




アルフレッドがポツリと吐いた言葉の後で、パンと乾いた音が部屋に響いた。


アルフレッドの頬をキュネが叩いたのだ。




「お前それでもロレインの友達かよ!!」




「えっ……」




キュネは涙を流しながら本気で怒っていた。


アルフレッドの胸倉を掴んで締める。




「ロレインは、アンタ達を本気で思っていたんだぞ!!」






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