第三章 三節
プカプカと浮かぶ、頭上にはユラユラ揺れる水面が見えた。
綺麗な光に群れる虫の様に少女はそこを目指す。
けれど、泳いでも、泳いでも一向に近づけない
足が重い、そう気が付いて下に視線を移したら、足を掴む多くの屍がそこにあった。
「!!」
飛び跳ねる様に起きたリーゼは、知らぬ部屋にいた。
アルコールの匂いが染みついた清潔で飾りの無い部屋。
全身が包帯で巻かれており、自分は誰かに助けられたのだと理解する。
実感はないけれど、一先ず生きている事、自由になった事に安堵する。
ベッドに再び横たわると、今見ているのが夢なんじゃないかと心配になった。
ズキリと削られた右胸が痛む
「生きてる……」
ドロニカ城で奇跡の生還を果たした一人の少女は、それから数回の検診を経て外に出た。
私を救ってくれたのは、北部一帯を統治するアルフレッド閣下の白冥騎士団だったという。
自分だけ助かった罪悪感を感じる事もあったが、悪いのは全てメルジェリーナ。
持ち前の男勝りな性格も戻りつつ、リーゼは自身の家に帰っていった。
一方、世界を描く絵図は日に日に変わりつつある。
昨年レグネッセス超大国に大敗をきし、同盟国からも裏切られ周囲の大国に侵略を受け続けているハドマス大国は滅亡の危機に合っていた。
昨年シャンドラ大国を滅ぼし、レグネッセスと並ぶ超大国と成ったドアキアは、敗戦で弱っているハドマス大国を侵略し続けている。
全ての戦場がハドマス大国内で行われ、唯一の抵抗として焦土作戦が行われた。
多くの民が生活した街、笑いあった憩いの場、生きる為の食料、全てを焼き払いハドマスは抵抗した。
しかし悲しきかな同盟国から裏切られたハドマスは、貿易も途絶え経済は破綻しかけている。
国民の誰もが諦めていた一人の少女を除いて、これはいずれ交わる二人の少女の物語。
父ドルグと母イザベラに出来た五人兄妹の末娘。
名はアンネ、十三歳になって間もない何処にでもいる田舎娘だ。
天真爛漫で村の人からも好かれるそんな女の子。
「こら!アンネ、お父さんの畑の手伝いをしなさい!」
「やーだ、もーん」
「まったく、あの子ったら」
いつも通りの日常、たまに父の手伝いを抜けて自由に野原を駆けまわる。
そんなある日、アンネの村は戦争の襲撃に遭って焼き払われた。
「何これ……」
アンネが野原で遊び疲れて眠っている間、村の建物は焼き潰され畑は荒らされた。
目が覚めて、急いで村に帰ったアンネを待っていたのは酷い光景だった。
お父さん、お母さん、みんな!!
家族の心配、一人でいる不安から足をいっそう速く回す。
「だ、誰か……」
そこには、村の者達の酷い有様があった。
先端の尖った棒を股下から突き刺された村人達は、持ち上げられ生きながら痛みに苦しめられていた。
異様な光景にアンネは数歩後じさった。が、その中に父と兄の姿を見つけて駆け寄る。
「お父さん!お兄ちゃん!」
「う、うぐ……ア、アンネか?逃げろ、逃げるんだ!」
「え?ど、何処に?」
血を吐きながら父は、娘を逃がそうとする。
隣にいる兄はピクリとも動こうとしない。
アンネは父に必死に答えようにも、どうすれば良いか分からない。
十三の歳の少女には何処に逃げればいいかなど分かる筈もない。
「し……親戚の、デュラハンの所……へ」
力尽きる様に父は言って、兄の様に動かなくなってしまった。
アンネは母達を探そうとしたが、父の言ったデュラハンの所に向かったのだろうと考えた。
アンネは一生知る事は無いが、アンネが救われた要因は村にいた女達がドアキア兵に犯されていたのが大きかった。その為、誰にも追われること無くアンネは親戚の元へと走ることが出来たのだった。
知ってる。デュラハン叔父さんの家は、何度か行った事がある。
アンネはその小さな足で、隣の地域圏であるラークに辿り着いた。
だがラークも変わらず戦争状態にあり、アンネはいつの間にか戦場の只中にあった。
フラフラとおぼつかない足で、ぼやける人影を見つけたときにはアンネは地面に倒れていた。
あっ、誰かこっちに来る……
「こ、子供がいるぞ!!」
「逃げ遅れたのか!?」
二日も何も食べずに走り続けたアンネは、運良くラークの守備兵に発見され保護された。
自身の親戚がいると報告を受けたデュラハンは、アンネと再会し事情を知る。
「そうか、辛かったな」
「お母さんは、無事でしょうか……」
「……」
ゴツゴツと、した腕がアンネを抱きしめる。
デュラハンの悲しい顔を見て賢いアンネは悟ってしまった。
もう、村の皆はいないのだと
辛い事は続く、アンネが訪れたラークは敗戦が濃厚になり撤退することになった。
デュラハンはアンネが女である事でもしもの時、危険な目に合うと思い彼女の長い綺麗な金髪を切った。
バサリと、一つに縛っていた髪が一気に切り落とされる。
それから少し髪を整えられ、アンネは鏡が手渡された。鏡に映るのは真っ直ぐに合わせられた前髪と、耳程の長さになった後ろ髪。
悲しいけれど、唯一頼れるデュラハン叔父さんに迷惑をかけれないと、アンネは涙を堪えた。
もともと中性的な顔をしていたアンネは、重い甲冑に身を包み変装をして守備隊に潜り込んだ。
そしてハドマス王がいる大国の重要都市に向かったのだった。
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本日の更新はここまでです。
次の更新はまだ未定です。ありがとうございました。
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