第二章 十九節
グランデルニア王の横でシクシクと泣き真似をする道化師がいた。
大胆明快な図形が施された鎧にゆったりとしたズボン、爪先が尖っている可笑しな恰好をした男がそれだ。
「ぐすん、感動の再会ですネ♢」
「フン、お主のシナリオ道理か?ジャック」
「ここまでは、です☆我がキング」
合同軍グランデルニア軍の戦場から大きく外れた場所。
そこに敵味方の彼女たちはいた。
「サラ……かな、し、い?」
「ううん、貴方に合えて嬉しいの」
「で…も、涙…デテル。アイツ等、の、せい?」
「違うわ、貴方と約束したのにゴメンね。私一人で出て行っちゃって」
「寂し、かった……ケド、サラ無事デ……良かった」
ヤギの怪物が膝を付く、足元には傷から流れ出た大量の血が、血溜まりを作っている。
サラは一度大きく鼻を啜って、息を吐いた。
「うん、有難うね。私との約束覚えててくれて」
「約束……ダイジ」
道化師の真っ赤な口が笑う
サラとヤギの怪物を囲む兵士達の外、肩車をした道化の兵がクロスボウを構える。
「!!おい、何やってる。ソイツを殺せ!!」
気が付いた時には遅く、道化の兵が放った矢はサラの肩を貫いた。
「ア……アアアア!!!ヴアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!」
「やったネ、任務完了」
「任務完了、退散♪退散♪」
道化の兵は、担いでいた者を降ろして馬に跨った。
その瞬間、二人の道化の首が飛ぶ。
「何ふざけてんだ!!!テメェ等!!!」
キュネがロレインを心配して小隊を連れて来ていたのだ。
矢を討たれたサラは、ヤギの怪物の手の中で辛うじて意識を保っていた。
ヤギの怪物は、周囲を見渡す。周りは弓兵でいっぱいだ。
力を振り絞って戦斧を握る。
「弓は使うな、白兵戦で行け」
「しかし、団長!!!」
「聞こえなかったのか?行け」
「ハ、ハ!!!」
サラを抱えた怪物に矢を放てば彼女に当たってしまう。
もう限界だろう。そう地面の血の海を見てロレインは思っていた。
一撃事に十人の白冥兵が血の花を咲かせる。
鎧や盾なんてお構いなしに、まるで象の下にいる蟻だ。
怪物が再び膝を付く、その衝撃でかヤギの頭が取れた。
中から出て来たのは、所々顔のパーツが肥大化した男だった。
「なんだ、怪物化と思ったが」「いや、怪物に違わない」「中身も怪物並みの不細工だ」
酷い罵倒が飛び交う。
怪物は、もう戦う力が残って居なかった。体を丸め優しくサラを包み込む。
「サラ、だい、じょうぶ?」
「バフちゃん、ダメ。逃げて、彼等は私を攻撃しない!!!」
兵士達が無防備になった怪物を切り刻む。
怪物の顔は、笑いながらも涙を流していた。
「サラ、ゴメンね。僕もうダメみたいだ……また君を一人に…して」
「バフちゃん!!バフちゃん!!」
怪物が力尽きて倒れる。
怪物の正体は一人の人間だった。普通の、一人の少女に恋をする。普通の少年だった。
ただ、お互いを一人にしないという簡単が、少年少女には果たせなかった。
「これだから馬鹿は嫌いなんだ……」
「えっ……」
ロレインが、ぼそりと呟く。
キュネが小隊を率いて来た。
「結構やられたからな、助かった」
「いえ、それより」
「ああ、少し押されてんな」
白冥軍は、ヤギの怪物と正気を失ったグランデルニア兵に布陣を乱され乱戦となった。
しかし、そのどちらも各隊の隊長達が上手く立ち回り事なきを得ている。
「あーあ♢ボクの狂戦士達が全滅ですネ☆」
幻覚、思考麻痺、中毒性といったモノを起こす、危険な植物を用いた兵士の強化実験は、この戦争で大いに成功したといえる。
あまり時間を必要としないこの兵士達は、放って置けばまた補充がされるだろう。
口では残念そうにしているが、道化師は全く悲しんではいなかった。
「また作ればよい、代わりはいくらでもいる」
「はい♡」
グランデルニア王から実験を続ける許可が下りる。
道化師は、次はどう工夫しようかと想像を膨らませた。
「副団長!!いつの間にか、フェリックスさんもオーウェンさんも逸れてしまっています」
「くっ、仕方が無い。一旦下がるぞ!!」
アルフレッド達は、目の前に見える。グランデルニアのセロ将軍陣地を攻撃していたが、第一陣のヤギの怪物達とは違う統率の取れた兵士に苦戦を強いられていた。
アルフレッド達の後退から少しの間をおいて、合同軍後退の知らせが鳴る。
各隊長達は、指揮官ロレインのテントに集まり合流した。
「また軍を動かす。次は南だ」
ここら一帯の地図が、机に広げられる。
現在、東にいる合同軍だが再び大移動を行おうというのだ。
「既に北部から移動して来た白冥軍には厳しいんじゃ」
「俺達は、北にいる時ほぼ戦力を温存していた。それにマジで東部に行くわけじゃあ無い」
「と、いうと?」
「途中、奇襲をかける」
「そんな上手く行くか?」
「ああ、これから手を打つ」
日暮れ時、戦で疲れた兵士達に鞭を打つ指示が出された。
合同軍を再び二つに分け南部へと進軍したのだ。
「フフフフッ、やっぱ面白いですネ♡……彼」
「ああ、しかし一度の様に南で同士打ちは無いぞ」
そう、レグネッセス南部は海に面しており三大国の誰もが攻撃をしていない。
あるのは、無傷のオスカー率いる白鳳軍のみ。
援軍頼みに……いや、奇襲?
グランデルニア王は長い顎髭を撫でながら思考する。
それを押すように道化師が提案した。
「同盟国のスパイから☆敵が潜伏する場所を教えると来ましたがどうしますカ?」
「フム、同盟を持ち掛けた者として最低限この戦、手柄を出さねばならんしな」
ミケアの墓前に添える花として、ロレイン貴様の首を貰うぞ
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
本日の更新はここまでです。
ブックマーク、イイネ、感想お待ちしております。
ありがとうございました。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます