第二章 二十節
ロレインが半分の軍を率いて東部へ大移動をした後、補佐であるリディはここに籠城戦を敷いた。がハドマス軍からの圧倒的な猛攻に今にも落城寸前に陥っていた。
「耐えろ、とにかく耐えるんだ!!」
リディは懸命に城門の兵を鼓舞し続けていたが、打てる手は無く、ただ援軍を待つのみだった。
「急いで来たかいがありましたね、敵さん城を落とすのに夢中だ」
「……ああ、このまま突撃するぞ!!」
ロレイン達白冥軍と入れ替わりに来たフォーグ達白竜軍は、白冥軍が二日を要した距離をたったの一日で移動してきたのである。
「東の方から、敵影が来ます!!」
「何!?追手に出した者達は何をやっている!?」
まさか全滅!?……おのれ、ロレイン!!何処まで私を馬鹿にする!!
戦術を攻城戦に移行していたハドマス軍は、虚を突かれ大いに戦死者を出し、また相対する白冥軍は、援軍により城の防備が堅くなり持ち直したのであった。
一方西部では、白虎軍とアレッド・ローン軍が一進一退の攻防を繰り返していた。
そもそも、この戦に本腰を入れていない女王は防戦を敷いて全体の様子を伺っている。
「ふぁー、ハドマスがヤラレまくってるな。あの国は真面目過ぎる」
女王は本陣の天幕で、大きな欠伸をしながら挙がって来る情報に目を通していた。
「フハハハ、まさかこの俺と打ち合える猛者が存在しようとは世界は広いな!!!」
「ブオオオオオオオオ!!!」
前線では、十二騎衆筆頭のロランを白虎軍指揮官ゴドフロウ本人が押さえる事で戦況は停止状態だ。
「まぁ、正直な所。全てを兼ね備えた俺と違ってアンタは顔が残念な分こちらが有利か」
「ブオオオオオオオオ!!!」
「危ッ!!!」
ゴドフロウのハンマーがロレインの頭を掠める。
「くだらないこと言ってると死にますよ!!」
「大事な事だ!!!」
レグネッセス一の巨躯を持つゴドフロウのハンマーを受け止め、時に打ち返すロランに白虎軍は驚きを隠せなかった。
「あの男一体何者だ!?」
「お頭があんなに手こずるなんて初めてだぞ」
逆もまたしかりだ。
「こっちのセリフだ、下種共!!」
「我らが英雄ロラン様に敗北は無い!!」
各戦場でそれぞれが、自国の為に大いに血を流し合った。
同盟軍が南部に向けて進軍し、二日目の夜
「軍を更に三つに分け、明日の朝再び合流する」
軍は、ロレインにエン爺とシュラ隊。
アルフレッドにサラそして白竜隊。
キュネ隊。
という具合に加えて、それぞれ白冥軍の兵士達が下に付いた。
三つに分かれた軍は、南部を目指す道中にある山々に陣を張り、明日に備えて休む形となった。
「此処で間違いなさそうだネ♢さぁーて、ヤリますか☆」
ロレインの入った山に道化師の鎌がかかる。
「若……」
「…………」
本陣のテントに入ろうとするロレインをエン爺が呼び止める。
「此処を死地とお決めになったのですか?」
「ここに来て、ボケたのか?エン爺」
「あの爆薬量、尋常ではありません」
白冥兵が眠りもせず、何やら作業をしている事にエン爺は気づいていた。
エン爺は続ける。
「それにお身体も優れない様子、貴方はあの方達の為にその身を捧げるおつもりか?」
「他にやる事もねーしな」
「私は貴方の親です」
エン爺は肩を震わせながら涙を流していた。
「フッ、血の繋がりもねーのに親振るんじゃねーよ」
その肩をロレインが優しく抱きしめる。
「ならば、今生の頼みです。聞いてくれますな」
「…………」
音もなく、白冥軍の野営地を取り囲む道化師達。
「ふん♪ふん♪ふーん♪……OK」
号令がかかり、道化の兵達が地面で横になった白冥兵に刃を振るっていく。
しかし、悲鳴の一言も上がらない。
「こ、これは死体!?」
「どういうことだ!?」
部下達が状況に戸惑う中、一つのテントに明かりが灯っている事に道化師が気が付く。
そこには影がユラユラと揺れている。
「失礼するヨ☆」
テント内では、本で顔を隠しながら椅子を揺らす者が一人いた。
白髪……まさか、本当に
道化師が長い鎌を持って、近づく
「観念したのカイ?意外と潔いんだネ♡」
長い鎌が振り上げられる。
「ふっふっふ、老人を長く待たせおって……死神にしては気が利いたかのぅ」
「なっ、貴様は誰だ!?」
顔を隠していた本が降りると、そこには老人がいた。
その老人は身代わりを買って出たエン爺だった。
道化師が驚いている隙に、エン爺はテント内に張り巡らせていた導火線に火を灯す。
外にあった死体は、ダミーの役割のみならず体内には火薬が仕込まれている。
テント内が爆発すれば連鎖的に爆発するという訳だ。
「役になりきれておらんぞ、道化」
ロレイン……貴方の様に愛に生きた人を、他に私は知りません
夜闇の山頂で一瞬の閃光が光る。
「親より先に子が逝くなんて不幸、このエン爺が許しません」
「………直ぐに行く、アイツによろしく頼むぜ」
別れ際での最後の会話
たった一人、親と思えた人を彼は無くしたのだ。
ロレインは、シュラ隊を率いてグランデルニア軍本陣の野営地へと向かう。
グランデルニア軍の野営地は、堀のある道にあって恰好の的だった。
気づく頃には遅く、グランデルニア本陣はロレイン達に包囲されていた。
敵襲の警笛に目を覚まして、グランデルニア王が天幕から外に出る。
目前には、火花を散らし高所でこちらを見下ろすロレインがいた。
「……どういう事だ!!!」
「チェックメイトだぜ、グランデルニアの王よ」
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本日は三話更新します。
よろしくお願いします。
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