第二章 十二節
フォーグは宮廷騎士の指南役に設けられた部屋で、ゆっくりと起床した。
鍛え抜かれた体をほぐしながら、昨夜連れて来た不良のガキの様子を見に行く。
「入るぞ、ガキの様子は……」
治療室に入ると、医者のお爺さんは縛り上げられていた。
どうやら、あのガキは窓から逃走したらしい。
「と言う訳で、お前等見つけて連れてこい」
午前の授業終わり、フォーグは自分の生徒にロレインを連れてくるよう命令した。
「な、何でそうなった?」
「め、面倒くさいからでしょう」
「今さっき危険だって言って無かったか?」
生徒達も困惑しているようだ。
「いい機会だ、裏の世界に生きてきたあのガキは、実戦経験に似たものを経験している。十分に危険だが刺激になるだろう。ほら行った、行った」
フォーグに送り出され、少年時代のアルフレッド、オーウェン、ペアレスは話にあったティタンジェルの街の路地裏に来た。
路地裏は、ジメジメしていておよそ人の住む場所には見えなかった。
高い街を守る壁で陽の光が遮られたこの場所には、多くの痩せ細った人達で溢れている。
「おい、もう帰ろうぜ。見つからなかったって言えばいいだろう」
「落ち着いてくださいペアレス。まだ付いて間もないですよ」
「確か白い髪に、赤い目が特徴だったよな」
アルフレッドとオーウェンは、ペアレスをなだめながら路地を周った。
チュウチュウと溝鼠が逃げていくのが見えた。
「しっし、あっち行け」
子供だ。僕達と同い年位の。
行こう、と三人で走る。
そこは、子供心がくすぐられる場所だった。
ガラクタの集まりだが、雨風が凌げる屋根や壁、ボロボロだけど使える様に直したソファー、腐った本棚。
秘密基地だ。と三人は目を輝かせた。
「おい、小綺麗なガキが此処に何の用だ?」
アルフレッド達三人より大きい男の子が、後ろに立っていた。
いや、他にもゾロゾロと出て来る。
「……ロレインって子に用があって」
「リーダーに?」
ザワザワと出て来た子供達が騒ぎ始める。
「コイツは預かる。待ってろ、リーダーに話を聞いて来る」
ペアレスが子供達に捕まえられ、大きな男の子は秘密基地に入って行った。
少し経つと中からお呼びがかかった。
秘密基地の中は、綺麗だった。天井にはランプがあって明るく、小さな煙突が繋がっていて厨房もあるようだ。
「リーダー連れてきました」
リーダーと呼ばれる子は、教えられた通りの白い髪の少年だ。
包帯で来るまれていても綺麗な顔をしていると分かる。まるで貴族の人の様だ。
「何の用だ?昨夜のジジィ関係だろ?」
白い髪の少年は、子供ながらに堂々としている。
「うん、そうだよ。先生が君を連れてこいって」
アルフレッドが答える。
「ふーん、訳は?」
「多分、君を教える為じゃないかな」
「どういう事だ?」
「僕達は、騎士見習いなんだ。あのめんどくさがり屋の先生が連れてこいって言うんだもの、きっと君を見込んでの事だと思うよ。楽しい場所さ、一緒に騎士になろうよ」
「きっと、そうですね。悪い様にはしないと思いますよ」
最後にオーウェンも付け足す。
ロレインは考える素振りを見せた後、待ってろ、と席を外した。
ここの時の記憶をアルフレッドはよく覚えている、黒髪の女の子がロレインに泣きついていたのを。
ロレインはキュネと一つだけ約束して路地裏を出て行った。
「おークソガキ、帰って来たか」
「ただ飯食いに来ただけだ。クソジジィ」
騎士見習いになったロレインはその才能を生かしていった。
授業態度が悪すぎて先生達には嫌われていたが、皆が彼を認めた天才だと。
たった二年でロレインはアルフレッド達に並ぶほどの知識を吸収した。
17歳となったアルフレッド達は騎士の叙任式を受けて遥々騎士となった。
アルフレッド達はフォーグが団長を務める白竜騎士団に入ったが、ロレインは自分に合わないと白虎騎士団に入団した。
「ロレインがそんな生まれで騎士になったなんて……」
後から聞いた話、エン爺は宮廷にいた医者だったと言う。
何かの縁と言って、家族のいないロレインを養子にとって騎士になる為のお金を払っていたんだそうだ。
初対面で縛り上げられたのになんて良い人なんだ。
「それからだ、それからの三年。若はずっと楽しそうだった」
キュネは言葉と違って悲しそうに話を続けた。
白虎騎士団に入団したロレインは、路地裏に帰って来た。
そこには、二年前の子供染みた秘密基地はもう無く代わりに少し立派な家が建っていた。
「帰ったぞ、お前等」
キュネはロレインとの約束を二年間守り続けたのだ。
約束はこうだ。
「俺は此処を出て行くことにした。急で悪いな」
ボロボロの顔で作り笑いをするロレイン。
いつもそうだった。私がいくら頑張っても…いや誰とでもロレインは本気で笑った事なんて一度も無い。それでもロレインと会えないなんて嫌、いつかロレインが本気で笑えるようにしたい。
「帰って来る?」
「さぁな」
「約束して、また此処に帰って来るって」
「……わーったよ」
「私待ってるから!!」
キュネは何度も諦めようとした。が、あの酒場でロレインを置いて逃げた罪悪感からこの約束だけは果たそうと努力した。
「ロレイン!!ずっと待ってた」
キュネは我慢できずロレインの胸に飛び込んだ。
再会の嬉しさで涙が零れる。
「お前等は変わらねぇな、此処から出るぞ。付いてこい」
白い髪の少年は青年に成長しながら、多くの者を魅了していった。
だが、青年は少年時代の快楽に囚われたままだった。路地裏を出てもその快楽はアカの様にベッタリとこびり付いてとれない。
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まだ投稿します。
よろしくお願いします。
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