第二章 十一節
聖暦976年ロレイン11歳、生まれは輝かしい首都ティタンジェルの裏の世界。
湿気た路地裏で生を受けた少年の両親は日陰者だった。
「酒、オラ!!さっさと持ってこい!!気持ちわりぃガキだ…」
「……」
父は、仕事を持たない、ただの飲んだくれ。
母は、息子に手を上げる父を見て見ぬ振りをする屑だった。
二人は自分達と違い、白い髪と赤い瞳を持って生まれた子を忌み嫌っていた。
ある日、少年は父に向かって、父のやる事をそっくりそのまま返してみた。
パンと良い音が、かび臭い部屋に響く
気持ちが良かった。
ああ、父が暴力を振るう理由がやっと分かった気がした。
怒った父が、禿げ頭に血管を浮かべて真っ赤になった。
今までにないくらい殴って来たけど、少年は楽しかった。理由は快楽を知ったから。
疲れて倒れるまで殴り合った。
父も疲れて横になったが、少年は少し休憩してからフラフラと立ち上がる。
まだ遊びたりない。
前から気になっていた。
母が、父を唯一止めたアレ。
台所のベッタリとアカがついた排水口、食器が沢山ある中で鋭利な刃物を手に取る。
「やめて、来ないで!!」
それをまず止めようとした母に振り下ろした。真っ赤な水が噴き出た。噴水だ。前に宮廷に在ったのを見たことがある。でも違った所がある。これは温かい。ぬくい。
その日は、母の温もりに包まれて眠った。
起きたのは直ぐ、父の悲鳴でだった。
「お前がやったのか?……この化け物め!!」
「なんでだよ?アンタだって俺に同じ事をしようとしただろ?何だっけ、蛙の子は蛙の子?ん?違うか?」
父は、部屋にあった物を投げつけて来た。近づいたら逃げるから、楽しくなって追いかけまわした。
狭い通路を走り回って、飽きたら父の足を包丁で切った。
母と違って父は、弾力があった。
石畳にズリズリと赤い色を塗りたくって這いずり回る父を、ロレインは見下ろしていた。
無防備な背中に、包丁を振り降ろす。
翌日、人家の間の狭い通路で二人の夫婦の遺体が発見される。
大国のお偉いさん達は、日陰者に関心が無い。結局は自警団が遺体を処理しただけだった。
ロレインは11にして自由になった。
街に出て、人を観察した。その中で自分の知るモノに出逢ったのだ。
一人の女の子を殴ってイジメる男の子達がいた。
歳は近い、一緒に遊べる。そう思ってロレインは女の子を殴る男の子の顔を思い切り殴った。
「何だ!?コイツ」
始めのうちは、男の子達もやり返してきたがロレインの手加減の無さに怯えて逃げて行った。
「何だよ、つまんねー」
「あ、ありがとう」
イジメられていた女の子は、涙を流しながら感謝した。
「何がだ?てかお前もアイツ等殴ってみろよ、楽しいぞ」
「えっ……」
ロレインは無意識に父から暴力を受けていた自分と女の子を重ねていた。
「俺はロレイン。女、名前は?」
「わ、私はキュネ。よ、よろしく」
艶やかな長い黒髪をした女の子は、少年に初めての恋をした。
キュネは貧しい家の娘だったが、辛うじて生きて行ける生活をしている。
それから日々、ロレインはキュネに戦い方を教えた。一人の時は生きる為に窃盗、強盗何でもやった。罪悪感なんてものは初めから無かった気がする。
そんな毎日を繰り返していく内、ロレインの下に付く者達が現れ始めた。
首都ティタンジェルの裏の世界は、弱い者達は強き者に媚びていないと生きてはいけない。
聖暦980年 ロレインが15になった年。
街に奴隷商が繁盛しだした。この時期は、他大国との戦争が続いて奴隷が大量に流れて来ていた。金のある者達が奴隷を買いに裏の街にも出て来る。
ロレイン達はこの機を逃さなかった。
奴隷商も客もどちらも襲った。
運悪く捕まって半殺しにされた奴も中にはいた。
ロレインは何もしていなくても目立つ、髪や目が人とは違うからだ。
隠していても、悪事を繰り返す度に、知らずに有名になっていった。
この頃ロレインをリーダーとする集団は、小隊レベルの数に膨れていた。
「最近見回りが多くて盗めやしねー」
使われなくなった家具を集めた秘密基地で、下の奴等がぼやいている。
我儘な奴等だ。最近までゴミを漁って食べていたというのに、少し贅沢をしたらそれに染まってしまう。
「リーダーどうすれば良い?」
破れたソファーでキュネに膝枕されるロレインに、助言が求められる。
「どうすれば良いって、そのまま盗めばいいだろ?」
「だから、見回りがいるんだって!!」
「一人じゃ無理なら大勢でやれ」
「ああ、なるほど」
ロレイン達は、治安維持の為の自警団にもひるまなかった。
しかし、これが原因でロレインの人生が大きく変わる事になる。
とある日の夜更け、酒屋で酔った商人二人を襲った時だった。
「クソガキ共、運が悪かったな。フォーグ頼むぜ」
太った男が笑う。
もう一人の連れが前に出て、外套から剣を取り出した。
「コイツ等が噂のガキ集団か……」
クソ、一人は護衛だったか。悪人面で気づかなかったぜ。
顎で短く揃えられた髭を弄りながら、フォーグと呼ばれた男がロレイン達ににじり寄る。
ロレインは、男が纏うオーラにただならぬモノを感じた。
「お前等、バラバラに逃げろ。このオッサンは俺がヤる」
腰に隠し持っていた、包丁を構える。
下の奴等はロレインを残して一斉に逃げた。太った男には捕まらないだろう。
「ロレイン!!」
一人自分よりもロレインを心配する少女がいた。キュネだ。
「心配すんな、すぐ行く」
「仲間を守って、自分だけ戦うね。そんな奴今の騎士に何人いるかねー」
男が鞘から剣を抜こうとする。その隙を狙ってロレインは男に飛び込んだ。
「行け!!」
キュネは涙に頬を濡らしながら夜の闇に消えて行った。
「ガキ、お前中々の腕だぜ。街の奴等じゃ手に負えないのも納得だ」
全く息を切らしていない男は、下に倒れるロレインに言う。
完敗だった。まるで相手にされなかった。
「クソジジィが、褒められても嬉しくねぇよ」
口の中が鉄の味でいっぱいだ。
こんなの親がいた頃以来だぜ。
「まだ意識あんのか、結構強めに殴ったんだがな」
大人気ねぇな、クソ
意識が薄れゆく中、悔し紛れの言葉を吐いてロレインは眠りに落ちた。
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一時間後、また更新します。
よろしくお願いします。
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