第二章 十節

オードリ城の城壁に吊り篭が数本吊るされた。


中には、この極寒の地で死刑宣告を受けた丸裸な男達がいた。この者達は、白冥騎士団がオードリ城に来る際出逢った近隣住民だ。


城で起きた殺人事件の犯人の可能性を踏まえ、見せしめになったのである。




男達は逃げれぬ様に手足のけんが切られている。中には出逢った時に争った怪我をそのままにされている者もいた。




傷から垂れる血が真っ赤な氷柱となって男達は凍死した。








オードリ城の客間にロレインとその補佐達が通され、温かいコーヒーで出迎えられた。




「内通者だと!?」




アルフレッドはリディ達に事情を聞いて声を上げた。




「まだハッキリとは分かっていない。若がそう言ったんだ」




「事情は分かった。だが、何で僕の所に来た?」




「それは」




分からない、とリディが言おうとした。




「理由は、コイツしかいないだろ?」




夜明けに叩き起こされ、夢うつつのサラを片手にロレインが答える。




「詳しく聞かせてくれ」




「ただの推測だ。俺達は今世界から注目されている。事の発端はグランデルニア、アイツ等は今まで他国を焚きつけ攻撃してきた。理由はこの女を取り戻す為、だから用心して来た訳だ」




「内通者が、グランデルニアの者かも知れないってことか…」




「いや、決めつけるのは早い。内通者ってのは伝令兵の情報を盗った時点で確定だがな。今言ったろ、世界から俺達は注目されてるってな」




敵は大きく、そして多い。


そんな中で味方にも敵が潜んでいるなんて




「まぁ、時間の問題だ」




ロレインがサラをキュネに渡す。




「どういう事だ?」




「昨夜、雪は余り振っていなかった。途中風も止んでな、謎の足跡を見つけたんだ。この背後の森に続くな」




ロレインは後ろの窓に映る森を指さし、続ける。




「既に捜索隊を出している。俺達はそれまで気長に待てばいい」




「そうか……」




朝になって、アルフレッド達も外に捜索に出た。


その時になって城壁の吊り篭に気づくことになった。




「ロレイン!!何度言えば分かるんだ!!」




ロレインの襟を掴んでアルフレッドが激高する。




「苦しいじゃねーか、何で怒ってんだ?お前」




「アルフレッド!!若を離せ!!」




リディがアルフレッドを止めようとする、がアルフレッドの騎馬隊副隊長のフェリックスが立ちはだかる。




「犯人の疑いのある者でも殺す事は無いだろう!!」




「俺達は百騎も満たない人数で来たんだ、疑いのある者を殺さずに雪の降る暗がりで見逃さない保証は無かった」




「くっ……」




アルフレッドが掴んだ襟を離す。


ロレインは襟を直して森に向かって行く、すると後ろからザクザクと雪を潰して走る音が聞こえて来た。




「アルフレッド~」




足音の正体はサラだった。




「サラ!!ダメだよ、森は危険なんだ」




「大丈夫だよ、キュネが近くにいてくれるもん」




ほら、とサラは後ろを向いた時に見てしまった。


吊り篭に入った凍死体達の惨たらしい姿を、死体は腐らずに青白く変色している。吊り篭から滴れた血の氷柱が伸びて並ぶ光景は怪物の牙を思わせる。




「へっ…何これ?……」




「見ちゃダメだ!!」




サラに駆け寄って、視界を遮る。


サラの目はキョロキョロと泳いで、体は防寒着を着ながらもガタガタと大きく震え出した。




「サラ!!サラ!!気をしっかり!!」




「あ…」




プツリと糸が切れる様にサラは倒れてしまった。




「フェリックス、一応サラの部屋に医者を呼んでくれ」




「了解しました、隊長…上のこれも…外しますか?」




フェリックスが眉を潜めて上にぶら下がる吊り篭を見る。




「ああ、頼めるか?」




コクリと無言でフェリックスは頷く。


少し遅れてキュネが来る。




「来て早々に悪いが…」




「何があったの?」




キュネに事情を話してからサラを寝室に寝かした。


部屋を暖かくして、起きたら気分が落ち着く様に白湯を用意する。




医者として呼ばれたのは、エン爺だった。


倒れた原因は、極めて強い恐怖からのパニック発作との事だ。少し眠っていれば起きるから安心して、とアルフレッドがなだめられる結果になった。




フェリックス達には悪いと思うが部下達と共に吊り篭の処分を任せた。




夕方になってサラは目を覚ました。


トラウマになってしまわないかと心配したがサラは冷静だった。




「気分はどう?はい、これ熱いから気を付けて」




サラに白湯を入れたコップを手渡す。




「ありがとう……アレさ、あんな酷い事がいっぱいあるの?」




「……うん」




「私の……せい?」




サラは歯を食いしばって言う




「違うよ、サラだけの問題じゃない。これはもっと複雑な…何かだよ」




言葉に出来ないが、裏には何か大きな物が渦巻いている気がする。




コンコン、とドアがノックされ返事を返すとフェリックスが部屋に入って来た。




「……丁寧に処理しました。それと差し出がましいですが、隊長…騎士団の団長とは言え、彼の行動は以前から度が過ぎています。フォーグ団長に相談された方が……」




綺麗に丸く刈られた頭を抱えて、フェリックスは苦しそうに提案してくる。




「そう、だな……」




「待って……」




「「!?」」




サラがそれに待ったをかけた。




「お言葉ですが、サラさん。これの何処に疑問があるのですか!?」




「落ち着けフェリックス、確かにサラどういう事か聞かせてくれるかい?」




声を荒げるフェリックスを抑制してサラに問いかける。




「凄く怖い光景だった、あれをやったのがロレインだって事も分かる。前の戦争ではもっと酷い事をしたのも聞いた。けれど、どうしても、アイツがただの悪い奴とは思えないの」




ギュッとサラは布団を握り締める。




気持は分かる。僕は子供の頃からロレインを知っている。けれど奴をここまで狂わせた原因がまるで分からない。




「ただの悪い奴じゃあないさ、アイツは異常者だ。狂っている!!」




「そこまでよ坊主……。サラ貴方の言う通り。若は悪人じゃあない、話してあげる。若がどれほど優しい人なのか」




「ふっふっふ、私も入れて貰えますかな」




部屋の入口で、フェリックスの後頭部にナイフを構えるキュネ、その隣にはエン爺の姿もあった。




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まだ一時間事に更新します。

よろしくお願いします。

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