第一章 四節

もう戦争は始まっているのだろうか?

サラは、部屋の窓からアルフレッドが出陣した城門を眺める。


無事に帰って来てね…。


サラは初めて経験する気持ちにどうすればいいか分からなかった。命をかけて戦場に旅たつ人を待つ心のざわつきに、無意識に祈っていた。




開戦の朝方。紺碧の空をアルフレッドは見上げていた。

平原を埋め尽くす兵士の数、この中の何人が生き残り死んでゆくのか。そんな憂鬱とした気分を吹き飛ばすかのように後ろから馬の駆け音が近づいて来る。


「よう、ビビってるか?」


「君にも優しい所があるんだなロレイン」


「これが最後かも知れねーからな」


「縁起でもない事を言わないで下さいロレイン。それと、お久しぶりです。アルフレッド」


「久しぶりだな!!兄弟!!」


「おー、オーウェンにペアレス!!本当に久しぶりだな」


アルフレッドのいるテントに顔を出しに来たのはロレインとかつての同期だった。


アルフレッドが騎士見習いだった頃、共に切磋琢磨した仲間達。

地方に遠征に出ていたオーウェン、ペアレスとは騎士になって以来の再会だった。


「それじゃあな、俺はやることがある」


「ああ、武運を祈る」


いつも通り鼻で笑い去って行くロレイン。

それを見てオーウェンが不思議な事を言う。


「心配でしたが、元気そうで良かったですよ」


「ん?何がだ。オーウェン」


「えっ、聞いていないのですか?」


「しまった」と茶髪のくせ毛を掻くオーウェン。


「すみません気にしないで下さい」


「?」


不思議と首を傾げていると肩をペアレスに組まれる。


「そういや、聞いたぞ兄弟。お前女が出来たそうじゃねーか」


「な、誰から聞いたんだよ!!それ!!」


小指を立てながらニヤニヤとイヤらしい顔で迫るペアレス。


「ほう、否定しないんですね…」


「オーウェンまで!!」


細い目をしながらウンウン、と頷くオーウェン。


「違うんだ。その子はグランデルニアの人で捕虜だよ。事情があって俺が見張ってんの」


「へー、でも噂になってたよなオーウェン」


「ええ、あのイケメン紳士なアルフレッド様に女が!!と宮廷の婦人たちが騒いでいました」


「なんか疲れたな…」


楽しいひと時も束の間、ブオーと各地で開戦直前の知らせが鳴る。


「これはいけない。それではアルフレッド、ペアレス。御武運を」


「ああ、兄弟達また祝杯を挙げる時にな」


「そうだな、勝ってまた語り合おう」




パレディア城を目指し迫りくるミケア軍は約二万。

相対すレグネッセス軍は一万と五千。


「来たぞ、弓兵準備に取り掛かれ」


最前線の指揮を担当するオスカー副団長が馬にまたがり兜を被る。

その瞳が睨む先には、ミケア大国の影が少しずつ近づいていた。




ミケア軍指揮官ホルコーン将軍は、槍の達人として知られる。

信仰厚きミケアの国は温厚な人々が多い、故に慎重で落ち着いている事が常だ。

しかし、聖典に記される巫女を奪還する為と指揮は爆発していた。その為、攻城戦の道具を運んでいるというのに進行の足は速かった。


ホルコーンはこの戦に自信があった。自信の源は攻城戦の為に運んできた最新武器の数々からである。


だが、今歩兵達がぶつかる重要な時、視界の右端にホルコーンは信じられないモノを捕らえる事になる。


「ぬ…あれは…」


レグネッセス軍左翼を担う白虎騎士団の小隊がある仕掛けを施していたのである。


「ロレインの兄貴、ホントに食いつくんですか?女一人に」


「まぁ、見てろ」


それは、処刑台に似た物であった。そこにサラの特徴に合った一人の女を貼り付けにして目立つ場所に建てていたのだ。


「レグネッセスの下種共が!!切り込み隊百騎右前方に見える巫女を救い出せ!!」


「……食いついたな」


ロレインは、グランデルニアがミケアにサラの存在を伝えている事を逆手取りこの策を練っていた。それにまんまとホルコーン将軍はかかってしまったのだ。


「後ろの森に注意を払っておけ、なんてひどい事をするんだ」


切り込み隊が貼り付け台を包囲し、兵が吊るされた少女を降ろそうと手を伸ばした。


「おい、人のもんに勝手に触んなよ」


「お前、一体何処から!?」


突如として現れたロレインにミケア兵の首が切り落とされる。

次いで、甲高い笛の音が響く。それが合図だったのか背後の森からわんさかと伏兵が現れた。


「切り込み隊長囲まれます!!」


「ええい、援軍が来るまで持ちこたえろここは目立つ!!それまでに巫女をお助けするのだ!!」


「本物連れて来る訳ねーだろーが。おい、そこの隊長生け捕りな」


ロレインが突如現れた仕掛けは簡単だった。貼り付け台の下に十数人が入れる空間があったのだ。




一方、レグネッセス軍中央では歩兵達が苛烈な死闘を繰り広げていた。

そこを援護するべく右翼から騎馬隊が攻撃を仕掛けている。


その中にはアルフレッドがいた。


「左で何かあったのか!?」


「気を抜くな!!どちらにせよ、敵の注意が彼方に向いている今がチャンスだ。一気に敵本陣までの道を切り開く」


騎馬隊の隊長アイラが号令を出す。

アイラ隊長は女性だ。しかもとっても美人である。それが影響してかこの隊の志気はいつも変わらず高い。


「了解!!」


と、隊が動き出した時だった。

号令を出したアイラ隊長を狙い弓を構える兵が一人


「隊長!!危ない!!」


咄嗟に自身の馬を隊長が乗る馬にぶつける。

衝撃で馬がよろけた。


「どうした、アルフレッド。お前!!」


胸に大きな衝撃が走る。


「あっ…」


そこには一本の矢が刺さっていた。




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次で本日の投稿は終わりです。

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