第一章 三節

ミケア大帝国進行を受けレグネッセスは、国の両翼である白竜騎士団と白虎騎士団を王宮に招集した。


首都ティタンジェルの賑やかな大都市に位置する王宮は、外観と内装共に豪華絢爛である。煌びやかに光る装飾、細やかな高級品が並べて在り自身がこの場にはそぐわないのではないかと浮つく。


その場には、あのロレインの姿があった。


「ようアルフレッド、女も一緒か」


「君も呼び出されていたとはな、それと女女言うな彼女の名はサラだ」


隣でサラは、ロレインに向かって下瞼を下げてべーっと舌を出している。


「交渉処の話じゃなくなっちまったな。俺は隊を任される事になった。アルフレッドお前も呑気にしてんなよ」


「流石だな、努力しよう」


「それと女、俺は嘘を吐く奴は大抵分かる。お前に不思議な力があるって話マジか?」


ガシッとサラの後頭部を掴んでジッと眼を見るロレイン


「ちょ、ロレイン!!」


周りにいた騎士達がざわつく中、ピクリとも動かずサラを見つめるロレイン。

サラは、と言うと驚きのあまり震えて目が泳いでしまっていた。


「フフッ、面白くなって来やがった」


ロレインは別れも言わずに部下達であろう者達を連れ何処かに行ってしまった。


「大丈夫かい?サラ」


「私あの人嫌い!!」


ふんす!と言う擬音が似合う、そんな怒り方をするサラであった。




王との御前会議を終えフォーグ団長は早速騎士達を集め事の次第を語った。


「ミケアは、レグネッセスにアフマ教に置ける大事な巫女が捕まっていると言っているらしい。その者を返さない限り進行を続けると」


「戦争を仕掛ける売り文句でしょう」


白竜騎士団副団長を務めるオスカーが話に割って入る。


「して、戦場は?」


「パレディアだ。拠点化して間もない城とは言え奴等は戦争に慣れていない、お前等此処でしっかり武功を上げとけ」


オーと若い騎士達が盛り上がる中、アルフレッドはただ事では無いと震えた。


ロレインの言葉から察するに、グランデルニアがミケアを焚きつけレグネッセスに戦争を仕掛けさせた。


サラの力は本物だと信じざるを得ない。


「どうしたの?アルフレッド、怖いの?」


「ああ、すまない。大丈夫だよ」


「本当に?」


「いや、正直に言って戦争は怖いよ。自分一人だけだったら何とも無かったけれど今は君もいるしね」


「う、うん……」


サラを安心させようと言った言葉が、誤解を生む発言になった事に気づき慌ててアルフレッドは訂正する。


「ああ違うんだ、えーとほらロレインとかいるしさ」


「ううん、ありがと。私が無事を祈っているから安心してよ」


「それは心強いや」


アルフレッドは揺れていた。彼女の力が本当ならば戦争なんてしなくてもいいのではと。しかし、サラは力を使う事を望んでいない。


パレディアに帰り開戦前日になろうともそれはアルフレッドを悩ませた。


「サラすまない。話があるんだ開けてくれるかい?」


「ん、どしたの?わっ」


長い話になると思い、紅茶の入ったティーポットに二つのティーカップをトレイに乗せサラの部屋(元アルフレッドの部屋)を尋ねた。


まぁ監視役なので定期的に来ているのだけれど。


「綺麗だし、何より良い香り」


「サラに合うか心配だったからグランデルニアの紅茶にしたよ」


すると、ゲーと見るからに嫌そうな顔をするサラ


「そんな嫌そうな顔しないで、更に嫌な話になるかも知れないから」


「えっ」


ササっと部屋の端に逃げるサラ


「違うよ、ちゃんとした話。君の力について」


「……」


アルフレッドは机にトレイを置いて二つのティーカップに紅茶を注いだ。

赤い血の様な色が、明日の戦場を思わせる。


サラと向き合う様に座り、一口紅茶を飲み、話始める。


「明日、ここから数キロ離れた場所で戦う事になったよ」


「そう…」


「情けない話だけどさ、まだ僕は一度しか戦を経験していない。怖気づいている」


ティーカップを持つ右腕が震えて来る。


「情けなくなんか無いよ」


「有難う、けれど怖いんだ。初陣を飾ったあの日からずっと罪悪感が僕を包んで離さない」


人を殺めた感触と実感、次死ぬのは自分なのでは無いかと恐怖が思考を覆い尽くす。


「だから…」


彼女は力を使う事を望んでいない。


「うん…」


サラは何かを悟った様に寂しい表情をしていた。


「……ゴメン、最低な事を言おうとした。許して欲しい、弱気になっていた」


「えっ…」


サラは驚いた様にポカンと口を開けた。


「何で?」


俯いているアルフレッドにサラは再び問いただす。


「何で?私に頼まなかったの?」


「何で、って…君を道具としか見ていない人間だと思われたくないから」


「ふーん、じゃあなんて頼もうとしたの?それを教えてくれたら許してあげる」


「それは、世界…平和?とか…」


「へ?……ぷっ、アハハハ」


サラが吹き出して大声で笑うものだからアルフレッドは恥ずかしくなって赤面する。


「なっ、笑うこと無いじゃんか!!」


「ゴメンゴメン、てっきりもっと自分勝手な願いを言うと思ったから」


「なんだよ、じゃあ。ただの好奇心、君なら叶えられる?世界平和?」


「出来ると思うよ、ただどうなるか分からない」


「と言うと」


「あくまで叶えるのは私であって、どうしても私基準で願いは叶ってしまう。だから本当に私が世界平和を叶えたら、無意識に敵と判断している人、国そのものが消えてしまう可能性がある」


「大それた事や複雑な願いは、それだけ危険な訳か」


「そうだね」


「なら、何が合っても君を守らなくちゃな…」


腕を組んで考え込むアルフレッドが、ふと青くさい事を言ったので今度はサラが赤くなる。


「な…たまに恥ずかしい事を言うよねアルフレッドって」


「ん?何か言った?」


「何でもない…」


むーと唸りながら頬を赤らめるサラを置いてアルフレッドは考えた。


もし敵国がサラに無理やり願いを叶えさせたとしたら……最悪を考えよう、望むとするなら侵略…世界征服といった所か。


脳裏に、戦場や暴行、略奪といった景色が横切る。


「有難うサラ、僕は自分の命が奪われる恐怖でいっぱいだった。でも君を守るという事で国の名誉、国民達といったもっと多くの守るモノに気づかされたよ」


「う…うん」


冷たくなった紅茶を飲みほして、出陣時間になるまでそれからは他愛もない話を続けた。




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