第一章 二節
「パレディア城がレグネッセスに落ちました!!」
レグネッセスの隣国にある大国グランデルニアに凶報が届く。
「あそこは、願いを叶える巫女が居たのでは?」
「敵の手に落ちたとあれば…」
「だからあれ程注意していたのだ!!」
落城の知らせに王宮がざわつく中、王の咳払いが木霊した。
先程まで声を大に言い争っていた大臣が一斉に静まる。
「余に良い考えがある」
パレディア城を陥落させてから一週間、レグネッセス軍の拠点と化した城にグランデルニアから使者が来た。
「グランデルニアから交渉?ですか」
「ああ、皆を集めろ。説明はそれからだ」
白竜騎士団の団長フォーグが騎士を緊急で集め、事を説明しだした。
「グランデルニアの使者からだ、今から言う特徴の女に身代金…というか城一つと交換したいとの事だ」
「城一つ」と皆が驚きを隠せない中、フォーグは説明を続けた。
「良く聞けよ、名はサラ!性別女!歳は15!特徴は金髪で長さは肩ほど目の色は青だそうだ。見つけ次第俺まで報告しろ。以上!!」
解散と同時に騎士達は、報酬目当てに駆けだした。
その中で一人ポツンとアルフレッドは立ち尽くす。
間違いない…
「どうした、アルフレッド」
「い、いやそれが」
此処で隠す理由も無いし、白虎騎士団の者達にもサラは知られている。
母国に帰れるならサラは嬉しいはずだし、なにより城が一つ血を流さずとも手に入るんだ。
「フォーグ団長、その子知っています」
保護との事で、アルフレッドは自室をサラに貸し与えている。
連れてこいとの事でアルフレッドは自室に居るサラに事情を話した。
「良かったじゃないか、これで母国に」
「良くない、私は帰りたくない!」
サラはアルフレッドの言葉を遮りそれを否定した。
「どうしてだい?」
「あの国は、私を道具としか見ていないから…」
「道具って…」
それは、彼女に城一つ程の価値があるのと関係が在る筈。
「信じられないと思うけど、私には不思議な力があるの」
「不思議な力?」
サラはコクリと頷いて続ける。
「ねぇ、アルフレッド私の首に剣の刃を当ててみてよ」
「急に何を!?」
「出来ない?」
「レディに、そんな事…例え王の命でもお断りするよ」
「ゴメンなさい。そんな貴方だから、お願い…」
どんな事を言われようと、騎士にあるまじき行為をする訳にはいかない。
そうキッパリ断ろうとした途端、アルフレッドは腰に差していた剣を抜いてサラの首に構えた。
「本当にゴメンなさい。貴方を操るような真似をして」
「これは…」
自分の体がまるで違うモノになったように言う事を効かない。
サラの首からはツーっと血が滴り落ちる。
「信じて貰えた?これが私の力」
「分かった、分かったから自由にしてくれ、血が!!」
フッと体の自由が戻り、アルフレッドは尻餅を着いた。
「強力な催眠術!?」
「そんな、可愛いモノじゃないわ。私の力は願いを叶える力」
「し、信じられない…」
「さっき分かったって言ったじゃない、それじゃあ」
アルフレッドは立ち上がり、サラの首の傷を見ようとハンカチで血を拭いた。が、そこには傷は無かった。
「にわかに信じられないが、グランデルニアの交渉もある」
「私は、普通に生きたいだけなの!!帰らないわ」
「……分かった。けれど、一緒に来てくれ」
フォーグ団長には、サラが交渉に応じたくない意志だけを伝えた。
「まぁ、その子は城一つ差し出す程の重要人物だ、様子見だな」
とりあえず直ぐに見つかって良かった。と引き続きサラを見て置く様アルフレッドは監視役を命じられる事になった。
帰り際にフォーグ団長は「彼女の事をなるべく調べておけ」と僕に耳打ちした。
と言っても、このまま知らせては僕がおかしくなったと思われるだけだ。
どうすればいい?
部屋の中で、クルクル踊る彼女を見ながらフォーグ団長にどう伝えようか頭を悩ませていると、ドアがノックされると同時に開かれる。
「よう、アルフレッド。ソイツが例の女か?」
「ロレイン!!」
ロレインは、白虎騎士団の騎士であり子供時代からの腐れ縁だ。
冴え冴えとした白い髪を揺らし、血を思わせる真っ赤な瞳がサラを捕らえた。
「ほう…」
ロレインは、ズカズカと部屋に入って来てはサラを壁に追い詰める。
「待て、何用だ!!」
「グランデルニアが城一個と交渉する女ってのを見に来たんだよ。お前に用はねぇ」
ロレインは指で軽くサラの顎を掴んでクイッと自身に近づける。
「良い眼をしてるな、女」
「嫌、放して」
ギラッとロレインを睨むサラ。
我慢できず、アルフレッドはロレインの肩を掴んだ。
「いい加減にしろロレイン!!僕は彼女の身辺警護も任されているんだ」
「フッ、白竜騎士団だけに任せて溜まるかってんで俺が呼ばれたんだよ」
「そうか、分かったから彼女を離せ」
パッとロレインがサラを離すとサラはアルフレッドの背に隠れてしまった。
「随分と気に入られてるな、まぁお前なら任せて心配ねぇだろ」
「そうだ、お前達よりはマシだ」
ロレインは部屋のベッドに腰かけ長い足を組む。
「まだ、何か用か」
「そう身構えんなよ、ガキの頃からの馴染みだ。話してやる」
背に庇うサラに頷いて、アルフレッドは警戒を解く。
「話って?」
「ああ、さっき入って来た話だ。ミケアがウチに攻めに来るって話」
レグネッセス、グランデルニアと並ぶ七大国の一つミケア大帝国。
ミケアはアフマ教と呼ばれる宗教を厚く信仰する宗教国家だ。
「何でミケアが!?あの国は、よほどの理由がない限り戦争なんて」
「潜入してる奴の話じゃグランデルニアが噛んでるらしい、なぁ女、お前何か知ってるんじゃないか?」
ロレインに話を振られたサラは、そんな話知らない。とそっぽを向いた。
「フッ、まぁいい。そんだけだ」
「おい、監視を任されたんじゃ!?」
「またな」
ロレインはそう言って部屋からさっさと出て行った。
そんな……交渉どころの話じゃないぞ
次にロレインと出会ったのは、彼が言った通りミケア大帝国進行の為招集された王宮での事だった。
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~本日五節まで投稿します。よろしくお願いします。
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