レグネッセス大国物語

クマガラス

第一章 願いの受け皿

暗黒時代。


レグネッセス大国が衰退する少し前、光明とは言えずともその時代を支えた騎士達と願いを叶える少女の物語。


七つの大国が覇を競う世界、その一国レグネッセスには比類なき騎士団があった。それが、白竜騎士団。物語は、白竜騎士団に所属する青年アルフレッドが初陣を飾り少女が心に助けを祈った時に始まる。






聖歴990年


まだ寒さが残る日だった。


隣国グランデルニア大国での攻城戦。城門を攻城槌が破壊し、アルフレッド達は敵城になだれ込んだ。




「全ての城門を開けるぞ!!」




城門が開いてからはあっという間だった。


敵は補給路が断たれていたので城内は枯葉の様に干からびていた。




城が落ち、拠点化が行われる中でアルフレッドは城内で迷ってしまった。




「おかしいな、此処は一体何処だ?」




アーチ状の古い廊下を一人歩いていると、奥からシクシクと泣き声が聞こえて来た。




誰かが泣いている。




城攻めをした自分達が原因だと考えたが、アルフレッドは泣き声がする方へ走った。




泣き声の主は、隣の部屋へと続く扉の近くに蹲っていた。




「大丈夫かい?」




アルフレッドの声にビクッと身を震わせる少女は、酷く怯えていた。




「酷い事はしないよ、僕はアルフレッド。君の名前は?」




少女は涙で腫れた顔をゆっくりと上げた。




陽の光の様なブロンド髪に青空の瞳が特徴的な彼女は、どこか寂し気で今にも消え入りそうだった。




「サラ…」




「よろしくサラ。此処は危ない、さぁ」




サラは首を振ってまた俯いてしまった。




その時、隣の部屋から血が流れてきている事にアルフレッドは気づいた。


驚きつつもその隣の部屋の扉を開ける。


部屋は礼拝所の様で、床には乱暴をされた痕跡のあるシスターが数人倒れていた。




「酷い、誰がこんな事を…」




したんだ、とは言えなかった。原因は自分達がこの城を襲ったからだ。




しかし、気休めでもこのままにしては置けない。




床に倒れているシスター達に手を合わせ、近くのカーテンを被せていると他の騎士団が部屋に入って来た。




「おや、白竜騎士団のヒヨッコじゃないか?」




「貴方達は、白虎騎士団の」




すると、一人の男が指をさして興奮しながら言う。




「いたいた、あの子ですよ!!」




「あの子?」




「そうそう、探していたんだ」




男の指の先には、サラが居た。




「いや、いや!!!」




サラは、白虎騎士団の男達を見ると逃げる素振りをしたが恐怖で上手く動けない様だ。


男がサラに近づいて行く。




「待ってください」




近付く男の腕をアルフレッドが掴む。




「これをしたのは貴方達ですか?」




「そうだと言ったらどうするつもりだい?ヒヨッコ騎士」




「軍法会議にかけます」




「なっ、馬鹿を言うな!敵を殺しただけだぞ。こんなの日常茶飯事だ!!」




「騎士道に反します。今日の所は見過ごしますが、今後は改めてください」




数秒間、沈黙の睨み合いが続いた。




「ちっ、偽善者が…」




すると、痺れを切らした男は舌打ちをしながら他の騎士を連れ部屋から去って行った。




昨今の騎士は、騎士道の精神が広がり暴行や略奪が減っていたと思っていたんだがな。




「サラ…だったね、また怖い思いをさせてしまった。身寄りの方は?」




「もう、いない…」




「サラ、辛いと思うけどよく聞いて。このままだと君は恐らく奴隷になってしまうだろう」




「ひっ」




サラが顔を歪ませる。




「しかし、僕に保護される道もある。敵国の人間が言える立場ではないが…君はどうする?」




アルフレッドは跪きサラに手を差し出す。




「た、助けて…」




それをサラは恐る恐る握った。




「ああ、君の安全は僕が守るよ」




ゆっくりとサラに手を貸して立ち上がると、サラは顔を赤らめ恥ずかしそうに股を隠した。きっと先程の事で膀胱が緩んだのだろう。


アルフレッドは、羽織っていたマントをそっとサラの肩にかける。




「そんな、汚れて」




「気にしないよ……あっ!そう言えば」




サラはキョトンと首を傾げる。




「実は、僕は迷子なんだ。此処が何処だか分かるかい?」




「え…」




クスッとサラが笑う。


その笑顔にアルフレッドは、この初陣で覚えた罪悪感が少し軽くなった気がした。







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本日から、この物語の投稿を始めます。

連続投稿をしますので読んで下さると嬉しいです。感想もお待ちしています。

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