第4話 亜紀の思い出


亜紀:私は高校で教師をしています。婚約をしていたその人も教師でした。…どこにでもある平凡な職場恋愛です。それでも、彼からプロポーズの言葉もらったときは、世界中の誰よりも自分が幸せだと思えました。何を見ても輝いていたし、いつも二人でけらけらと笑っていました。


    照明、チェンジ。

    千鶴、マスター、貴代が上手に去る。

    下手から藤田が登場。背中を向けていて、亜紀は気が付かない。

    亜紀を驚かそうと、後ろからゆっくりと近づいていく。


藤田:わっ!!


    驚いて振り向きざまに、藤田を殴る(殴る振り)亜紀。

    殴ったままの姿勢のままになる二人。


藤田:…嶋田先生はいつも元気が良いことで…。

亜紀:…教頭先生…。

藤田:…手を下ろしていただけませんか?

亜紀:あぁ、すいません。


    あわてて手を下ろす亜紀。


藤田:こちらこそ、ちょっとお茶目が過ぎまして、すいません。


   少しおかしな間が空く。


亜紀:…で、何か?


    ニヤリと笑う藤田。


藤田:何かじゃありませんよ。…聞きましたよ?


    少し焦る亜紀。


亜紀:えっと…。

藤田:またまた水くさいなぁ…。嶋田先生も…。言ってくれればいいのに…。結婚するなら、するって。


    あちゃーっという顔をする亜紀。


亜紀:すいません…。ちゃんとお話しするつもりだったんですが…。

藤田:じゃ、本当だったんですかっ!?

亜紀:え!? 誘導尋問!? 今の誘導尋…。


    言葉を遮る藤田。


藤田:聞いた相手が相手だから間違いはないとは思ったんですがね! 



    鈴木、下手から何気なく登場。

    それに気が付かない亜紀。


亜紀:聞いた相手? いったい誰に聞いたんですか?


    鈴木を指さす藤田。指の先を目で追ってく亜紀。


亜紀:鈴木先生! なんで、話しちゃうんですか?

鈴木:だって、嬉しかったから…プロポーズを受けてくれたのがさ。


    隠しきれずニヤニヤと笑ってしまう亜紀。

    手帳を出す藤田。メモをとる藤田。


藤田:…仕事中にイチャイチャ…っと。


    我に返る亜紀。


亜紀:イチャイチャしてませんっ!

藤田:いいんですよ、いいんです。イチャイチャしても…。僕なんて、この歳まで一人ぼっちですが…。


    後ろ向きに消え入りそうな声のまま上手に去っていく藤田。


亜紀:教頭先生…。


    一人で照れている鈴木。釈然としないながらも、鈴木を向く亜紀。


亜紀:鈴木先生…鈴木先生は、部活はいいんですか?

鈴木:あいつらは柔道経験のない僕が見てなくても勝手にやって勝手に帰るから大丈夫だよ。僕にできることは何一つないさ。むしろ、僕が行くと、僕がしごかれる。

亜紀:そうですか。…えっと…。

鈴木:君はまだテストの採点が残ってるんだろ。どこかで待っているよ。

亜紀:本当に? それじゃ、あの交差点のところにできた白い喫茶店で待っていて。


    顔が曇る鈴木。


鈴木:え…。あそこは男が一人で入るには少しメルヘン過ぎるよ。置いてある本もリボンしかないし。別の場所じゃダメかい?


    明らかにへこむ亜紀。それを見て慌てる鈴木。


鈴木:わかった、わかったよ。あの喫茶店で待ってる。

亜紀:じゃ、外のオープンカフェで!

鈴木:お、おい、オープンカフェって…。


    上手に去る亜紀。

    腕時計を見る鈴木。


鈴木:よーし、リボンを読んで待ってよー。


    にこにこして、下手にスキップで去っていく。



    少し間が空く。上手から亜紀が走って登場。


亜紀:遅くなっちゃったな…。急がなきゃ…。


    下手から藤田が走って登場。


亜紀:教頭先生。


    少し驚いた様子の藤田。


藤田:…嶋田先生…。

亜紀:どうしたんですか? …顔色が悪いですよ。

藤田:落ち着いて聞いてください。

亜紀:何です、いったい?

藤田:す…鈴木先生が…交差点の喫茶店の前で刺されました。今、救…。


    藤田の肩をつかむ亜紀。


亜紀:何言っているんですか!? 悪い冗談ならやめてください!


    首を横に振る藤田。


藤田:銀行を襲った強盗が追われて喫茶店の前を通ったんだそうです…。そこに鈴木先生が立ちふさがって…取り押さえようとしたらしく…。

亜紀:そ、それで鈴木先生は無事なんですか!? 

千枝:わかりません…。今、救急車で運ばれました…。


    下手に走り出す亜紀。後に続く藤田。

    悲痛な表情で帰ってくる亜紀。

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