第3話 振り返る
1
(照明)BARに戻る。
マスター、亜紀が入ってくる。慌てて離れる二人。
亜紀:その後、佐嶋先生はどうなったんですか?
少し間が空く。
千鶴:村の消防団員がどうにか助け出してくれたの。
亜紀:…よかった。
千鶴:地震の後、村はひどい状態だった。多くの人がやむえず、村を離れたわ。私たちの住んでいた家も倒壊して、村を去ることになった。だから、佐嶋先生とはそれ以来、会ってないの。今日は何十年振りの待ち合わせ。
興奮気味の亜紀。
亜紀:それは楽しみですね!
声のトーンが変わる千鶴。
千鶴:先生にせっかく助けてもらった命なのにねぇ。こんな風になっちゃって!
マス:素敵に成長されたじゃないですか。
千鶴:じゃ、あんた、この子と結婚してよ。
マス:それはちょっと…。
2
時計を見る千鶴。
千鶴:あら…ずいぶんと話したけど、待ち合わせている時間まで、まだずいぶんあるわね…。
マス:佐嶋先生がどのような方か楽しみですよ。
亜紀:本当に。なんだか有名人に会うような気持ちです。お二人も楽しみですよね。どんな風になられているか。
なぜか照れている貴代。
千鶴:なんで、あんたが照れているの?
慌てる貴代。いたずらっぽく笑う亜紀。
亜紀:貴代さんは、そのお医者さんのことが好きだったんじゃないですか?
パニックになる貴代。亜紀をバシバシと叩く貴代。
痛い亜紀。
亜紀:…痛い…痛い…。
マスターが間に入るが同じように叩かれるマスター。
貴代から逃げて、叩かれたところをさすっている亜紀。
3
亜紀のところに向かう千鶴。
千鶴:あなたは、どなたかと待ち合わせているの?
亜紀:いえ、わたしはただ、眠れなくて…。
千鶴:…そう。あなたを見ていると、何かを待っているように思えたのだけれど。
マス:人は誰もいつも何かを待っているものかもしれませんね。
千鶴:あんた、何言ってるの?
恥ずかしげなマスター。亜紀を見る千鶴。
千鶴:でも、あなたにはどこかで待っている人がいるわよ。
亜紀:誰です?
千鶴:未来の旦那様よ。あぁ、貴代には無理だろうね。あんたは高野豆腐と結婚しなさい。
貴代:高野豆腐と結婚するもん。
笑う亜紀。
少し間が空く。
亜紀:申し訳ありません。さっき、きちんと答えられなかったんですが、実は私、婚約をしていた人がいました。
千鶴:…いました? 婚約破棄になったの?
亜紀:いいえ。亡くなったんです。もし、わたしが待っているとしたら、その人かもしれません。
千鶴:そうなの…。ごめんなさいね、辛いことを聞いてしまったみたいで。
首を振る亜紀。
亜紀:実は今日もその人のことを考えていたら眠れなくなって。よかったら、私の話を聞いていただけませんか? 少しは気持ちが軽くなって、眠れるかもしれませんし。
千鶴:あなたが辛くなければ、かまわないけど。
マスターを見る亜紀。ゆっくりと頷くマスター。
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