第3話 振り返る


    (照明)BARに戻る。

    マスター、亜紀が入ってくる。慌てて離れる二人。


亜紀:その後、佐嶋先生はどうなったんですか?


    少し間が空く。


千鶴:村の消防団員がどうにか助け出してくれたの。

亜紀:…よかった。

千鶴:地震の後、村はひどい状態だった。多くの人がやむえず、村を離れたわ。私たちの住んでいた家も倒壊して、村を去ることになった。だから、佐嶋先生とはそれ以来、会ってないの。今日は何十年振りの待ち合わせ。


    興奮気味の亜紀。


亜紀:それは楽しみですね!


    声のトーンが変わる千鶴。


千鶴:先生にせっかく助けてもらった命なのにねぇ。こんな風になっちゃって!

マス:素敵に成長されたじゃないですか。

千鶴:じゃ、あんた、この子と結婚してよ。

マス:それはちょっと…。



時計を見る千鶴。


千鶴:あら…ずいぶんと話したけど、待ち合わせている時間まで、まだずいぶんあるわね…。

マス:佐嶋先生がどのような方か楽しみですよ。

亜紀:本当に。なんだか有名人に会うような気持ちです。お二人も楽しみですよね。どんな風になられているか。


    なぜか照れている貴代。


千鶴:なんで、あんたが照れているの?


    慌てる貴代。いたずらっぽく笑う亜紀。


亜紀:貴代さんは、そのお医者さんのことが好きだったんじゃないですか?


パニックになる貴代。亜紀をバシバシと叩く貴代。

痛い亜紀。


亜紀:…痛い…痛い…。


マスターが間に入るが同じように叩かれるマスター。

貴代から逃げて、叩かれたところをさすっている亜紀。



  亜紀のところに向かう千鶴。


千鶴:あなたは、どなたかと待ち合わせているの?

亜紀:いえ、わたしはただ、眠れなくて…。

千鶴:…そう。あなたを見ていると、何かを待っているように思えたのだけれど。

マス:人は誰もいつも何かを待っているものかもしれませんね。

千鶴:あんた、何言ってるの?


    恥ずかしげなマスター。亜紀を見る千鶴。


千鶴:でも、あなたにはどこかで待っている人がいるわよ。

亜紀:誰です?

千鶴:未来の旦那様よ。あぁ、貴代には無理だろうね。あんたは高野豆腐と結婚しなさい。

貴代:高野豆腐と結婚するもん。


   笑う亜紀。

    少し間が空く。


亜紀:申し訳ありません。さっき、きちんと答えられなかったんですが、実は私、婚約をしていた人がいました。

千鶴:…いました? 婚約破棄になったの?

亜紀:いいえ。亡くなったんです。もし、わたしが待っているとしたら、その人かもしれません。

千鶴:そうなの…。ごめんなさいね、辛いことを聞いてしまったみたいで。


    首を振る亜紀。


亜紀:実は今日もその人のことを考えていたら眠れなくなって。よかったら、私の話を聞いていただけませんか? 少しは気持ちが軽くなって、眠れるかもしれませんし。

千鶴:あなたが辛くなければ、かまわないけど。

    マスターを見る亜紀。ゆっくりと頷くマスター。


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