第5話
「兄さんったら、まるで、永井さんの保護者ね。」
俺の枕元で有紀が笑う。
「そうだな……永井の奴、誰かに思いっきり、甘えたかったんだろうよ。俺も永井といると、不思議なことに、気持ちが和らいだ。だがな、あいにく俺は……」
「兄さんは、苦労人でしっかり者……でも……」
有紀が真顔で俺をじっと見つめる。
「何だ?どうした?」
「兄さん、永井さんのこと、弟みたいに可愛がりながら、でも、段々と重たくなったんでしょう……違う?」
「何故、そう思う?」
有紀は、しばらく黙っていたが、ゆっくりと言葉を選びながら、口をひらいた。
「この世の中、自分と同じ人はいないわよね。でも、どこか、自分と似たような境遇の人はいる。そんな人といると心地いいけど、長くは続かないのよ。途中で、相手の環境が変わったり……特に、女性の場合は、結婚とかね。結婚しているか独身か……結婚して子供がいるか、いないか……結婚しても、仕事を続けているか、その仕事も、正職員か派遣かパートか……
ある時、ふと、自分と同じだって、だから、わかりあえると思っていた人が、実は違うって、違ってきてるって、気づいたり……そういう時は辛いわね。みんな、違って当たり前なのに、その違いを乗り越えて仲良くするって、至難の業だわ。」
「お前の言う通りだ。俺は自分の親のせいで、幸せな家庭ってものがイメージできない。お前は、人より、遅くなっても結婚したが、俺なんぞ、育ちが災いするのか、女に振られっぱなしだったからな……頭の半分では、永井のどこか満たされない気持ちもわかる。あいつは甘ったれだから、真理子さんに自分のことを一番大事に思ってもらいたかったんだろう。でも、残り半分では、永井のことを、このぜいたく者、もっと大人になれよと思ってしまう。俺も生身の人間だからな。結局、自分から異動を願い出て、永井から離れた……」
「永井さんは、まだ同じところにいるの?」
「そう聞いている。」
「永井さんに、会いたくない?連絡とって来てもらうくらい、私が段取りするわ。」
「いや、いい……それより、やってみたいことがある。お前も手伝ってくれるか?」
「いいわよ、兄さん……何をしたいの?」
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