第4話

「俺がついていながら、申しわけありません。」

とにかく、真理子さんに謝るしかなかった。二人で酔っ払った永井を引きずって、布団に寝かし、

「遅くにおじゃまをしました。これで失礼します。」

と挨拶をして帰ろうとする俺を、

「もう、電車もありません。うちに泊まってください。そのかわり、明日、永井と一緒に出勤してください。」

と、真理子さんがひきとめた。少し迷ったが、俺は真理子さんの好意に甘えた。

 案の定、次の朝、永井はなかなか起きない。真理子さんは永井にはお粥を、俺にはおむすびと味噌汁を作ってくれた。よくできた奥さんじゃないか、永井のやつ、酔っぱらった挙げ句に、罰当たりなことを言って、なんて奴だと思った。そうこうしている間に、永井の娘が目を覚まし、真理子さんはバタバタしている。せめてもの罪滅ぼしだと思い、永井をたたき起して、支度をさせて出勤した。

 出勤の道中、俺は永井にこんこんと言い聞かせた。

「永井よ……お前……ぜいたくを言うな。よくできた奥さんじゃないか……結婚してから、こんなはずじゃなかったと、色々と思うのかもしれないが……可愛い娘もいるんだ。もっと家族を大事にしろ。いいか、今度の週末は、たっぷりと家族サービスをしろよ。」

俺の説教を永井は神妙な顔をして聞いている。永井は悪いやつじゃない。生まれや育ちに問題があるかもしれないが、せっかく、縁があって結婚したのだから、何とか幸せになって欲しいと俺は思っていた。

「見てくださいよ。仰せのとおり、娘を連れて遊園地に行きましたよ。」

嬉しそうに写真を見せる永井に、

「そうか……よかったな。そうやって、小さなことを積み重ねて頑張れよ。」

と言ってやった。

 ところが、その後も、結婚生活の中で何かしらあると、永井は俺を飲みに誘って愚痴をこぼす。飲み過ぎては酔いつぶれ、俺が送って行って真理子さんに謝り、泊めてもらうかわりに、明くる日は永井を連れて出勤する……ということが何度か続いてしまい、考えた挙げ句、俺は異動を願い出ることにしたのだった。


 

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