第3話

 俺のアドバイスを聞きいれたのかどうかはわからないが、親戚の叔母さんとやらにすすめられて、永井は見合いをした。週末の飲み会の誘いがなくなって、やれやれと、ほっとしたのもつかの間、ある土曜日、永井は深刻な顔をして俺のところに来た。

「頼みます。一生のお願いです。これから、僕と一緒に彼女とデートしてください。」

「お前、気は確かか?どうしてデートに俺を連れて行く?」

「僕、寝坊して時間に遅れたんですよ。一緒に来てくださいよ。前にも、やってしまって……このままだと、破談になっちゃうかもしれませんよ。」

「知るか、そんなこと……お前が悪いんだろうが……」

「僕を見捨てるんですかあ?」

「お前なあ……永井、俺はお前の保護者じゃないぞ。」

 そう言いつつ、情けないことに、一時間後、俺は永井と永井の婚約者の真理子さんと三人で遊園地のメリーゴーランドにのっていた。デートに遅刻した挙げ句、職場の同僚を連れてくるような男のどこがよかったのかは知らないが、三ヶ月後、永井は真理子さんと結婚した。

 結婚して、すぐに真理子さんが身ごもり、一年も経たないうちに、永井は可愛い女の子の父親になった。結婚して、子供ができたこともあり、仕事が終わると、永井はまっすぐに帰宅するようになっていたのだが………

「どうです?飲みに行きましょうよ。」

結婚して一年半ばかり経ったころ、永井が俺を誘うようになった。

「お前、子供の風呂は?家庭持ちになったんだろうが。」

「もう、首もすわって、扱いやすくなりましたよ。僕がいなくても大丈夫ですよ。」

仕方なく、永井につきあって飲みに行く。永井は酒に弱い。すぐに酔いが回る。

「僕ね、家族ができたと思ってたんです。でもね、真理子は自分の母親とべったりで。」

「お前、どういう神経をしている?独り身の俺に、結婚生活の愚痴を言うのか?」

永井はおかまいなしだ。

「僕ね、幸せな家の娘と結婚するって言ってたでしょ?真理子の家はね、ちょっとした会社をやってるから、金はあるんです。でも、真理子の親父さん、外に女がいて……真理子は母親がかわいそうだって……結婚しても自分の母親が一番なんですよ……」

酔つぶれた永井を送って行くと、目を吊り上げた真理子さんが待っていた。

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