21 不満足な確認

【明日のことだけど】

【うん】

【暗くなってからの方がいいと思うの】

【ぼくたちもそう思ってた】

 今回は、〝たち〟という複数形を自分から抵抗なく使えた。

【家、出られる?】

【何とかするよ】

【ほかのみんなも?】

【みんなもかなりの覚悟で来てくれるから大丈夫だよ】

 連絡の後、二コーラやジェトゥリオと会った時の話では、説得するというよりも、話が盛り上がってその人数になった、ということらしい。

 ジェトゥリオは、今日の最終確認の場に、せめて二コーラと自分くらいは同席させるべきだと主張したが、二コーラが二人にしてあげようと言ってくれた。

【そう。それなら安心ね。集合場所とかは決まっているの?】

【バルブの一番近くのパークに集まることになってる】

【パーク?】

【知らないの? フェイクグリーンやファウンテン、それからベンチなんかがあるところ】

【ああ、私たちは公園て呼んでるわ】

【見たことあるよ、その字。その公園。バルブ近くの公園で集合ってことになってる】

【時間は決めておくけど、タイミングは任せるわ。全員で一気にバルブまで行って。だけどバルブを開けたら、通路は、一人ずつ間を置いて進んで。通路の長さは百メートルくらいだから、十秒毎に走り始めてくれるとちょうど良さそう】

【分かった】

【通路の外に小型四輪を置いておく。八人分ね】

【小型四輪?】

【ほら、その、いつもレオシュが乗ってくるような】

 そう言って、ルジェーナはレオシュの後方を指差した。振り返ると、そこには彼のMRがある。

【ああ、あれね。いつも思うけど、同じものを呼ぶのに、名前が違うことが多いんだね】

【ほんとね。このドームではあれは何て呼ぶの?】

【MR。モーター・ライドの略】

【ふうん。そのMRみたいなのを、通路を出たところに用意しておく】

【自分たちで移動するの?】

【ごめんね。案内役くらいはつけるつもりだったんだけど、人員配置を考えたら、どうしても無理だったの】

【それは仕方ないね】

【でも、場所は分かるように、ナビゲーション・システムにセットしておくから。ドーム内しか場所を設定できないから、私たちのドームが目的地だけどね。その途中に一時待機場所があるから安心して】

【分かった】

【食糧や水、衣類も一時待機場所に用意してあるけど、自分のものでないと嫌な人は、遠慮せずに荷物を持ってきて】

【下着くらいはね】

【そうね。それから路面状態がよくないから、万一に備えて、水と軽食くらいは、そのMRに載せておくわね】

【うん】

【それから防寒具も】

【防寒具?】

【そうよね。ドームに住んでいる人間は、普通は一生知ることはないんだけど、外は冬で、とっても寒いの】

 そう言うと、口を大きく開けて白い息を見せた。

【ほらね】

【そうか、冬は寒いんだよね。だから息の中の水分が液体化するんだ】

【そう。だから、防寒用の服が必要なの。私は、保温性の高いものを最初から着ているから平気だけど】

 ルジェーナは自分の着ているものを引っ張って見せた。

【ふうん】

【レオシュたちには、その上から着られるような防寒具を用意しておくわね】

【何から何まで、ありがとう】

【お願いしているのはこっちなんだから、お礼なんて変よ】

【そんなことないよ。放っておいたら、このドームだって危険だったんだから】

【まあ、それはそうだけど。とにかく、準備は万全だから、安心して飛び出してきて】

 その言葉に甘い気持ちが湧き起こって、レオシュはつい、

【ルジェーナの胸に向かって?】と言ってしまって、顔を紅くした。

【ええ、もちろん】

 彼女は、満面の笑みで両手を広げた。いましもレオシュを迎え入れてくれそうだった。

【それなら、思い切って飛び出して行けそうだ】

【うん。明日は、初めてお話できるわね】

【?】

【だって、まだレオシュの声、聞いたことないもの】

【ほんとだ。ルジェーナの声をやっと聞けるんだね】

【明日は、ほんの少ししか時間がないけど、レオシュと直接会えるの、楽しみにしてる】

【ぼくも楽しみだよ。さっきまでは、何だか恐ろしい気分だったんだけど、そうだよね、ルジェーナに会えるんだもんね】

【そうよ】

 ルジェーナは右手を腰に当てて胸を反らし、自慢げな表情を作った。

【そうだね】

【それじゃあ、今日はゆっくり寝て、明日に備えて】

【分かったよ。じゃあ明日】

 レオシュはとても眠れそうにない、と思いながらそう言った。

【ええ、また明日ね】

【あのさ、ルジェーナ、スノードームって知ってる?】

 彼は急に、ルジェーナにそれを聞いてみたくなった。最初からずっと、微かに引っかかるような違和感が、レオシュの中には存在したのだ。

【スノードーム?】

【うん、このくらいの大きさのガラス玉なんだけど、中に町があって、雪が降るんだ】

【ごめん。知らないわ。そのスノードームがどうかしたの?】

【いいんだ。その内また話すよ】

【そう?それじゃあ、その時まで楽しみにしておくわ】

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