17 不明瞭な決心
「何だか、ますます心ここにあらずって感じ」
「そうかな……」
その理由だけははっきりしていたが、レオシュは知らないふりをした。
「そうよ。ボーっとしていたかと思ったら、そわそわしたりして。何かあったんじゃないかって、二人で心配していたのよ。ねえ、ジェトゥリオ」
二コーラは、長かった時の癖で、髪のあった場所を、また手で払うような仕草をした。
「まあな。おれは少し気になった程度だけどな。大したことじゃないだろうって言ったんだけど、二コーラが、きっと何かあったに違いないって言うもんだから」
レオシュは意外だった。いつも声をかけてくるのは二コーラばかりで、ジェトゥリオはただそれに付き添っているような印象しか持っていなかった。二人とも心配してくれているのが、ジェトゥリオの言い方で分かった。
しかし、実際には、
「何もないけど、たとえ何かあったとしても、二人には関係ないよ」と言ってしまった。
「そんな言い方はないだろ」
まずジェトゥリオが反応した。
「せっかく心配してやっているのに、ってこと?」
言わなくてもいいことを言っているという自覚があるから、余計にレオシュは憎まれ口を叩いてしまう。
「何だと」
「ちょっと、やめてよ、レオシュもジェトゥリオも」
「おれは別に」
ジェトゥリオは握り締めた拳をゆっくりと開いた。
「レオシュ」
二コーラは、苦しそうな表情だった。
「何?」
「別にね、善意の押し売りをする気なんてないの。ただ、ほんとに心配だったから、心配しているだけ。何か困っていることがあるんだったら、力になりたいと思っているだけ。感謝しろとか、ありがたいと思えとか、そんなこと考えてない」
そんな風に優しく、しかも冷静に言われると、レオシュはますます恥ずかしくて、素直になれそうにない。
「ほんとに何でもないよ」
「二コーラ、もう行こう。こいつに何を言っても仕方ないさ」
「でも……」
「だって、そうだろ。こちらがどう言ったって、結局、何も話そうとしないんだから。こいつの中には、ほんとに何も入ってないのかも知れない」
「そんなこと言わないでよ、ジェトゥリオ」
「ほかに何を言えばいいんだよ」
ジェトゥリオが、二コーラにも怒りを向けた。
「もっと話しましょうよ」
「無駄だって言ってるだろ」
「レオシュと久しぶりにちゃんと話ができたのよ。もう少し待ってよ」
「こっちはちゃんと話しているかも知れないけど、こいつは話らしい話をしてないし、聞く耳も持ってないんだよ」
「ひどいよ、ジェトゥリオ」
「事実だよ。もう行こう、二コーラ」
ジェトゥリオが、二コーラの腕を引いた。
「ちょっと待って」
黙っていたレオシュが、突然、自分から二人に話しかけた。
「何?」
二コーラは、それでも笑顔だった。
「聞いてほしい話があるんだ」
二人のやりとりを見ていたら、レオシュは、ふと、友だちである必要はないんだ、と思いついた。二人が果たして友だちであるのかどうか、友だちと呼べる存在であるのかどうか、そればかりにこだわっていて、目的を見失っていたことに気づいたのだ。
これだけ彼のことを考えてくれているのだから、真剣に話をすれば、きっと真面目に耳を傾けてはくれるだろう。一緒に考えてもくれるはずだ。うまくいけば、彼の願いを聞き届けてくれるかも知れない、とレオシュはそう思った。
「聞くわ」
「おい」
どうやら、ジェトゥリオは聞く気がなくなってしまったらしい。
「ジェトゥリオが言ったんじゃない?レオシュには話をする気がないって。でも、今こうして話をしたいって言ってくれたんだから、聞きましょうよ」
「時間の無駄だろ」
「いいじゃない。わたしたち、急用も何もないんだから」
「そりゃあ、そうだけど……」
「さあ、話して、レオシュ」
「あのさ、ぼく、このドームを飛び出そうと思ってるんだ」
「……」
レオシュは、思い切って核心から話してみた。無理もないことだが、二人には、何のことだか意味が通じなかったようだ。
「二週間くらい前にね、ドームの外を人が歩いているのを見たんだ」
「待って、レオシュが何を言っているのか分からないわ。順を追って説明してくれる?」
二コーラがたまらずに、手で制してそう言った。
ジェトゥリオは、黙ったままだ。
「分かった。じゃあ、うちに来てよ」
「レオシュの家に?」
「ゆっくり話すよ。少し長くなるから」
レオシュの家は目の前だ。
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