第22話 クソ女

その日だが。

彼女、佐藤は早退した。

俺は「...」と思いながら考えてから古傷の痛みを感じる。

それから外を眺め見ているとドアが開いた。

そして「隆一」と声がした。


「...ああ。千佳か」

「大丈夫?」

「...いや。...佐藤の事を考えていてな」

「あんなクソ女なんかどうでも良いでしょうに。全く。お人好し過ぎるよ」

「確かにどうだって良いのかもしれない。だけど俺は最後にアイツに賭けてみたかったんだろうな」

「...まあそれをお人好しって言うんだけど」


千佳は盛大に溜息を吐きながら椅子に腰掛ける。

それから俺は「なあ。千佳」と聞いてみる。

千佳は「何」と聞き返してきた。

何か複雑そうな顔で、だ。


「俺はどうするべきかな。アイツにどう接したら良いと思う?」

「...そりゃ考えるまでもない。被害者面していれば良いと思う」

「いやまあそうだけどさ。きっと俺は...何か手を打ちたいんだわ」

「甘いねぇ。隆一は」

「...そうかな。それが俺だしな」


そんな感じで話していると今度は望がやって来た。

俺を心配そうに見てくる。

その姿に俺は立ち上がって望を抱き締める。

クラスメイト達もそうだが「ひゅーひゅー!!!!!」と言ってくるがお構いなしに抱き締める。


「も、もう。隆一郎。どうしたの?」

「いや。愛しい俺の嫁さんが来たしな」

「もー!!!!!恥ずかしい事ばっかり言うね!」


俺はニコニコしながら望を見る。

そして望を話しながら「どうしたんだ」と真剣な顔で聞く。

するとその言葉に望は言い出し辛そうにしていたが。

やがて意を決したのか俺を見てきた。


「朝の件。やっぱり佐藤かもしれない。原因は」

「...ああ。そうなんだな」

「噂で聞いた。...だから...佐藤はもう取り返しのつかない事をした」

「そうだな...」

「...だけどこうも聞いたんだけど...隆一郎が救ったの?佐藤を」

「...そうだな」

「...何でそこまで。命を懸けても救って意味無いでしょう」


まあ確かにそうだ。

命を懸けてまでやる必要のない事だ。

だけど俺は...死んでもらっては困るって思っただけだ。

それで救ったんだよなアイツを。


「...望。俺は...アイツを掬うべきだと思ったから救っただけ。ただそれだけだ」

「それで貴方が死んじゃったら悲しいよ...」

「死ななかったろ?今生きているじゃないか。俺は」

「...まあそうなんだけど」

「大丈夫。俺はお前を残して死なない。絶対に死なない。約束する」


俺は望の頭を撫でる。

それから千佳を見てみる。

千佳は「その通りだよね」と言う。

いつの間にかトイレから戻って来ていた祐樹も賛同する。


「無理はしないでやっていったら良いんじゃねーか」

「これで変われば良いけど。あの佐藤が」

「分からんわな。...まあ知ったこっちゃ無いけど」

「...佐藤、早退したしね」

「そうだな」


そして俺らは佐藤の席を見る。

だが問題が発生した。

どういう問題かというと。


佐藤が学校に来なくなったのだ。

かれこれ3日経つ。

しかしまだ来なかった。



「何が起こったかだな」

「...そうだな。良く分からん」


俺は祐樹と一緒に遊んでいた。

サッカーで、だ。

今日は土曜日であるが、遊ばないか、と祐樹に誘われた。

俺は祐樹と一緒にサッカーで取り合いをする。


「全くな。...何時もあの女は迷惑を掛けてばかりだよな」

「そうだな。...その通りだよ」

「俺はぜってーに許さないから。あの女」

「...悪い事ばかりだからか?」

「そうだろ。お前らに絡んだ話も全部佐藤のせいだ。アイツは退学すべきだよ」


そう怒りをぶつけながら祐樹は駆け出す。

俺はその姿を見ながら追い回す。

それからサッカーボールを強奪した。

そして駆け回りながら走る。


「...なあ」

「ん?」

「...佐藤まで許すのかお前は」

「許さないよ。...だけど恨むとか言ってもアイツはもうそれなりの罰は受けている気がするから。右半身不随だしな」

「...だけどそれで許すのは甘くないか?」

「...まあな」


そして俺は走り回る。

するとスライディングシュートでボールが奪われた。

それからゴールとしている場所に持って行かれる。

俺はその事に汗を拭いながら「お前はどう思う?」と聞いてみる。

祐樹は「ああ。...俺は許さんよ」と答えた。


「...それからお前が許しても許さん」

「...そうか」


そうしていると「みんな」と声がした。

驚きながらその方角を見ると可愛い服を着た望が居た。

望はサンドイッチのかごを持っている。

俺達は「???」を浮かべながら望を見てみる。


「どうしたんだ?望」

「うん。サンドイッチのおすそ分け」

「そうなのか。...有難う。っていうか此処に居るの良く分かったな」

「それは愛ゆえに」

「...お前という奴は」


望はニコニコしながら俺の手を握る。

すると「はいそこまで」と声がしてくる。

見つめ合っていると、だ。

祐樹がどっから持って来たのか笛を持っている。


「...イチャイチャは駄目だぞ。俺の目の前で」

「お前も彼女作れば解決だろ」

「ふざけんな殺すぞ?」

「ハハハ」


そして俺達は苦笑いを浮かべながらその場から離れた。

それから俺達はそのままベンチに腰掛ける。

なんと望はアックエリアスまで買って来てくれていた。

塩飴なども買ってきている。


「...それで佐藤の事だけど」

「ああ。佐藤がどうかしたか」

「...駅前で見かけた」

「?...そうなのか」

「うん」

「...何をしていた?」

「...歩いていたけど...何か落ち込んでいる様子だった」


何だってんだろうな。

思いながら俺達は考える。

それから「やめやめ。考えもしゃーねーよ」と祐樹が汗を拭いながら言った。

そしてそのまま俺達は他愛無い会話をした。

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