第16話 ホットココア

俺は八重の友人を守る。

それは...八重の友人の菅原よしみ(すがわらよしみ)という女子だった。

八重とは幼稚園時代に仲良くしてくれた女子だった。

その為。

途中まで俺は菅原よしみと友人だった。


その。


途中まで、は、だが。


何が起こったのかといえばその菅原よしみは引っ越した。

いじめがきっかけで、だ。

少しだけ彼女は引っ込み思案タイプだったのだが。

そのせいでいじめを受けていたのだ。


そのいじめは上級生が下級生をいじめる構図だった。

俺は菅原よしみがいじめられるのが許せなくて佐藤と言い争いをよくしていた。

そしてある日俺は菅原がいじめで引っ越したきっかけで佐藤と大喧嘩をしていた中。


佐藤は足を踏み外す様な感じで転げ落ちた。

それで佐藤は右半身麻痺になったのだ。

俺が悪いとは思うけど。


彼女も悪い。

俺は考えながら公園で一人考えていた。

望を送り届けて、だ。


「やれやれ。帰る気力も湧かないな」


そんな事を呟いていると「霧島さん」と声がした。

俺は「?」を浮かべて顔を上げる。

するとそこに燕さんが居た。

燕さんは俺が座っている横のブランコに乗る。


「お姉ちゃんから聞きました」

「...何を?」

「...かつてのいじめっ子が現れたそうですね」

「ああ。聞いたんだね」

「そうですね」


それから燕さんはブランコを動かす。

そして前後ろに動く。

俺はその姿を見ながら「何でこの場所が分かったんだ?」と聞いてみる。

すると彼女は「...家に居なさそうだったので」と答えた。


「...大変ですね。霧島さんも」

「俺はまあそこそこだよ。...俺は何がしたいんだろうな」

「...いじめっ子は...何か言ってたんですか」

「まあ...俺を恨んでいただけで愚痴をたらたらだな」

「...そうですか」


燕さんは激しく前後ろにブランコを動かす。

それにつられブランコは激しく揺れていたが燕さんは動かすのを止めた。

そして次第にブランコは落ち着いてきた。

それから燕さんはブランコから降りてブランコに腰掛けた。


「...霧島さん。...今が決着をつける時じゃないですか?多分」

「...決着?」

「霧島さんにどうにかしてほしいんですよね。その佐藤とかいう奴」

「...とにかく人生をぶっ壊したい様だしな」

「...私は...佐藤と話し合いをした方が良いと思います。まあしても同じでしょうけど」

「同じだろうな。...だけどまあやってみるよ」

「...まあ相手がそんなんじゃ意味無いでしょうけど」


「あ。えっとですね。霧島さん。実は私の将来の夢は警察官です」と言ってくる。

俺は「?」を浮かべて突然の告白に目線を向ける。

すると燕さんは笑みを浮かべた。

それから「何か飲みませんか」と自動販売機を指差す。


「ああ...いや。俺は良いよ。有難う」

「そうですか?私はココアが飲みたいです」

「...ココアか。なら俺も飲もうかな。何も飲みたくなかったけど」

「ホットココア飲みますか」

「そうだね」


それから俺達は自販機に歩いて行く。

そしてそこに置かれている見本を見てから購入した。

すると燕さんはその場でかしゅっと音を鳴らしてココアを飲んだ。

俺は驚きながらも笑みを浮かべて燕さんを見る。


「将来の夢。何で警察官なの?」

「...私、正義に憧れています」

「正義?正義感って事?」

「正義感です」

「...君は偉いな。そんな事を目標にするなんて」

「いえいえ。...私は霧島さんも凄いと思います」

「...」


俺は暖かいココアの缶を見ながらちかちか光る電灯を見る。

羽虫が飛んでいる。

段々と夕暮れが近付いている。

その中で俺は溜息を吐いた。


「...俺は...彼女の為に戦っていた」

「...」

「...しかし途中で訳が分からなくなった。...佐藤が階段から落ちてから」

「...」

「...馬鹿だねぇ」


そんな事を呟きながら俺はココアの缶を開ける。

それから飲み始めた。

甘ったるい味が俺をそそのかしている気がする。

すると燕さんが俺を見てきた。


「貴方は馬鹿でも何でもないです」

「...?」

「貴方は優しい。それだけで凄いと思っています」

「...そうかな」

「...散々警戒していた私を貴方は優しく受け入れてくれた。それだけで凄いです」

「...」


「馬鹿じゃなくてどうしようもなかったと思いますが」と彼女は呟く。

俺はその言葉を受けながら空を見上げる。

それから彼女を見る。

「で。今お姉さんは何をしているんだ」と聞いてみる。

すると「お姉ちゃんは今、家事をしています」と肩を竦める燕さん。


「...私はぶきっちょなので」

「...そうなんだ」

「はい。でもまあ...法律関係は得意です」

「...そうか」

「...だけどぶきっちょな面があるのでまあ...家族の離婚が分かりませんでした」


そんな事を言いながら「そんな中でも私は色々な人に出逢って「そうか。これがしたいんだな」って思えました」と言う。

俺はその照れ臭そうな感じの笑みを見てから柔和になる。

それから「そうか」と返事をした。


「何が言いたいかといえば。貴方らしく突き進んだら良いと思いますって話です」

「...!」

「過去は過去で変えれないなら今から変えていくんです」

「...」


そしてココアを一気飲みした彼女。

燕さんは缶を捨ててから「...私は...貴方と望さんを応援しています。頑張りましょう。...きっと良い方向に行きますから」と俺を見る。

俺はその言葉に俺もココアを飲んでから缶を捨てて「確かにな」と返事をする。


「...取り敢えず佐藤と話し合いをしてみる」

「そうですね。...霧島さんの意見を反映させながらやったら良いと思います」

「...君は警察官を目指す身にして...やっぱり凄いね」

「私はぶきっちょな性格を治したいのもあって警察官を目指します」


それから俺は苦笑している燕さんを見てから笑みを浮かべた。

家に帰ろう。

そう思いながら俺は燕さんと公園を出てから別れた。

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