第13話 防衛反応


私は浴槽で向かい合って燕を見る。

燕はお風呂で気持ちよさそうにしながら私を見ていた。

私は無言で彼女を見る。

そして向かい合っていると燕が「お姉ちゃん」と切り出した。


「...うん。何」

「...アイツは。...あの男は良い人なの」

「これまでの人達と違う。...付き合ってきた中で最も良い男の子」

「私は...」

「?」

「...私は認めない。彼は...良い人かもしれないけど。男は獣だ」


そう言いながら燕は私を見据える。

私は浴槽から発せられる湯気を見ながら「...そう」と答える。

それから「確かにそうかもしれない」とも。

だがその言葉に反し燕は「...そう思っていた」と言った。


「...彼は違うのかもしれない」

「...え?」

「...彼は...他の人と違う人間だと錯覚してしまう」

「...」

「先程の話だと彼も浮気されたって事だよね」

「そう。彼も浮気されている」

「...同じ痛みが分かるのかもしれない」


燕はそう言いながらお湯を掬った。

それから元に戻す。

私はその行為を見ながら「...」となる。

すると燕は「お姉ちゃん」とまた言ってくる。


「...?」

「私はお姉ちゃんの彼氏の男にもう一度会う」

「...!」

「...見定める。私が」


そう言いながら燕は私を見る。

私は「...うん」と笑みを浮かべた。

それから私達は風呂から上がり。

そのままリビングに戻った。



「男はみんな獣です。私は絶対に信じない」


彼女はそう言いながら怒っていた。

俺は...彼女に分かってもらうにはどうしたら良いかをずっと考えていた。

風呂に入ってから頭をタオルで拭きながらスマホを観る。

望にメッセージを打とうと思っていたのだが。

するとスマホにメッセージが入った。


(隆一郎)

(...どうした?望)

(彼女に。燕に会ってくれない)

(え?それは歓迎だが...どうしてまた急に)

(...彼女が会いたいと言った。貴方に)

(...!...そりゃ勿論。喜んで)


俺はそう答えながら慌てる。

そして俺は(いつ会う?)と聞いてみる。

すると望は(うん。今週の土曜日。近所のファミレスで)と書いてくる。

俺はその言葉に(了解だ)と返事をした。


(でも...有難いな)

(何が)

(彼女の方から会ってくれるなんて)

(彼女は...隆一郎を見定めるって言っている)

(そうか。ならしっかりしないとな)

(隆一郎は隆一郎らしくで良い)


(変な気は使わなくて良いから)と彼女は書いてきた。

俺は(そうだな)と返事をする。

それから望は(じゃあ)と言ってくる。

俺は(ああ)と返事を打ってからスタンプを送る。


それから伸びをした。

そして両頬を叩く。

何だかやる気が出て来た気がする。

俺は思いながら写真立てを見る。


「...頑張るぞ。八重」


八重は笑みを浮かべている。

それが「頑張って。お兄ちゃん」と言っている気がした。

俺はやる気を出してから勉強を始める。

それから時間が経ち。

今週の土曜日になった。



「や。待たせたかな」

「いや。私達も今来たばかり」


そう言いながら望は俺を見る。

俺はその顔を見てから笑みを浮かべる。

そして望の背後を見る。

そこに複雑な顔をしている燕さんが居た。


「燕さん」

「...っ。は、はい」

「...今日は...招待有難う」

「...」


燕さんは口を閉じる。

それから数秒してから俺達が見る中で「...あの」と言う。

俺は「?」を浮かべてから彼女を見る。

すると彼女は「...この前は御免なさい」と言った。


「...胸倉を掴んだりして」

「...全然気にしてない。...当たり前の事だと思う」

「...え?」

「...俺が胸倉を掴まれるのは当たり前だと思うから。...それだけ...彼女を大切に思ってくれている。それだけでかなり嬉しいよ」

「...」


すると燕さんは「私は行き過ぎた行為をしてしまったのに。怒って無いんですか?」と聞いてくる。

俺は首を振った。

それから「当たり前の事。...何も気にしてない」と言う。

そして「暴言も全然気にしてない。...無い方が逆に不気味だから」と柔和になる。


「...」

「...望はとても繊細だ。だから君みたいなナイトが居てくれて助かっている」

「...何で」

「...?」

「やっぱりあり得ない。何で怒らないんですか?...私がしたのは行き過ぎた行為なのに」

「...逆に怒ってどうするの?」


そう聞いてみる。

すると燕さんは「今までのお姉ちゃんの彼氏はみんな最低でした。...だから怒るのは身を守る為でした。だけど今回は...」と言う。

俺はその言葉に数秒考えてから「俺は君のした事は間違いでは無いと思っている」と言いながら燕さんを見据える。


「...逆に誇って良いと思う。君のした事は。これは防衛反応だと思う」

「...」

「まあ残りの会話は中に入ってから」


そして俺は促しながら望みと燕さんと一緒にファミレスの中に入る。

それから適当な席に座る。

すると望が「燕。横に来て」と促した。

対面で座る形になるが...燕さんが良く見える位置だった。


「...な、何で。お姉ちゃん。これは...」

「今日の主役は燕。...だからこれで良い」


燕さんは俺を見てからビクッとする。

それからモジモジして居心地が悪そうな感じを見せる。

だけど燕さんは逃げれない。

何故ならその位置に望が居るから。

計画したな?これ。

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