第6話 ドキドキ


「うーん?」


そんな事を思いながら俺は考え込む。

木橋さんにもしかして何かしてしまったのだろうか。

そして俺はお菓子を探していた。

続けて何か食べたいと思っていたから、だ。


そしたらクッキーがあった。

俺はそのクッキーを食べながら戻ると...木橋さんが戻って来ていた。

その姿を見ながら笑みを浮かべる。

すると木橋さんはビクッとした。


「...木橋さん?どうしたの?」

「な、何でもない。...何でもない」

「あ、もしかして何かあった?トイレ臭かったり...」

「...ち、違う。違うから」

「そ、それなら良いけど」


トイレが臭かったらショックだ。

いつも掃除しているのだから。

思いながら俺はクッキーを見せてから「食べる?」と聞いてみる。

木橋さんはおずおずしながら「じゃあ」と言って手を伸ばす。

するとその手が俺の手に当たった。


「...!!!!!」


木橋さんはがたぁんと音を鳴らしてからそのまま離れる。

真っ赤になってから俯いた。

「え?え?」と呟きながら俺は木橋さんを見る。

木橋さんは「...ごめんなさい。そこに置いてくれたら...」とモジモジする。


「あ、う、うん」

「...ごめんなさい」

「い、いや。良いんだけど...その」


俺はどうしても聞きたかった。

「もしかして俺が嫌いになったとか?」という感じで不安げに。

態度がさっきと違いすぎる。

そう思いながらちょっと落ち込み気味に聞く。

すると木橋さんは「!?...い、いや。違う。私は嫌いになったんじゃない」と強く否定した。

それから木橋さんはモジモジしながら「...違う、けど」と言う。


「...その」

「...?」

「...手を握ってみても良い?」

「な、何で!?」

「その...耐性をつけたい...」

「耐性?」

「た、耐性」


それから木橋さんは俺の手をゆっくり握ってくる。

その手を伸ばした。

すると木橋さんはビクビクしながら手を握る。

真っ赤になって俺を見てくる。


艶やかで大きなまつ毛。

それから大きな瞳。

更に整っている顔...。

俺は徐々に赤くなっていく。


「...そ、その。見つめられると...」

「あ、ご、ごめんなさい」

「...木橋さんってまつ毛長いね。...可愛いね」

「っ!!!!?」


木橋さんは唇を噛んでから真っ赤になる。

何かおかしいんだけど。

こんなに赤面する様な子じゃなかった。

何でこんなに?


「...今日...」

「うん?...うん」

「来て良かった。貴方の家に」

「...!」

「私は気持ちが整った。貴方に...貴方に助けられた」

「...何もしてないよ。俺は」

「貴方は私を言葉で助けてくれた。気持ちで助けてくれた。私は...幸せ者」


そして木橋さんは微笑む。

その姿に俺は「...」となってから暫く見つめていた。

天使の様な笑みだった。

これじゃまるで...いやそんな馬鹿な。


「...どうしたの?」

「...いや。何でもないよ。...何でもないんだ」


俺が恋に落ちた?

もう俺は彼女を作らないって決めたのに。

そして作ってもこの様だから。

そう思っていたのに。

彼女を守りたい気持ちになってしまった。


時計の針が聞こえる。

それしか聞こえない中で俺は木橋さんを見る。

木橋さんは俺をジッと見ていた。

赤くなってから目を逸らす。


「...」


俺は口元に手を添える。

お友達からなりたかった。

だけどこれじゃ。


違う。

そうだな。

絶対に違うと思う。

思いながら俺は木橋さんに「...その。俺も良かった。君が来てくれて」と言う。


「...私が来て良かったの?」

「うん。悲しい感情が消えたから」

「...そう。...じゃあ以心伝心」

「...以心伝心ってそれは恋人...あ」

「え...」


木橋さんはボッと赤面する。

それから俺から手を離す。

ヤバイっていうか何でこんなにドキドキするのだ。

思いながら木橋さんを見ていると木橋さんは「よ、用事があるからそろそろ帰る」と慌て始めた。


「あ、そ、そうなんだね」

「そ、そう。ごめんなさい」


そして木橋さんは慌てて立ち上がる。

その勢いでカーペットに足を引っかけてしまった。

木橋さんはバランスを崩す。

俺は慌てて「木橋さん!!!!!」と受け止めた。


「...?!」

「...!」


押し倒す様な形で守れた。

だけど...押し倒してしまった。

木橋さんが目の前にある。

き、金髪も床に広がってサラサラだな...、と目線を逸らした。


「...だ、大丈夫?」

「...そう、ね」

「...」

「...」


木橋さんは有り得ないぐらいに真っ赤になっていた。

俺はその姿を見ながら慌てて立ち退いてから手を持って立ち上がらせる。

すると彼女は何を思ったかその勢いで俺をハグした。


「...」

「...な、き、木橋さん!?」

「...勢いがありすぎた」

「そ、そう」


女の子の身体。

華奢だった。

というか付き合っている彼女を何度も抱き締めたのに。

こんなに暖かいハグは初めてだ。


「...」

「...」


心臓がどくどくと波打つ。

というか脳出血でも起こすんじゃないかってぐらいの血圧の高さを感じる。

木橋さんは縋りつく様な猫の様に暫く離れなかった。

そして俺は木橋さんを優しく抱きしめる。

暫くそんな感じだった。

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