第4話 future
☆
木橋さんの意外な側面を見た気がした。
俺は...正直、木橋さんの事は好きでは無かった。
何故なら彼女は外見がかなり悪そうな感じに見えたから、だ。
だから、怖い、と感じていた。
だけど彼女は...違った。
彼女は単に猫を愛する女の子だとそう思った。
そんな彼女は言う。
「彼氏と仲が悪くなったから」という感じで今に至っていると。
何か親近感が湧く。
「今日は有難う」
猫カフェを田中さん達に挨拶をして出るとそう言われた。
有難うを言うのは俺だと思うのだが。
彼女は真顔のまま俺を見る。
そしてそう言ってきた。
俺はその顔を見ながら笑みを浮かべる。
「木橋さん。それは俺の言葉だ。今日はとても楽しかった。お礼にしては十分だ」
「...十分?」
「楽しかったしとても癒された。だから君が言うんじゃない。俺がお礼を言いたい」
「...」
木橋さんは少しだけ考えてから柔和な顔をする。
それから俺に笑みを浮かべた。
俺は「!」となりながらその顔を見て赤面した。
何て可愛らしい笑顔だろう、と。
そう思いながらだ。
「...どうしたの?」
「...な、何でもないよ。アハハ」
木橋さんを一瞬、守りたい、と思ってしまった。
だけど恋なんてあり得ないしもうする気も無いから。
だからこれは有り得ない感情だろうな。
そう思いながら「気のせいか」と呟きながら木橋さんを見る。
「木橋さん。じゃあ帰ろうか」
「...帰る?...私の家に?」
「違うよ!?そういう意味じゃなくて君を送り届けるよ」
「...???」
目をパチクリしてから「何で?」と聞いてくる木橋さん。
俺はその顔を見ながら「え?」という感じになる。
木橋さんは「私を送り届けてくれるの?」と目を丸くしていた。
ああ。成程。
「木橋さんって...彼氏にそこまでされなかったの?」
「...うん。珍しい」
「...随分投げやりな彼氏だね」
「...全部私が悪いから」
そう言いながら木橋さんは俯く。
何か踏んではならない地雷を踏んだ気がした。
だけどそうなんだな。
思いながら「木橋さん」と声を掛ける。
「...俺は君にお礼がしたいから。...これぐらいはさせて」
「...そう」
「...じゃあ行こうか」
そして俺は歩き出す。
それから「木橋さんの家って何処?」と聞いてみる。
すると木橋さんの家は俺の家からあまり遠くない近所だと判明した。
俺は驚きながら木橋さんを見る。
「俺の家から少しだけ離れた場所だったんだね」
「貴方の家は何処?」
「...俺の家は近所だよ。200メートル歩いたらうちだよ」
「...じゃあ行ってみても良い?」
「うん...は?」
「貴方の家が見てみたい」
何でそうなる!!!!?
俺は唖然としながら彼女に「え?!」と聞く。
すると彼女は「家を見て覚えたい」と言ってくる。
俺は愕然としながら赤面で咳払いをした。
「う、うん。良いけど」
「じゃあ行こう」
「え?!もう早速!?」
「それはうん。駄目?」
「駄目って訳じゃ無いよ!?...し、しかし片付けもしてな...あ、違うか!家の中に入らないもんね?!」
「え?」
「え?」
彼女は顎に手を添える。
そして少しだけ考え込んだ。
それから「家の中には入れないの?」と聞いてくる。
俺は「はぃい!?」と赤面した。
「それならそれでも良いけど」
「あ、い、いや。汚い家だけど入りたいなら」
「私の家も汚い。だから大丈夫」
「それはそれで何か問題がありそうだけど」
そして彼女と一緒にそのまま家に来た。
少しだけ黒に近い屋根のあるレンガ模様の家だ。
彼女は俺の家を見ながら目を丸くする。
「ここが貴方の家?たまに来るんだけどこの辺り」と言いながらだ。
「そ、そうだね」
「そう」
「...そ、その。...上がる?」
「うん」
彼女は玄関を開ける。
その間も彼女はずっと俺の背中に張り付くように立っていた。
俺は鍵を開ける手が汗でじんわりになる。
それから鍵を開けて家の中に入る。
「...水槽?」
「...ああ。ベタを飼っているんだ」
「ベタ?」
「魚の一種だね」
「そう」と返事をしながら彼女は横に置いてある水槽を見る。
水槽にはベタが2匹泳いでいる。
俺はその興味のある様な姿を見ながら柔和になって横に立つ。
彼女はまるで駄菓子を見て嬉しそうな気持の子供の様にベタを見ていた。
「...ねえ。木橋さん」
「...?」
「君は魚にも興味あるの?」
「...私の代表格に好きなものは猫。...だけど私は他の生き物にも興味がある」
「そっか」
そして俺達は暫く見ていると木橋さんが「あ。ゴメンなさい」と俺に向いてきた。
「家に案内されたのにこんな事をして」と頭を下げる。
俺は「構わないよ」 と言う。
すると木橋さんが俺の顔を見てから呟く。
「そんな笑顔を見たかったのに」という感じでだ。
「え?木橋さん何か言った?」
「...何も言ってない。...有難う」
奥に行く木橋さんのその姿を見ながら俺は顎に手を添える。
それは...彼氏への皮肉の言葉だろうか。
元彼氏への。
俺は思いながら目線をベタに向けた。
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