第3話 咲く花


私の名前は木橋望という。

今、私はおかしな事に巻き込まれている。

それは簡単に言えば彼氏と別れてまだ1日しか経ってないのに別の男性と一緒に別れた彼氏と来ていた場所に居る。

別に私はこの人が好きではないのだが...不思議だ。


「木橋さんの意外な素顔が見れたな」

「...それはどういう意味?」

「だって木橋さんって何か金髪だから寄りづらいなって思っていた。こういう趣味を持つ人なんだって思ったら安心したよ」

「...そう」


そんな言葉を受けながら私は彼を見る。

霧島隆一郎君を。

私は雨の中、振られた思いを胸に居ると彼が傘をくれた。

自らが濡れる事も厭わず。


その為に私は...彼に興味がある。

そうしていると、のぶなが、がおもちゃを持って来た。

遊びだす霧島君。


しかし彼は本当に不思議だ。

何故不思議なのかと言えば簡単だ。

彼に5匹の猫全部が好いている。


だから不思議なのだ。

前の彼氏は...こんな事にならなかった。

みんな警戒して嫌がって引っ掻いていた。

それなのに。


「何かあった?」

「...そうですね。ちょっと色々です」

「...そうなんだね。あ。言わなくて良いよ。...まあこの場所でゆっくりして行ったらいい。それに...確かにそんな顔していたしね」

「有難う御座います」

「...」


田中さんは優しく接してくれる。

その中で私は彼を見た。

霧島君を。

5匹の猫にみんな好かれている。

初対面なのにこれは奇跡だ。


「霧島君」

「うん?何?木橋さん」

「楽しい?」

「楽しいよ。...滅茶苦茶ね」

「...そうなんだ」


そして霧島君は私を見てくる。

私は「?」を浮かべて霧島君を見る。

すると霧島君は「有難う。今日呼んでくれて」と柔和な顔をした。

本当に不思議な人だな。

こんな感謝して来るなんて...。


「私、何もしてないよ」

「...お礼をしてくれてこの場所に連れて来てくれた。それだけでも十分なお礼だよ」

「...」

「木橋さんも大変だったみたいな様だし...遊ばないかな」

「そうだね」


私達は暫く遊んでから。

充美さんと田中さんが見守る中。

私達は存分に猫と遊んだ。

それから疲れ果ててその場で寝転がる。

猫の毛が付くが...構わない感じで。


「...君」

「ん?何?」

「君って面白いね。...霧島くん」

「...え?お、面白いかな?」

「私は好きだよ。君のそういう性格は」


まさかの言葉だった様だ。

霧島君は赤面する。

それから「そ、だね」と返事をした。

そして頬を掻いた。

猫達もやって来て傍に丸まった。


「...好きって言わないでほしい。...何か誤解してしまう」

「そういう意味の好きじゃないよ...それは安心して」

「ま、まあそうだけど」


私は「?」を浮かべながら霧島君を見る。

そして猫達を撫でながら起き上がる。

霧島君は苦笑していた。

「でも」と言い始めながら。


「俺としては有難いな。そう言ってくれて」

「...?」

「俺、実は小説書いているんだ」

「...そうなんだ」

「その中で君を見ているとカリカリしていた気分が晴れそうな感じになる。有難い事だね」

「賞とか応募しているの?」

「応募してるよ。だからその焦りがあったかな」


そう言いながら霧島君は笑顔になる。

私はそんな霧島君を見ながら少しだけ笑みを浮かべた。

それから霧島君はゆっくり立ち上がる。

そして私に手を伸ばしてきた。


私はその手をゆっくり握り締めた。

それから立ち上がる。

私はそんな姿に「私は貴方の事、不思議に思う。私が今まで見た事が無い人だから」と言った。


「そうかな。俺は普通の人間だよ」

「貴方は...その。あの日。雨の日に何であそこに居たの?」

「俺?...そうだね。...彼女に浮気されたんだ。実は。たかだかそれで泣いてしまっていた」

「!」

「本当に情け無い話だよ」


そう言いながら彼は沈黙する。

私は黙っていたが怒りを感じた。

それから真剣な眼差しをする。

「それは情けない話じゃない」と怒る様に。


まさかの言葉だった様だ。

彼は固まり衝撃を受けながら顔を上げる。

私は怒りを感じたまま。

本能のまま告げる。


「私...あの日。本当に助けられた。傘が暖かく感じた」

「木橋さん...」

「情けない訳が無い。泣いて良い。そんな時は」

「君は...本当に優しいね。木橋さん」


浮気されていたとは思わなかった。

正直...それで彼が思い悩んでいたとは思わなかった。

彼は...そんな中で身を挺して私に傘をくれた。

あり得ない感謝の気持ちだった。


「優しいんじゃない。私は当たり前の事をしているだけ」

「それを優しさって言うんじゃないかな?木橋さん。でも有難う。本当にほんわかになった」


彼はそう言いながら笑みを浮かべて、ばにら、を持ち上げる。

そしてなでなでした。

ばにら、は気持ち良さそうだった。

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