性欲

エリー.ファー

性欲

 水日。

 秋日。

 君は生まれ。

 共に育ち。

 嘘を知って。

 闇を観た。

 このまま、ずっと遠くまで。

 求めたのは。

 君と誰か。

 犬と楓。

 秋の中の日々。

 自傷が大切にしてくれるから。

 一定以上の時間を眺め続けて今を生きている。

 皮脂の香り。

 雪の中の一夜。

 口上はいらない。

 このままずっと。

 ずっとこのまま。

 石のように。

 楓を纏った水辺の岩のように。

 見ず知らずの人に理解してもらえない孤独の中で死んでいきたい。

 できれば一緒に。

 絶対に一緒に。

 音を連ねることでしか会話できないのは、人間ではなく、命が持つ制限ですか。

 解放されるには死しかないのですか。

 マグカップの中に落ちていった情報は、いつしか私たちの喉を焼き尽くすでしょう。

 お願いします。

 どうか、お願いします。

 どうか、どうにかして下さい。

 自分を知っている人間の数が、自分を構成していると言うなら、リセットをしたいのです。

 扉の向こうに見えてくるのは、遥か遠くからやってきた私によく似た死神です。

 首を狙っています。

 だから。

 どうぞ、私を愛して下さい。

 どうせ、首を奪われるのなら愛されているという実感が欲しいのです。

 戻せなくなる。

 全部、失いたくなる。

 保存したくない。

 記録したくない。

 喪失したい。

 そして。

 悦に浸りたい。

 自分が狂ここにいることを、しっかりと思い出すための構成要素として、自分の記憶や感情を犠牲にしていたい。

 メモをとってはならない。

 私が私であることを、失うための準備を進めていることになるから。

 話してはならない。

 私が私であることを、私以外の人が知ってしまうから。

 失禁してはならない。

 強い思い出が私に私を忘れられなくさせようと作用するから。

 お願いを聞いてはならない。

 もしものことがあった時に約束を守ることができないから。

 ホテルを壊してはならない。

 きっと、私とあなたのために創り出された王宮であり、いつか誰かが休むための場所になるのだから。

 白い紙に。

 黒い血痕。

 二つが合わさって、景色が生み出されて行く。

 必死になってもしょうがないのだ。

 何せ、私には何もない。

 何もないから、生み出された芸術に唄が生まれるのだ。

 でも。

 気が付くと積み上がる何か。

 その何かの価値については、言わずもがな。

 不思議な世界。

 触れるべきではない、知識と思考によって彩られた不思議な世界。

 私が生まれ、君が生き、私と君以外が生きている。

 燃え続ける世界。

 自殺し、骨になって、山の中に溶けていく、私たちの人生。

 不倫のはずだった。

 浮気のはずだった。

 どちらでもない何かになるはずだった。

 幸せになるために並べたビルは、すべて倒れてしまった。

 メールの文章には、記されていない。

 私はゆっくりと生きている。

 私以外の人とは違う。

 だから、この幸福は正解なのだ。

 何も考えなくていいのだから。

 文字と文字の間に見えてくるのは旅人だ。

 もしも、このままがいいのなら放置するしかない。

 明日、あなたがいなくなっていることが確定しているのだから。

 ここから、絞らなければ絞れない。

 ここから、奪わなければ奪えない。

 ここから、殺さなければ殺せない。

 余裕があるように見せて、本当は誰も余裕がない。

 性欲に支配されているのだ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

性欲 エリー.ファー @eri-far-

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ