第16話 「イカ魚人」
「ちなみに盗んだ釘の数は?」
「20ぐらいかな...」
「えぇ!じゃあ100倍だから2000も返さないとじゃないですか!」
カミヤは驚きで声が少し裏返っている。
「お金も2000ポッタなんて、僕らの全財産ですよ...」
「うん...ごめん」
マナトは何も言い返すことが出来なかった。盗む行為をした本人はミサだったが、最初に盗みの提案をしたのはマナト自身であったからである。
「この船の釘全部取り除かないとですね」
ボロボロの船がマナトを見つめている。マナトは直視できなかった。自分達が頑張って直していた船が、自分の心をどんどんと問い詰めている気がしたのだ。
マナトとカミヤは無言で釘を1本1本抜き始めた。けど、カミヤが決して怒っている訳ではなかった。ただ、ミサを早く救いたく無言で集中して作業していたのだ。
おかげで船の釘を全部取り除くのに、10分もかからなかった。リビングにあったビニール袋に釘をつめ全財産入れた袋も持って、2人は勢いよく家の扉を開け、全速力で例の場所に向かった。
カミヤはいつものようにマナトに背中に乗った。そして、マナトは全速力を坂を駆け下り始めた。"ゴブリンズハイ"になると理性がなくなるので、ギリギリいかないラインを攻めた。
例の場所である路地裏に着くと、釘を奪った人が立っていた。全身に入れ墨が入っていて、顔がイカの魚人であった。
「おぉ~思ったより早いじゃね~か。カッカッ」
"カッカッ"という個性的かつ不気味な笑い方をしていた。
「ミサはどこだ」
辺りを見回してもミサが居なかったので、マナトはすぐに問い詰めた。
「あぁぁ!!!???」
イカの魚人の顔まわりにある触手が興奮で上に上がっている。
「盗んだのはそっちやろぉぉぉぉぉ!!!」
「何でおめぇぇぇえが立場上になってんだよぉぉぉ!!!」
魚人の顔は茹で上がりのように、顔が赤くなってきている。
「ミサは悪くないんだ。盗みの提案をしたのは俺なんだ」
「関係ねえぇぇぇよぉぉぉぉ!」
「早くよこせよぉぉぉぉぉ!!」
マナトはこれ以上怒らせるのも怖かったので、素直に釘が入った袋とお金が入った袋を魚人に向かって優しく投げた。
「うおぉ!結構あんじゃん」
さっきまでの怒った様子が嘘かのように、魚人はルンルンな顔になっている。
「ありがとうな。別に俺は盗まれてないけど。カッカッカッ!」
ケラケラと楽しそうに魚人は笑っている。
「え?」
きょとんとしているマナト
「たまたま目撃してただけだ」
「まんまと釣れたぜ、カッカッ」
「魚人に釣られる気分はどうだ?カッカッ」
「くそっ」
「じゃあな!ありがとさん!!」
「カッカッ~~」
笑いながら魚人は走りにげてしまった。
「おい!待て!」
マナトは両手で自分の太ももを叩き、脚に力を入れて走りだした。
猛烈なスピードで魚人に一瞬に追いつき、袋を取ろうと手を伸ばしたが、魚人の瞬発力が高く避けられてしまった。
「うひょ~びっくりしたぜぇ」
マナトはすぐに態勢を戻し、魚人に殴りかかる。しかし、何本もある触手がマナトの拳を食い止める。
魚人は平然な顔で余裕そうにしている。マナトはそれにイライラしながら、殴りや蹴りをするが、本体に攻撃が届かなかった。
「ガキが俺に勝てるわけねぇだろぉ、カッカッ」
そして、1本の触手がマナトの頬を殴る。マナトは吹っ飛び、壁に激突する。壁はポロポロと崩れ落ち、マナトを少し埋める。
「ふっ、じゃあな」
そう言い捨て魚人がまた走りだそうとした瞬間。
槍が飛んできて、魚人が持っていた袋を2つとも破いた。散乱する釘と金。
「逃すわけないじゃないですか」
槍が飛んできた方向にはカミヤが立っていた。
「てめぇぇぇえ!!」
魚人は怒り袋を捨て、カミヤの方へ全力で走って向かった。
(くっ、この後の事全然考えてなかった)
(今さっき『創生』したばっかだぞ...)
カミヤの焦る気持ちに比例するかのように、魚人はスピードを上げ近づいてきている。
(やばい...やばい...)
カミヤは生きてきた中で1番の恐怖と焦りを感じて、顔中に大量の冷や汗をかいている。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます