第13話 「過去の『選択者』」

 「捨てろとは?...」


 「今すぐ何かスキルを選択しろということ」

 「つまり『選択者』自体のスキルを捨てろ、ということじゃ」


 長老が静かに、でも力強い口調で、マナトに語りかけている。


 「お主は今まで『選択者』になった者の末路を知らないだろ」


 ハッとなるマナト。確かに今まで考えたこともなかった。


 「全員、何も選択できずに死んだ...」

 長老が涙目になりながら言う。


 「え、、どうして...?」


 「誰もが羨むスキル。盗もうとしたり、洗脳しようとしたり、悪用したがる奴らが沢山いる」

 

 「でも、俺は無事だよ」


 「それはあの子らが優しいからじゃ!」

 声を荒げ、机を思い切り叩く長老。


 瞬時に台所の方を見て、ミサの姿を確認した。運良く、ミサは鶏小屋に行っており、聞かれずに済んだ。


 小声で"すまない"と言い、申し訳なさそうにする長老。


 「昔、私には生まれた時からの幼馴染がいた。彼は、心優しく、けれど勇敢で、いつもみんなの中心的な存在だった」


 「そして、彼は11歳の誕生日に、スキル『選択者』を獲得した。誰もが納得をし、親戚を大勢集めパーティーを行い、盛大な祝福をした」


 「私も自分ごとのように嬉しく、本当に幸せだった。このような日々がずっと続くと思っていた」


 「けれど、パーティーから3日後。彼は、自宅付近の路地裏で遺体となって見つかった。暴行死だった」


 「『選択者』を聞きつけた街のヤクザグループが、盗もうとしたからだった。最後まで、抵抗した彼は、リンチされ殺されてしまった」


 「でも、犯人は捕まったんですよね?」

 マナトが恐る恐る聞く


 「いや、リーダーは捕まっていない。手下のヤクザが捕まっただけだ。だから、スキルも奪われたのかどうかすら分からない...」


 長老のしゃべりが途切れた。沈黙が少し流れる。


 「私は『心理』をオススメする」

 

 「え?」


 「物理的な強さはあまりないが、人の感情を読み取れる。感情が分かれば、彼の気持ちにもっと寄り添えたのかもしれない。真犯人を見つけることができたのかもしれない。今でも、そのタラレバを考える」


 「人に裏切られることもないし、相手の裏をつけることができる。おまえさんのゴブリンの身体能力を活かせる最強のスキルだと、わしは思うぞ」


 「あ、ありがとうございます」

 

 「出来る限り早く選択してくれたら嬉しい。おまえさん以外の仲間にも危害が及ぶ可能性はある」


 「ミサをこれ以上傷つけないでほしい...」


 「分かりました。」


 その後、長老は何事もなかったかのように、残りの朝食を食べ始めた。


 そして、カミヤとミサがリビングに戻ってきて、みんなで朝食をとった。


 3人で食べる朝食はとても美味しかった。ずっとこんな日が続いたらいいなと、マナトは思う。


 思うと同時に、今すぐスキルを決断するべきか、このまま旅を続行するかどうか悩んだ。


 「俺はどうしたいのか...」


 マナトは真剣に考えるが、朝食の時間だけでは決めることができなかった。

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