第11話 「食べかけの食べ物たち」
「興味がないとは?」
と、カミヤは優しく聞いた。
「私は落ちこぼれだから...」
ミサの食べる動作が止まる。
「......」
「自慢のお兄ちゃんがいるんだ。成績優秀でスキルも強くて、友達も多い人気者」
「ミサもお兄ちゃんが大好き。そして、ママとパパはもっと大好き。ミサのことに
興味がなくなるほど...」
沈黙が流れる
「食器を割っても、友達と喧嘩しても、壁に絵を描いても、財布を盗んでも、怒ったりしてこない」
「お兄ちゃんに比べたら何も出来ない。ミサはママとパパにとって空気と一緒なんだよね」
鳥のさえずりがよく聞こえる。風で揺れる木の葉のきしむ音が心に響く。
「学校行ってもお兄ちゃんと比べられるし、バカにされていじめられる...」
「私が居ていい場所がなかったの...」
「けど、マナトくん達は仲間に入れてくれた」
「すっごく嬉しかったよ、ありがとうね」
ミサは涙を堪えながら感謝を伝えた。
マナトはマナトは。マナトは、自分が憎かった。散々、転生前に人間関係で悩んでたくせに、今では人の人間関係を弄んでいることをしている。
それが意図したことでなくても、マナトにとっては嫌だった。まさか、自分自身がその立場になるとは思ってもみなかったから。
「もう俺らが居るから安心しろ!」
マナトは力強く言う、少し涙声で。
マナトはミサにハグをした。まるで、昔の自分を見ているかのように感じたマナトにとって、ミサの事が他人事のように思えなかった。
当時の自分がされたかった、人の温もりを。
ミサも最初は驚いていたが、力強くハグをし返した。マナトの服がくしゃくしゃになるほど、強く握りしめていた。
その反応を受け、マナトも我慢できず泣いてしまった。なんだか救われた気持ちがした。昔の自分を救ってあげられた気がした。
カミヤもその2人を包むようにハグをした。マナトの一連の思惑を知ってはいたが、決して言うことはなかった。
言ったところで誰も幸せにならないことをカミヤはちゃんと分かっていた。この事はもう忘れよう、そうカミヤは思った。
食べかけの食べ物が3人を囲う。まるで、心が欠けた者が寄り添い合っているかのように。
人に傷つけられ食べられた心は元には戻らない。けれど、欠けた部分を見えないようにすることはできる。
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