第10話 「ミサ」

 「ご、ごめんなさい~」


 魚人の女の子はビクビクと震えていた。手にはマナト達の財布を持っており、申し訳ないように差し出している。


 マナトはパッと財布を取り、カミヤに渡した。そして、指をポキポキ鳴らし、戦闘の準備に入る。


 「さぁ、痛い目に合ってもらおうか」


 「痛いのだけは、やめてください...」

 女の子は怯え、頭を抱えている。


 女の子に近づくマナトをカミヤは止めにはいる。

 「まぁまぁまぁ、財布のお金も減っていなかったですし」

 「なにより、小さな女の子ですよ...」


 カミヤの説得にあまり納得していない様子だが、マナトは渋々引きさがった。

 

 「盗むのもほどほどにしとけよ」

 そう言い残し、マナトは去っていった。カミヤもその後をついていく。



 「気を取り直して、ウオニク食べに行くか!」


 カミヤもそれを聞いて嬉しそうに掛け声をする。

 「おーーー!」


 「おーーー!!」

 

 マナトとカミヤは異変に一瞬で気づいた。掛け声の「おー!」に明らかに、カミヤの声ではないものが入っていた。2人が振り向くと、さきほどの女の子が笑顔で拳を掲げていた。


 「ウオニク食うぞー!!」

 女の子は2人を気にも留めず、元気よく言葉を発している。


 ”こいつなんなんだ”という嫌な顔をしながら、カミヤの目を見るマナト。それに答えるように、カミヤは首を傾げ両手でYのポーズをしている。


 マナトは相手にしてはいけないと感じ取り、カミヤの腕を掴み、大きくジャンプした。倉庫の上に乗り、建物と建物の間を飛び越え、繁華街へと戻っていった。


 時々後ろを見て、つけられていないを確認しながら、移動した。


 3分ほどの時間が経ち、無事にウオニクの出店に戻ることができた。


 「うぉ~~!にぃちゃん達すげぇな!!」


 無事に財布を取り戻してきたマナト達に、店主のおじさんはびっくりした。その反応を見て、マナトも鼻高くなっていた。


 「じゃあウオニクが...3つで195ポッタだ!」


 「3つ??」

 不思議に思い、聞き返すマナト

 

 「あぁ。後にいる連れのはいらないのか?」

 陽気なおじさんのよくある冗談かと思いながらも、後ろを振り向くマナト。


 「へへへへへ」

 また、あの女の子が笑顔で後に立っていた。


 驚くマナトとカミヤ達に対し、さらに追い打ちをかける。

 「私は地元民だよ。ウオニクの出店ぐらい全部把握しているよ」


 舐め腐った態度に、またイラつきそうになったマナトだが、良い考えを思いついてしまった。


 (地元民ねぇ...)


 「ちなにみウオニク買うお金はあるのか?」

 

 「ないよ!」


 呆れ、顔に手をつくマナト。


 「まぁ、いいよ。俺はマナト、よろしく」

 「そして、こいつがカミヤ」

 カミヤが軽くお辞儀をする


 女の子の顔が”ぱぁっ”と明るくなる。まさか、この回答が返ってくるとは思ってもみなかったようだった。

 「私は、ミサ!」


 その後、マナト達はウオニク以外にも、ウオニクをふんだんに使った”ウーオーズバーガー”やトロトロのチーズとトマトが合わさった”水トマトピザ”、全ての果実の味を味わえる”ドリームウォーター”などを買って、3人で近くの公園で食べることにした。


 結局、ウオニク以外にも色々と奢ってしまった。カミヤがこの状況に納得いってない様子だったので、マナトは自分の考えを耳打ちした。


 ミサはこの地元民なので、スキル調査するときに色々役に立つと考えた。また、足が速いのでお金が困った際に財布を盗んできてもらえる、という算段だった。意見を聞いたカミヤは、呆れながらも納得していた。

 

 「てか、お前服がボロボロだよな」

 「両親いないのか?」


 「いるよ」

 無我夢中に食べ物を食べているミサ

 

 「服買ってもらえよ、ちょっとくせぇぞ...」

 少し言いづらそうにいうマナト


 「買ってくれないよ」


 「え?」


 「ママとパパと私のこと興味ないから」


 ミサの食べるスピードは変わらなかったものの、目に光がなかった。ただ一点を、すっと見つめていた...

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