第9話 「ゴブリンズハイってやつだ!」

 (くそっ、このままじゃ追いつかない)


 「乗れ!カミヤ!」

 マナトが呼びかけると、カミヤは2つ返事で背中に飛び乗った。


 マナトは脚に力を入れる。ゴブリンの緑の血の流れを感じる。

 (なんだこの感覚...)


 足の回転は早くなり、脚力は上昇し、スピードが異次元に加速する。遠くにあった影がどんどんと近づいていく。

 「これがゴブリンの身体能力の力だ!楽しくなってきたぜ!」

 「”ゴブリンズハイ”ってやつだぁ!!」


 興奮が止まらないマナトのスピードは、上限の上限を超えていた。


 (マナトさんのスピードが速すぎる)

 カミヤはあまりの速さに目も開けられず、マナトの背中にしがみつくので精一杯であった。


 マナト達が通った後には、凄まじい突風が起きる。出店はぐらぐらと傾き、宙に浮かびなりそうなほどであった。繁華街一体に強風を巻き起こした。


 ”ヒュッッッ”

 黒い影が突然、進行方向を変え、裏路地に入っていった。こちらの異常な速さに気づいて、急遽進路を変更したような感じであった。


 「右の路地裏に行きましたね」

 カミヤが言うが、返事は帰ってこなかった。不思議に思い、マナトの顔の覗き込む。完全に目が点になっていて、理性がない様子であった。


 「ちょ、マナトさん!右ですよ!みぎ!」

 カミヤが顔をペシペシしながら一生懸命に声をかけるが、マナトの様子は変わらず、入るべき路地裏に曲がることができなかった。誰もマナトを止められない...


 ”騎手のいない馬は永遠に走り続ける”


 カミヤが思いっきり体を叩いても反応が全くない。そして、カミヤは嫌な事に気づいてしまう。自分達が進む一直線上に、大きなレンガの壁があるということに...


 カミヤは色々試し抵抗するが、その抵抗も虚しく壁に衝突してしまった。


 煙がたちこみ、騒ぎをかきつけた民衆が集まってくる。


 煙がはれ、マナト達の様子が映し出される。マナトはカミヤの下敷きとなって、覆いかぶさるようにして2人は見つかった。しかも、2人は大きな傷もなかった。


 「いたたたた...」

 カミヤが頭をさすりながら起き上がる。起きてすぐに、下敷きになっていたマナトに声をかけた。


 「へぁ!?」

 マナトはいきなりこの状況になっていることに戸惑い、すぐに理解することができなかった。しかし、どんどんと記憶が蘇ってくる。


 「くそぉ、逃したのか...」

 もう”黒い影”を見つけることは出来ないと思い、絶望し落胆するマナト。しかし、そんなマナトの肩を叩くカミヤ。慰めの言葉なんかいらない、そう言おうと振り返った瞬間。


 カミヤが小さなレーダーを見せる。にんまりと笑っている。


 マナトが目を覚まさないと悟ったカミヤは、小型GPS装置と居場所を確認するレーダー作っていたのだ。どちらも小型で、追跡範囲も最小限にしていたので、何とか短時間で作ることができたらしい。


 「時間がないです、急ぎましょ」

 呆気に取られているマナトにカミヤが声をかける。


 再びマナトはカミヤをおんぶして、財布を盗んだ”黒い影”の追跡を行った。カミヤがレーダーを見て確認し、マナトに指示を出している。マナトは先ほどよりも力を弱めて、街を走り、壁をキックし登り、ジャンプして乗り越えるなど、縦横無尽に駆け回った。


 GPSは止まっており、遂にレーダーが示すところに着く。場所は小さく古びた倉庫であった。


 音を立てずに、近くに寄る。犯人は隅でこそこそやっている様子で、ガラクタに隠れ、姿ははっきりとは確認できなかった。


 マナトは近くにあった縄を取り、投げ縄の形に変え、犯人目掛けて投げた。


 見事縄はすっぽりと入り、手ごたえを感じた。縄をほどかれ逃げられないように、マナトは一気に距離を詰めて捕まえた。


 「おいおい、まじかよ...」


 驚いているマナトの声を聞いて、すぐにカミヤも寄る。


 「どんな極悪人かと思ったら、」

 「俺らと年齢が同じぐらいの、子供の女だぞ...」


 マナトは想像していた人物とあまりにも違い、困惑をする。服はボロボロ、顔はおどおどしている困り眉で、可愛らしい黒髪ボブの人型魚人であった。




 

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