第8話 「旅終了!?」

 本能的に無意識に向かっていた2人に理性が戻ったのは、ヒュースを包む大きな空気バブルにぶつかった時だった。


 2人は出入口を探した。そして、斜め右方向に空気バブルの出っ張り部分を見つけ向かう。


 出っ張りには、魚人の番人が両端に立っていた。魚人の顔は茶黒いアンコウで、体は魚に手足が生えたような形をしていた。


 番人はマナトが持っているバックを無言で指をさした。マナトは少し躊躇するが、カミヤの目が”逆らわないでください”と訴えていたので、抵抗せずに渡した。


 番人はバックの中を手でゴチャゴチャかき混ぜる。バックの中身が、水中でぷかぷかと浮かび始める。


 番人は下手な笑顔を見せ、バック中身を適当に元に戻して返してくれた。そして、入場の許可が出て、遂に海の街(ヒュース)に入ることができた。


 空気バブルの中のヒュースは、外で見るよりも光が強く、電子掲示板や巨大映像モニターがありインパクトが凄かった。街にも活気があり、魚人が9割で他人種が1割のような感じであった。


 目を引くものが沢山あったが、まずは病院に向かった。カミヤの骨折した指は、医者の先生によってすぐに治してもらった。


 しかし、医者は口が尖った老人の魚人で、治療方法が傷部分にキスであった。治療してもらってる時のカミヤの表情が面白く、マナトは笑いを抑えるのに必死だった。


 病院を出る2人。

 「はぁ...」


 「まぁ、無事に治ってよかったよ。助かった、ありがとうな」


 「いえ、当然のことですよ」

 カミヤは優しい笑みを見せる。


 そして、2人は目を合わせる。

 

 「最強スキル調査をする前に、腹ごしらえだな!」

 

 「はい!」


 ヒュースを向かう道中のおかげで、言葉を介せずに、ある程度の意思疎通ができるようになったと思う2人であった。


 一行は出店が多く並ぶ繁華街へ向かった。繁華街は大勢の観光客や地元民がいて、まともに歩くことができないほどであった。マナトとカミヤは互いに腕を掴み、離れないようにするのが精一杯であった。


 「あの肉上手そう!!」

 人混みの隙間から見えたこんがり肉を見つけて、叫ぶマナト。


 「あれは、ウオニクですね!ヒュースの名物の1つです!」

 「外側はカリカリで噛み応えがあり、内側は肉汁を多く含み、口の中で肉の遊園地になるらいしいです」

 

 「なんだよそれ、めちゃくちゃ上手そうじゃねぇか!!」

 説明を聞くマナトも、説明をするカミヤも、よだれが止まらなくなった。


 2人は人混みに流されないように、踏ん張りながらウオニクの出店に向かった。なんとか人混みから抜け出し、出店の前に立つことが出来た。


 「おじちゃん、ウオニク2つください!」


 「はいよー、130ポッタね」

 この世界での紙幣はポッタで、どこの国や地域に行っても使えるらしい。


 少し高いがせっかくだと思い、マナトはリュックから財布を取り出し、小銭を漁っている瞬間。なにか黒い影が目の前を通る。驚いて手の動きが止まる。


 疲れによる見間違いだと思い、また小銭を漁り始めようとしたその時。マナトは気づいた。手元に財布がないという事実に。


 「あちゃー、にーちゃん運が悪かったね」

 その様子を見かねた店主が言う。

 

 「この街の有名な盗人に取られちまったみたいだな」

 「取り返せた奴は見たことも聞いたこともない」


 「残念だが、諦めるんだな」


 「いや、諦らめてたまるかよ!」

 「行くぞ!カミヤ!」

 マナトはカミヤに手を伸ばす。


 「はい!」

 カミヤはその手を受け取る。


 マナト達は大きくジャンプし、出店の上に乗っかる。そして、黒い影が逃げてった方向へ走り出す。かすかに黒い影を目視することができたので、まだ見失わずに済んだのだ。


 (あの財布には全財産入っているんだよ...)


 (あれが無くなれば何もできねぇ)

 


 (オレたちの旅はがここで終了しちまう...)

 

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