ココロの扉は体で開ける

 快楽を求めるための愛撫というより彼女の体から一つ一つ言葉を言葉を集めるように肩、腕、腰、お腹、お尻、太ももに手を降ろしていく。千秋は首に近い肩と太ももの内側が敏感だから触るときにはゆっくり、相手の返答を待つように感じてもらう。昔は苦手だったけど、話をするときには相手の目を見ることが大切。いつでも話しやすいように口角を上げて千秋の返答を待つ。

「ん…んん…」

恥ずかしくなって目を逸らしだしたら無理には続けない。その代わりに触る場所を絞ろう。後ろに回って敏感な首筋を舌で、内股を右手、そして左手でおへその少し下をゆっくりゆっくり触れていく。高校生になって育った体で彼女に問いかける。何があったのかを。

「や…弱い所ばっか…だめ…」

彼女がほめてくれた私の歌とギター。それに浮かれて始めたバンド活動に夢中になってしまっていた。仲間はみんないい人だった。音楽が好きで、別の高校だったけど勉強や遊びを教え合って、とっても楽しかった。CDも出せてそこそこ売れてフェスにも出られた。でも私は浮かれすぎていて始めた目的も忘れてしまっていた。

「あ…服の中…入って…んんっ」

千秋に…千秋ちゃんに喜んで貰いたい、そんな思いだけでよかったのに。ずっと2人だけでよかったのに。もっと褒められたいから苦手だった人付き合いも頑張ったよ。もっと好きって言ってもらいたいから曲のレパートリーを増やしたよ。いっつも最初に聞いてもらうのは千秋ちゃんだったのに…

「この前と違って優しい百合美様もいいね…」

「…っ!!」

会話が途切れてしまった。千秋ちゃんがはまった百合美様はバンドをやっていたころの私によく似ていて最初は嬉しかった。でも…でもさ

「ん…どうしたひゃぁ!」

「百合美様じゃないよ千秋ちゃん」

「…そう、だね。ごめん。」

肌に触れていた指を話し、腰に手を回した。さっきまでの高揚感が一気に冷めてお互い安定した心音が聞こえる。また、間違えちゃったのかな。このままうやむやにして私が百合美様として千秋ちゃんと一緒に暮せば今みたいに悲しませることも無かったのかな。どうして私はいっつも自分のことばっかなんだろう。小さいころから泣き虫で千秋ちゃんに助けてもらって、私が千秋ちゃんを助けたことも無いのに親友面して…

「なにも…なにもわたしわぁぁぁぁぁ」

「うえぇえ!?ど、どうしたの?」

「やっぱり私は変われなかった!いつまでも千秋ちゃんに頼ってばかりの弱い自分じゃなくて守りたかったのに!みんなに自慢できるような人になりたかったのに!」

なさけないなさけないなさけないなさけない。なんて情けないんだ私は。

「変わったよ小春は。あんなに小さかったのに私より大きいじゃん。」

「見た目だけ変わっても意味ないよぉ…」

「それに…うん、まあ…」

「ひゃう!!」

私を抱いてた千秋ちゃんの手がいつの間にか臀部の方へ回っていた。百合美様に近づくために引き締められたお尻が揉みしだかれ、つい変な声が出てしまった。落ち着いていた呼吸も荒くなり、首を噛まれている。耳の後ろで収まらない荒い鼻息で彼女が興奮していることに初めて気が付いた。

「え…?なんで…」

「…ごめんね。」

戸惑う私をよそに手の動きは激しくなっていった。もはや主導権は私には無い。自分の失敗が招いたこととして今回のところは諦めて千秋ちゃんの好きにしてもらおう。決して興奮した千秋ちゃんにめちゃくちゃにされたいとそういうわけではない。うん、決して。

「本当に変わったよ小春は。私好みのとってもかわいい子に。」

「でもそれって百合美様そっくりってことでしょ?」

「違うの!!」

「小春はずっとずっと可愛かった。初めて会った時から好きなの。いっつもおびえて私の後ろに隠れるところも、頑張って私に守られないようにするけど結局駄目で落ち込んじゃうとこも、私以外話せる友人がいなかったところも、ギター弾いてるところも、声も、新しい友達が出来たときはほっとしたし嬉しかった。私が…引きこもった時に声が聞けて嬉しかった。その後バンドやめちゃったのは申し訳なかったけど何も言わずに同じ大学きて同棲してくれたのも嬉しかった。好き。固形物食べれなくなっても工夫して作ってくれた料理も好き。ありがとう。小春がバンドやってた頃に似てた百合美様を推してると嫉妬したように見てくれたのも好き。この前百合美様にコスプレして襲ってくれた時大好きな小春が求めててくれて嬉しかった。でも途中私のこと千秋ちゃんって言ってたのはクオリティ低いから直した方がいいよ。でも好き。さっき私の体に触れてくれた時に感じた少し柔らかくなったギターたこも好き。とっても頑張ったんだね。それから…」

「私の体に聞くって言っておきながらもうこんなことになっちゃってるのも好き。」

 ずっと秘めていた感情を出しつつ小春を押し倒し、気づけばお互い裸になり、濡れた場所を千秋に触られていた。優しく優しく割れ目をなぞる指は細く、高校入学した時の方が肉付きは良かったくらいだ。そんな体で我慢していたものを私は無理やりこじ開けようとしていたのだ。なんと馬鹿なのだろう。

 自分勝手な私と私のことばかりの幼馴染。仲違いはなかった。ただ、お互いが求めて、心配かけたくなくて起こってしまったすれ違いだった。言葉にしなくていい。だって思い出しちゃってつらいもの。だから温めて。そしたらきっとあの時は死ぬかと思ったって言えるから。その時に隣にいてあなたの話も聞いてみたいなぁ。








 我ながら最低な週末を送っていた。2日間ずっと体を重ねてシャワー浴びて1日寝るという東横もびっくりなハードスケジュールだった。明日からレコーディングして、来月にはライブ。働いてから休日ずっとゆっくりしたがっていた両親の気持ちが痛いほどわかる。ただ、隣にいてくれる人を守りたい気持ちもよく分かった。

 改めて抱きしめ合った日から数日後、私はまたバンドがしたいと以前までいたグループに入れてもらった。その日は顔を腫らして帰ったが許してくれた。家で彼女の好きな曲を一緒に歌ったり、カッコつけてポーズを決めたときは楽しかった。

 そんな日が続いていると、ぽろっと彼女の口から言葉が零れた。

「そういえばあの時さぁ…」

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