甘露

 雀が鳴き出すころには目が覚ざめていた。布団に残る女の匂いを出したくなくてまた布団に包まる。自分の布団ではないのに落ち着く香りは昨日目合った幼馴染の布団から漂っていた。百合美様が会いに来たと思ったら強引に押し倒されて寝ていた。夢のような時間だったが、女というものは変なところが鋭く、直ぐに同居人であることに気づいてしまった。

 嫌なわけではなかった。優しくされたのは初めてだったし、いろいろ溜まってたし。痛痒い左腕は彼女に抱かれたままでちょっと痛いが、それもまあ、いいか。




「ん…ふぁぁ…おはよう千秋…」

「おはようございます百・合・美・様」

「…?…あっ…」

「とりあえず説明してくれる?どうし百合美様の恰好してるのかっていうのと私とエッチした訳を。」

にこにこと笑う私と対象的に小春はとても申し訳なさそうな怒られている子供みたいな顔をしている。くそ、顔が百合美様だからまじで美しいな土下座するぞ?

「私が…私が百合子様になれば千秋の物になってカップリング論争で千秋が怒らないようになるかなって…」

「は?」

「だから!千秋が昨日不機嫌だったからこうしたら喜ぶかもって…」

「はぁ…で、それどこでやったの?百合美様のコスプレ」

「千秋が帰った後の大学でスタイリング科の子たちに…」

「うちのスタイリング科すごいな…。」

「怒ってるよね?」

「まあ、怒ってないことはないけどさ、気持ちよかったからそこらへんは許す。」

「ありがとう」

「なにお礼言ってんのよ、ほら、早くご飯作って。夜から何にも食べてないからぺこぺこ。」

 小春から離れた左腕にはいくつあるのか忘れた元切り傷たちがかゆみを放っている。昨日かいてしまったばっかりに包帯を巻くはめになったが血は止まってるし長袖着るだけでいっか。さてイベントイベント…ってマジか!もう59位まで落ちてるの!?これ10万で行けるか?いやいく!!

「…。」




 やった後って独特な匂いがするらしく、小春に大学行くまえにお風呂入って行けと言われたためお風呂なう。もちろん周回中。

 鏡に映る私の体は相変わらず貧相でこんなの抱いてもなんも面白くないだろって思う。それにしても小春またいろんな所マーク付けてるな…。首、左手、お尻と右足って…あいつあんなにマニアックだったんだ。小春と付き合う奴は大変だな…。あんな傷痕フェチとは。




 体液特有の香りから解放されて今ではどこに出しても恥ずかしくない石鹸の良い香りに包まれている私は最強。鶏と野菜のペースト片手に周回&周回。

「ふう…。」

小春がお風呂からあがったようだが構わず周回。小春に引っ張られながらも周回。歩く時にはもちろんしない。大学ついて速周回。あっ、教科書忘れた。ま、いっか。

 


 ボタンを押し続けること約10日間。ついに戦いは終わった。魔法のカードが何枚使われたのかは忘れたが私は勝った。私こそ百合美様最強のファン。全国約1000万の下僕たちすまんな、百合美様のこと語る前に私に通してもらおうかがはははは!!

「よかったね1位になれて」

「まあね、ふう、ありがと。イベント期間家事やっててくれてて」

「…千秋がどうしてもっていってたからね。」

「イベント中のお礼としてなんでも私にお願いしていいよ。」

「なんでも?」

「そそ、なんでも…あ、お金は今ないから少し考えてくれると助かるな。」

「じゃあさ…」

いつもより低い声が出ている小春。しまったな、なんでもなんて言わなきゃよかった。

「教えてよ…その傷誰がやったの。」

浮かれすぎた代償は大きかった。

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