第7話 復帰
国際異能管理局。通称アンラベル天曽根支部。かつて自身が所属していたその組織に、退院から一週間が経過した今日この日、ついに雄馬は復帰を果たす事となる
今朝は一本の着信で目覚めた。眠たい目を擦り携帯を取ると、見知らぬ男の声が聞こえ「これから自宅へ送迎車を手配します」と告げられたので慌ててシャワーを浴びて準備を済ませた
マンションのエントランス前には、高級そうなセダンが停車しており、近くで運転手らしき男が一服していた。運転手に声をかけて車に乗り込み、天曽根の市内を走り出す。天曽根は広い。かつて八王子及び日野市が位置していた東京西部の広大な土地が、恐怖の大王出現時に更地となってしまった事もあり、復興に際してこうして異能都市へと転用したらしい
20分ほど移動し、車は天曽根支部の敷地内へと入った。まるで軍事施設のような広大な土地と、各所にら聳え立つ高層ビル。何に使うのか分からないようなドーム。何よりも目を引いたのは、恐らく敷地の中央部に位置する巨大な塔だ。雲に触れそうなほど高く、他の建造物とは明らかにスケールが違う。目算だが、1000メートル以上はありそうだ。あんな物、何の為に建てたのだろうか
敷地内に入ってからも10分程度車で移動し、雄馬はようやくパトリオットが普段常駐しているという「衛星公遊統括事務局」へと到着した。ここも一職場として考えればなかなかの大きさだが、先ほどの高層ビル群や巨大タワーを見てからだと幾分か見劣りしてしまう
雄馬は運転手と別れ、事務局へと入っていった。フロントで受付を済ませて、茅場隊の隊室へと案内される。隊員の半分とは面会で既に顔を合わせているが、後の3人は今日が初対面となる。雄馬は不安と期待を胸に、茅場隊の隊室の扉を開けた
パンッ
「茅場隊長!お帰りなさい!」
部屋に入った途端、クラッカーの音と出迎える6名の隊員達。雄馬は突然の出来事に呆然とし、立ち尽くすことしか出来なかった
「お…お〜…ありがとう」
数瞬遅れてから何とかリアクションを取るも、かなりぎこちない反応になってしまった
「おい…やっぱ普通に出迎えた方が良かったんじゃないか?誰だよ、こんな提案した奴」
雄馬の反応が思ったより悪かった為か、隊員の一人がそう苦言を呈する
「なんだよ。染谷も乗り気だっただろ」
そう反応するのは確か…面会にも来ていた紫藤とか言うメガネの隊員だ。少々気まずい空気が流れる中、仕方なく雄馬はフォローをする
「ごめんごめん。急だったからビックリして。ありがとう皆、嬉しいよ」
「ほら!茅場さんもこう言ってるだろ」
「気遣わせてるのが分かんねえのか?大体お前はいつも…」
「ちょっと2人とも。今日は初再会の子も居るんだから、まずは自己紹介でしょ」
2人がヒートアップしていく中、城内が仲裁に入る。流石、自慢の後輩だ。すると、紫藤と言い合っていた金髪の青年が、ポリポリと頭をかきながら雄馬の前に出てきた
「…染谷晃一です。戦闘では基本前衛やってます。どうも」
「うん。よろしく」
「うす…」
少々無愛想な気もするが、雄馬が記憶を失っていることもあるし、やはり多少なりとも気まずさがあるのかも知れない
「角田元です。えと、タンクっす」
隊員の中で一番体格の良い男だ。タンクらしい
「笹倉伊織です…索敵とか、後方支援をしています…」
大人しそうな女性だ。どうやら隊員はそれぞれ戦闘における役割が決まっているらしい
「私と紫藤と宮部は一緒に面会したから…これで全員との顔合わせはオッケーかな、よし!」
そう言って城内がパンと手を叩く
「じゃあみんな。早速だけど、これから任務に向かいます!」
「えっ、もう?」
まさか復帰初日からいきなり任務に連れて行かれるとは思っていなかった。よく考えれば雄馬はまだ、病院で一回暴発したくらいで拡張意識の扱いもまともに出来ていない状況だ
「はい!…と言っても、隊長は基本的に見てるだけでお願いします。今日は簡単な内容だし、まずは干渉士の戦い方っていうのをざっくりと説明するので」
そう聞いてホッとする。とはいえ、いきなり戦場に足を運ぶわけだから、油断するわけにはいかない。自分の身くらいは守れるようにしておこう
「では各々隊服に着替えて、10時に第四ターミナルに集合ね。全員集まり次第出発するので、迅速に。一時解散」
城内の号令で、各々が部屋を出て行く
「隊長の着替えはここにあるので、そこの更衣室で着替えちゃってください」
「ああ。ありがとう」
城内に隊服を渡され、隊室内の更衣室で着替える。柔軟な素材で出来ていながらも、その手触りはまるで極細の鉄線のように頑強だ。鏡を見て、襟と帽子の位置を整える。なかなか様になってはいるが、やはりこの服装を見ていると記憶の中のあの男の事を思い出してしまう
「お待たせ」
「うん。やっぱり似合ってます。いつもの隊長って感じです。じゃあ私も着替えてくるので、この部屋で待ってて下さい」
そう言って城内は部屋を出ていった。どうやらこの部屋で着替えるのは雄馬だけらしい。室内をよく見てみると所々雄馬の私物と思わしき本やノートが置いてある。隊室と言っていたが、実質的には雄馬の部屋のようなものなのだろうか
「お待たせしました!」
「早いな」
「パトリオットの出動は速さが命ですから!じゃあターミナルまで行きましょうか」
そう考えると雄馬はだいぶ悠長に着替えてしまった。次からはもっとスピーディーに着替えられるようにしよう。雄馬は城内に連れられ、来た道を戻る形で事務局の廊下を歩き出した
しばらく進んでいくと屋外へと出た。駅前のロータリーのような場所に、十数台ほど装甲車のようないかつい車両が停まっているのが見えてきた
「ここが第四ターミナルです。私達茅場隊は基本的にここから隊送車に乗り、任務のある現場へと向かいます」
「茅場隊長。お久しぶりです」
「あ、どうも」
隊送車から、見知らぬ男が降りてきた
「私は茅場隊主任の東と申します。隊長や隊員方の任務における様々なサポートを行う、秘書のような者だと考えて頂ければ」
「よろしくお願いします」
「城内さん。こちら今回申請されたレセプターです。お間違いないですか」
「えーっと…はい。全員分問題なくあります」
そういうと東は隊送車のバックドアを開く。中には剣の柄のような機械や、拳銃のような物も見える。レセプターと言われていたが、これは…
「あの…これって武器じゃ…」
「違います」
食い気味に東が否定する
「え、でも完全に」
「パトリオットの任務をサポートする為の装具。レセプターです。断じて武器ではありません」
そうは言われても、明らかに殺傷能力があるように見える。現在世界中で恐怖の大王の力によってあらゆる兵器が使用不可になっていると聞いていたが、一体どういう事だろうか
「あの…隊長。アンラベルでは『そういう事』になってるんです。あまり深掘りしないで下さい」
「えぇ…」
もしや、これを頑なに『装具』などと呼称しているのは、恐怖の大王の力によって機能を停止させられない為なのだろうか。しかしそんな単純な方法で兵器としての判定を回避出来るとは思えない。そうだとしたら恐怖の大王があまりにも間抜けすぎる
「お待たせしました。隊長、城内さん。全員揃ってます」
そんなことを考えていると、残りの隊員達が揃ってターミナルへ到着したようだ
「よし。出発しましょう」
雄馬達は隊送車へと乗り込んだ。いよいよこれから、雄馬の初任務が始まる。右も左も分からないまま戦地へ赴くという不安の中、雄馬の心はどこか少し高揚していた
「(久しぶりの戦場だ…)」
任務で戦った時の記憶などもちろんない。しかしなぜか、そんな言葉が脳裏には浮かんでいた
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