第5話 通学

「胃が熱い…」


何とか唐辛子ラーメンを完食した雄馬。ふらつく足取りで大森ラーメンを後にした。後からやって来たはずの城内は、苦戦していた雄馬とほぼ同時に食事を終えていた


現在はその城内に案内され、雄馬が通っている天曽根大学へと向かっている所だ。特に用があるわけではないが、当てもなく街を歩いていても仕方ないし、実にでも会いに行こうと思ったのだ


「あはは…久しぶりの外食があれじゃ、流石の隊長でも仕方ありませんよ」


と城内が笑う。雄馬はふと気になった事を城内に尋ねてみる事にした


「ところでさ。その『隊長』ってのは何なの?」


「あ、まだご存知じゃなかったんですね。隊長はパトリオット茅場隊の隊長を務めてまして、現在私を含め6人の直属の隊員が所属しているんです」


なるほど。確かに英雄と呼ばれていたくらいだし、そういった役職を与えられていても不思議ではない。思い返してみれば面会の時も城内達は雄馬の部下として紹介されていた気がする


「隊長って具体的には何するんだ?」


「基本的な活動内容は一般隊員と同じですが、月に一度のミーティングに参加したり、任務受任の最終決定を行ったりですかね」


そう聞くと、隊長とは名ばかりで面倒事ばかり押し付けられているような印象を受ける


「あとは、リバティーズの任務への同行とかは隊長だけの権限ですね」


「リバティーズ…?」


「あ、リバティーズっていうのはパトリオットの任務に同行して、サポートする事が認められた能力者達の事です」


「ほう」


「私たちパトリオットは全員『干渉士』と呼ばれる同一の能力者で構成されているんですけど…」


その話は病院で実からも聞いた気がする


「任務の内容によっては、どうしても干渉士だけでの対応が困難な場合があります。そんな時に隊長の権限があれば、多様な能力を持つ方々で構成されたリバティーズに出動申請を送り、任務に同行して頂く事ができるんです」


お助けキャラみたいな感じか。確かに全員が全員同じような能力しか使えないのでは、敵性能力者との相性によっては苦戦を強いられる事もあるだろう


「でも、隊長の権限がないと任務に同行出来ないなんて、結構規制が厳しいんだな。正式な隊員じゃないからって事か?」


色々な力を持った能力者がいるのなら、初めからそいつらを組み込んで部隊を作れば良いのではないか、と思い雄馬は尋ねた


「…それももちろんあるんですけど、一番は暴走時に対処できる強さを持った干渉士が必要だからです」


「暴走…そんな事が起こり得るのか?」


「基本的に全ての能力者には暴走の可能性があります。特に戦闘時や命の危険が迫った時などはその確率も高まるので…」


そうだったのか。あまり知りたくない事実だった


「なら、干渉士は良いのか?俺たちも暴走する可能性はあるんだろう?」


「いえ、干渉士は例外です。『体系者』がいるので、暴走する心配はありません」


体系者…また知らない単語が出てきた。とにかく、干渉士には暴走する心配がないらしい。ならば一安心だ。だからパトリオットは全て干渉士で固められているという事だろう


「あ、着きましたよ。ここが天曽根大学です」


そんな事を話しているうちに、どうやら目的地に到着したらしい。駅からは歩いて30分ほどだったか。食後のいい運動になった


「では、私はこれで」


「うん、ありがとう。悪いな、わざわざ案内してもらっちゃって」


「いえいえ。お気になさらないで下さい。私たちは今までたくさん隊長に助けられて来ましたから。今度は私たちが助ける番です。困った事があったら、これから何でも頼って下さいね」


そう言って城内は屈託のない笑顔を見せた。なんとよく出来た後輩だろうか。記憶を失う以前の雄馬が頻繁に食事に誘っていたのも頷ける。もしや雄馬は城内に気があったのではないだろうか。今となっては知る術も無いが


「さてと…」


ではさっそく実に会いに行こう。入院中に聞いた話では、基本的に情報棟とかいう建物に入り浸っているらしいから、まずはそこを目指すとしよう


雄馬は大学の入り口に設置されていた全体地図を見て情報棟の場所を確認し、すぐに歩き始めた


構内はかなり広く、建物や設備なども新しく小綺麗な印象だ。正門付近には多くの学生が居たが、情報棟に近づくにつれて学生の数が目に見えて減っていくのが分かる


「ここか…」


ちょっとしたビルの様な大きな建物。地図を見た限りここが情報棟で間違いないだろう。玄関を抜けると、まるでホテルのフロントの様な光景が広がっていた。雄馬はとりあえず受付らしき場所に声をかけてみる事にした


「あの…郡山実の友人の、茅場雄馬という者なんですが」


「実様のご友人ですね。アポイントメントはございますか?」


しまった。何の連絡もなしにやって来てしまった。いや、そもそも大学の友人と会うのにアポがいる方がおかしいのだ。そういう事は先に言っておいて欲しい


「いや…特には…」


「でしたら、恐縮ですが本日のご案内は致しかねます。後日事前に許可を取った上でまたお越しください」


と、呆気なく言われてしまった。雄馬は急に恥ずかしくなり「す、すみません」と言ってその場を立ち去ろうと受付に背を向けた。その時


「お、雄馬。よく来たな」


郡山実がどこからともなく現れた


「今は暇かい?よかったら上がって行きたまえ。僕自慢の部屋を見せてやろう」


何だ。アポが必要なんじゃなかったのか。雄馬はどういう事かと受付の方を見た


「…本当に実様のご友人だったとは、大変失礼致しました」


なるほど。実の友人を騙り会いに来たと思われていたのか。確かに郡山財閥の総裁だとか言っていたし、この男につけ入ろうとする輩は少なくないのかも知れない


「いや、僕も雄馬が来る可能性がある事を受付に一言伝えておけば良かった、僕のミスでもある。気に病む事はない」


と、実が受付の女性をフォローする


「雄馬。君も、僕じゃないにしても友人と会う時は連絡くらい入れておくのが常識だぞ。それが最低限のマナーだし、そもそも互いの予定を合わせないと会う事も出来ないだろう」


「す、すまん」


至極真っ当な事を言われ、雄馬は反論の余地もなかった。そんな雄馬の反省した表情を見た実は、意地悪そうに笑い


「まあ、今日君がここに来る事は何となく予測していたがな」


と言った


「えっ?どうして?」


「今の君の性格を考えれば、退院して自宅へ帰っても、書籍ばかりのあの部屋に飽き、そのうち僕に会いに来るだろうと思っただけだよ」


ふと、初対面の時に実がIQ200の天才だとか言っていた事を思い出した。自称だし、適当な事を言っているのだろうと思っていたが、もしや本当にこの男は天才なのだろうか


「いやまて。それなら、俺が来るであろう事を何で受付の人に言わなかったんだよ。お前、ここを通ったらたまたま俺がいたから、適当な事を言ってるだけだろ」


「そんなの、君がうちの受付に追い返される所を見たかったからに決まってるじゃないか。なかなか滑稽で面白かったぞ。英雄が背中を丸めて帰る様はな。まあこれで、こないだの病室での一件はチャラにしてやろう。ははは!」


こいつ…なんて良い性格してやがる。雄馬は、実がただの善良な友人でない事にようやく気が付いた

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