mission 19 ゴツゴウシュギノオトナタチ


「ずみまぜんでした…!」


ピリカに殴られたボロボロになった俺はとりあえず彼女に謝る。


「お前…散々だな。」


「うるせえよ…!」


「つーか、ピリカのやつ普段は人のことなんてゴミみたいな目で見てるくせに急にどうしたんだ?」


確かにピリカは他人に感情移入するような奴じゃない。


「私の為に怒ってくれるなんて…嬉しいです。」


「うるさいっ!私があんたを助けてあげるから!」


私には両親がいない。母が私を妊娠したのは高校生の頃だった。父親は母が私を妊娠してるとわかった時点で逃げてしまったらしい。母は私を産むことを選んだが私が2歳の頃に男を作って私を捨てた。クズな両親の娘…親戚の間をたらい回しにされたが私はどの家でも邪魔者だった。目の前で開催される子供達の誕生日パーティー。もちろん私の食事は用意されていなかった。


学校は通えば親のいない私はいじめの標的。どうして私だけ。みんなが羨ましい。

その頃からだった。他人に対して塞ぎ込んでしまっていた私に『声』が聞こえ始めたのは。


その声は後に悪魔の声だと知るが当時の私にとって話しかけてくれる存在ってだけで嬉しかった。

だから私はその声に従って力を使った。

結果、私は同級生の男の子を殺しかけた。


だから私は他人と関わっていけない。


「ピリカ!おい!ピリカ!」


「…!う、うるさい!聞こえてるって!」


「なに神妙な顔で考え事してんだよ。カグヤさんを助ける策を考えてんのか?」


「そ、そうよ。」


「お前達が地球人か?」


俺たちが声のする方に目を向けるとそこにはカグヤに似た顔つきの男が立っていた。


「お父様…!」


あ、やっぱり?顔似てるね。


「カグヤ…。お前は月の養分となり死ぬ為だけに生まれた存在だ。妙なことを考えるなよ?」


全部聞かれてたのか?

そんなことを俺が思っていると突然ピリカがカグヤの父親に向かって飛びついた。


「ふざけんなっ!死ぬために生まれた!?この子は感情を持って生きてる!親が子供に死ぬための存在なんて言うなっ!」


「ふん。お前達に何がわかる。俺が作った物だ…どう扱おうが俺の自由だと思うがな。」


「おやめ下さい!ピリカさん…もういいんです。」


「カグヤ。予定より少し早いがお前を月の養分にする。もしもそこのカスどもに邪魔をされると面倒だからな。」


「…わかりました。ピリカさん。あなたに会えてよかった。」


カグヤは微笑みながらそういうと父親と一緒に部屋を出て行った。


「カグヤっ!まって−−−」


ピリカが後を追おうとするとカーランが行手を阻んだ。


「…後は追わせない。」


「おい…先行け。こいつは俺が相手してやるよ。」


「さっき負けたばかりでよくそんな態度を取れるものだな。」


「任せたぞ!豚!」


「豚じゃねえ!さっさと行きやがれ!」


カーランはヒヅメに任せて俺とピリカはカグヤの後をおった。


「お前に勝ち目があるとでも…?」


「ははっ!勝ち目?そんなのいくらでもあんだろ!」


そういうとヒヅメはその場に寝転がった。


「何をしている…。」


「中途半端じゃあお前には勝てねえからな。」


「それが勝ちに行く姿とでも言いたいのか?」


「ああ。そうだ。」


「戦闘態勢をとっていない者を攻撃するのは忍びないが…。」


カーランはヒヅメに攻撃をしかけた…はずだった。


「なっ!?」


「どうしたぁ?走ることもできねえか?」


「体が…!」


「“完全なる怠惰”俺の奥の手さ。てめえは3分間考えることすらめんどくさくなるぜ。」


「…。」


(何もかもめんどくさい。)


「ははっ!」


思考を放棄したカーランの右頬をヒヅメが殴る。


「めんどくさいから殺してくれ…。」


生きることすらめんどくさくなったカーランをヒヅメは攻撃する事をやめ、縛り拘束することにした。


3分が経った。


「なぜ…俺を捕らえた。」


「てめえは俺たちと本気で戦わなかったからな。」


「!!」


「一度も武器を抜いてねえだろ。立場上わざと負けることは出来ねえが多少力抜いて戦うならバレねえ。それにお前ほどの実力者なら俺が食い止めようがあいつら2人を追わせないことだって出来たはずだぜ?お前俺たちを勝たせようとしてたんじゃねえのか?」


「そんなことは…。」


「図星だな…。理由はなんだ。」


「…俺の役割は月を護ることだ。しかし俺は愛する者と引き換えに月を護る決断ができねぇ!!」


カーランは大粒の涙を流しながら大きな声で叫んだ。


「それが本音か。」


「そうだっ!俺は!俺はどうすれば…。」


「さあな。だがなお前が迷ってる間にもうちの2人は行動を起こすぜ。あいつらはカグヤを救う道を選んだみてえだからな…。そんなに月が大事か?大事なのはどこにいるかじゃなくて誰といるかじゃねえのか?」


「…モテなさそうなのに良い事を言うな。君は。」


「てめえやっぱぶっ殺してやる!!」


−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−


「2人だけでこの人数の護衛隊に勝つつもりかのぉ?」


確かにこのくそ大臣の言う通りだ。相手の人数は50人を余裕で超えてる。それに対してこっちは2人だけだ。


「おいピリカ!なんか勝算あんのかよ?」


「うるさい!私は1人でやるんだからあんたは勝手にしてなさいよ!」


この女はまた…。


(他人なんて必要ない。今までもこれからも私は自分の力だけで生き抜くんだから。)


「はいはい。他人なんてどうでも良いですか。」


「そうよ!」


「じゃあなんでお前はカグヤさんを助けてえんだよ!」


「…あんたに関係ないでしょっ!」


「関係あるだろ!俺も助けてえんだから。」


「だったら1人でやってよ!私に関わらないで!」


ピリカの育ってきた境遇についてはさっきクソメガネからチラッと聞いた。同情はするし聞きてえことは沢山ある。でも今は時間がない。


「ふん…。コスタリスあいつらをカグヤに近づけるなよ?さあ始めようか。儀式を。」


「はい。お父様。」


やべえ!はじまっちまう!


「どうすればいいのぉおおお!」


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