mission 12 ナンデウサギガタニキルノ


「昔々…あるところに1人の青年が居た。

彼は年若くして両親を亡くし、誰かが手を差し伸べてくれる訳でもなく1人で精一杯生きていた。」


「おい。なんの話だ!」


「黙って聞いてろ…。マザコン。」


「青年はなんとか生き続け齢が40に近づいた頃ある1人の倒れている鬼と会った。鬼な見た目ははツノが生えていたり、衣服を纏わないこと以外はただの人間…青年は人間と見た目の近い鬼の女性を見て見ぬふりすることはできなかった…。」


「だれの話なんだ!僕たちは桃太郎の…!」


「黙ってて。テンマくん。」


今はおとなしいモードのヒナタが珍しく怒ったことでテンマはおとなしくなった。


「…。青年はその鬼と時間を共にするにつれ愛情というものを感じてしまった。しかし鬼と人間は交わることが出来ない。もしも、その時を迎えてしまえば避妊は意味を無く鬼と人の混血…呪われた子が生まれてしまう。」


呪われた子…?なんだそりゃ。


「青年を心から愛していた鬼は自分自身を怨んだ。なぜ私は人じゃないのか。なぜ彼と結ばれる事を神は許してくれないのかと。そんな彼女の目の前に悪魔が現れた。悪魔の名は『強欲のマモン』その悪魔は鬼にある話を持ちかけた。その話とは鬼族に伝わる『キビダンゴ』を製造し続ける代わりに鬼を人間にしてやると。」


「なあ…その青年って…。」


「…ああ。わしのことだ。浅はかだった。ツノの生えていない彼女の口から人間になったと聞いた時は驚いた。神は我々を見ていてくれたんだとさえ思った。しかし我々を見ていたのは悪魔だったのだな。」


「そのあとはどうなったんですか…?」


「起きた事の重大さに気付かなかったわしらは愛し合った。そして妻は子を授かったよ。それが桃太郎だ。」


桃から生まれたんじゃないんかい。

じゃあなんで桃やねん!と突っ込める雰囲気でもないので黙っておこう。


「桃太郎が6歳になった頃わしは妻が『キビダンゴ』と呼ばれるそれを作っているところを偶然見てしまった。その食べ物は他人を洗脳する力があった。すぐに辞めさせようとしたが…その時初めてマモンはわしの目の前にも現れたよ。そしてこう言った。作るのを辞めるなら息子を殺すと。わしは自分が置かれている状況を理解した。あれは人間とは全く違う次元の生き物だ。勝てるはずがないと。」


「ちょっと待て。桃太郎は結局、呪われた子とやらじゃなかったんだろ?ただの人間の子供がどうやってキビダンゴなんか使って−−−」


ああ。そう言うことか。


「桃太郎…息子はマモンにキビダンゴを食わされていた。わしらが気づいた時には既に洗脳されていたよ。強欲の悪魔がそもそも我々と対等に取引をするはずなんてなかったんだ。マモンに洗脳された息子はキビダンゴを持って鬼の里を滅ぼし、その血を飲み結局…呪われた子になってしまった。」


「その呪われた子ってのは何なんだ?」


「悪魔の憑依に耐え得る者…鬼族には昔から人間との間に子を成すなと言い伝えられていた。」


人と鬼の混血。それは悪魔達にとっては素晴らしい物件であった。人間の体は悪魔にとって憑依体としての適正は高いが老いとともに劣化し、やがて死に至る平凡な肉体では永遠を生きる悪魔にとって交換の手間がかかってしまう。対して鬼の体は憑依体としての適性が全くない反面、強靭な肉体、高水準な知能、そして不老不死。全てが悪魔が求めていたスペックだった。


遠い昔、人間と恋をした鬼は愛を育み、子を授かったが下位の悪魔に憑依され、1つの里を滅ぼしたと言う出来事があった。それ以降、鬼族では人との間に子を成すことは禁じられていた。


「でもなんでその悪魔はわざわざ混血の子供を産ませずに鬼を人に変えたんだ?」


「鬼族にしかキビダンゴは作れぬ。だから妻を選んだんだろう。なぜ悪魔がわざわざ混血ではなく人間の子供に鬼の血を飲ませ人工的に混血を作り出したと思う?」


「…いやそれを聞いてるんだけど。」


「遥か昔に生まれた混血の子供は悪魔に憑依されて3時間で亡くなった。おそらく血の割合が多少鬼の方が強かったのだろう。鬼の血が悪魔の憑依に拒絶反応を起こさないためには人間と鬼の血が対等にならなくてはならない。その為、人間に鬼の血を適量飲ませることによってうまく調整する必要があったからだ。」


いやあのクソメガネは確か、桃太郎は奪った鬼の血を全て飲み干したと言ってた。てかなんで血飲んだら混血になんの?おかしくね?


「なぜ…。血をのんだだけで混血になるのでしょうか?」


ナイスクエスチョン!ヒナタちゃん!


「鬼の血は人間の血とは違う。原理はわからぬが鬼の血を接種した人間の体で起こるのは着床の様なものだ。惹かれあった血液は新たな血液を産む。」


「桃太郎は殺した鬼達の血を全て飲んだんだろ…?」


「…ああ。人間の血の量はおよそ4.5㍑対して鬼の血の量はおよそ40㍑…。1人分の血を飲んだとしても到底釣り合う量ではない。血液の過剰摂取がもたらした結果は、人を人間の血液の混じった鬼に変えることだった。唯一の救いは人の血が薄れたせいか悪魔の憑依体としての器ではなくなったと言うことだけだろうな。」


「それで貴方は桃太郎をどう止めるおつもりですか。」


「もう息子は死んでるよ。あれはただマモンのおもちゃにされて罪なき人々を巻き込む心無き鬼だ。わしが全部終わらせてやらねばならない。」


「その覚悟がお有りですか…?」


「…それが親としての責任だからな。」


うん。どうしよう。シリアスな展開すぎじゃない?なんか話長すぎてみんなついてこれてる!?

今までのギャグみたいな展開どこいったー?


「話は終わったかい?」


あ。静かなマザコン初めてすぎて存在すら忘れてたわ。


「僕達は急いでいるんだ。あなたの思い出話を聞いている間にも何人も犠牲者が増えているはずだ。覚悟をしていると言うのであれば思い出など捨てるべきだ。戦場で思い出に浸る奴は死ぬぞ。」


こいつがまともな事を言ってるのを初めて聞いた気がする…。なのに何故だろう。恐らく正しいのだろうがこいつが言うと間違ってるように思えてくる。


あれ?なんだろう…急に外が暗く−−−


「てめえらか…。俺たちを嗅ぎ回ってるクソ犬共はよぉ?」


でっかぁぁあ!!でっかい犬がしゃべってるううう!!待てよ…?顔が3つ!こいつまさかケルベロスか?


「ケルベロス!」


あ!やっぱそうなんだ!


「桃太郎さんのこと探してるみてえだが会うことはねえよ。」


「それは何ででしょうか…?」


「今から俺の腹ん中に招待してやっからだよ!」


ですよねーーーー!


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る