mission 1 ヨシズミアラタヲカンユウセヨ


俺の名前は吉住 アラタ。

俺は今日…卒業式を迎えようとしている。

あ、卒業式って言っても高校や大学のじゃないぜ…。俺は今日大人になるんだ。


そう思っていた。俺の握りしめていた3万円と引き換えに現れたのはメスのトドだった。いや恐らくはメスのトドに限りなく近いDNAをもった人間なのだろう。


「はじめて〜?怖がらなくていいからねっ!私に任せて!」


トドは日本語の発音が上手いらしい。

トドはそういうと俺に目掛けて唇を突き出し俺のファーストキスを奪っ–−−


「ちょっと待てえぇい!ふざけんな!なんで3万出してトド見にこなきゃなんねえんだよ!トドなんて3千円出せば水族館で好きなだけ見れるよなぁ!?あ?それともなんだお前はアザラシか?セイウチか?そんなんどっちでもいいんだよ!!あんま舐めてっとなあ!!」


勿論、俺は出禁になった。


必死に貯めた3万円で素敵なお姉さんとあんな事やこんな事をする夢を見ていたんだ。

その夢の代償がトド。涙が出てきた。

さよなら。マイドリーム。


俺は溢れる涙を手で拭きながら帰路に着いた。

10分くらい歩いていると後ろから名前を呼ばれた。これが最悪な出会いの始まりだった。


「吉住アラタ君ですね。早乙女アイリと申します。」


急に名前を呼ばれて俺は一瞬振り返った。

俺の目に当たったのは見覚えの全くないメガネをかけた美女だった。整った綺麗な顔立ち、魅惑の麗しきボディー。俺は一瞬、鼻の下を伸ばし返事をしてしまいそうになった。


しかし俺は返事をせず前を向き歩き続けた。

恐らくこれは詐欺だからだ。可愛い女性が俺みたいなやつに話をかけ、その気にさせたところで高額商品や保険の営業を始める。そんな詐欺だ。


「え?ちょっと待ちなさい!貴方に地球防衛機構から入隊の要請が…!」


地球防衛機構…?あ、こいつバカだ。可愛い顔したバカだ。関わらんとこ。


「過酷な仕事ですが入隊するだけで5000万。加えて月々の給料と任務成功の際にはボーナスを支払います。」


「やります。」


「なので一度考えて…え?」


「やります。僕は常日頃から思っていたんです。小鳥が囀り、花が笑う、この大切な地球を誰かが守らなくてはと。そんな時に地球防衛なんとかからのお誘いを受けた。奇跡だ!これは奇跡としか言いようがありません!」


「そ、そうですか!では、具体的な職務内容を説明させて頂きます。まず本日限りで御家族とは会えなくなります。と言うのも明日からは日本の空域の上空100㎞に存在する地球防衛機構日本支部に住み込みでついてきてもらいます。そして肝心の仕事ですが−−−」


5000万!5000万!!正直、地球防衛機構とか意味わからんし、この女がただの馬鹿なのかもしれない。でも、そこに金を掴み取るチャンスがあるのならば…!俺はそいつを掴まずにはいられない!


「説明は以上です。それでは明日また迎えに参りますので。」


「あ、はい!了解っす!」


俺はなんも聞いてなかった。

そんな小難しい話なんてどうでもよかった。

5000万円。俺の頭の中はそれだけだった。




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