第3話 心の気持ち

…あの日から半年ほど立ったある日、私は一度も神殿を出ることなく役目をこなしていた。まあ通常、至高神様になにか言われなければ、神が神殿を出るなんてことをしない。神殿は、いわばその神の力の保管庫。中界に住む妖精や、その親と言える存在である精霊ですら、何も力を制御していない神の前では、力が強すぎるがゆえに消滅してしまう。そのために力を預けておく場所だ。この預けた力は、神殿内にいるときのみ使えて、神殿外よりもできることの幅が増える。なのに、神殿をわざわざ出る理由も、あるわけがないから。あくまで私の考えになってしまうが、こういう部分からも、神は穢れを持たない理由がわかると思う。人間は、ある程度の娯楽がないと生きていけない。その理由は、欲求が満たされないから。しかし、神がそんなんであると、役目をこなすことに専念できない。そんな、邪魔でしか無いもの、無い方が良いのだ。…にしても…。

“また会わせてくれ。どれだけ時間が経っても、また!”

約束をする神なんて…。いや、そもそもエニーは神であって神で無いような存在だった。人間のような行動を取っていても、何もおかしくはない。…でも、なんでそこまでして、私に会いたがるんだろう。私なんて、ただ水の力を司っているだけなのに。

…まあ、今は別に事件も起きていないし、この変なモヤモヤの正体を知りたい。

あの日…エニーと会った日から、時間の流れが遅く感じた原因も。ついでに、中界み何か問題が起きてないかも見て回ってしまおう。

そんなことを思いながら、私は中界に瞬間移動テレポートした。


 ――――――――――――――――――――――

 たったの半年しか経っていないが、中界の店はすっかり春模様になっていた。至高神様の管理する世界から持ってきたのか、桜の枝や菜の花などががいたるところに飾られている。そいえば、エニーと会った日は、ひまわりやアサガオが飾られていたような気もする。…あまり良く見てなかったから、覚えてないけど。そして、確かエニーの居た場所は…。

「うおっびっくりした!…て、アリアか!また来てくれてありがとな。」

私あの日出会った場所に行くと、ちょうどエニーが路地裏から出てきた。私は、ここに誰かがいるのは分かっていたが、エニーはそういう感覚が鋭くないようで、危うく正面からぶつかられかけた。当然だが、前からエニーは何も変わっていなかった。相変わらず全体的に赤い衣服を着ていて、顔の動き…というか、表情の変わり具合が激しい。なんでかわからないけど、エニーに会うと、謎の安心感…みたいなものを感じる。穢れを司る神だと言うだけなのに。

「覚えてるか知らないけど、早速マナの巨木んとこいかね?お前に合わせたい人がいるんだ。」

会わせたい人?あそこには、四大精霊しだいせいれいと生まれたばかりの妖精たちしか居ないはずだが。まあ、もはやいつ行ったか覚えてないくらい前にしか行ってなかったし、たまには見に行ってもいいか。

『わかった』

その言葉を聞いたエニーは、私の手を急に掴んだ。

「ありがとな!じゃあ行こうぜ!」

そう言うと、エニーは私の手を引っ張るような形で、中界の上空にある雲へとジャンプした。

流石にこの身体能力は、エニーが神であることを再認識させる。わざわざ雲から雲えとジャンプしていくところを見ると、瞬間移動テレポートを使うことも、空を飛ぶこともできないのだなと、なんとなく察することができた。

そんな事を考えながら雲を足場に目的地へ向かっていくと、私が思ったより早くマナの巨木のある空島についた。

「ふー、たまには体を動かすのも悪くねぇな。」

神でも、久々に体を動かすとスッキリするものなのだろうか。私も久しぶりに、この空島まで徒歩できたが、その感覚がわからない。でも、エニーはもはや完全な神ではないことがわかりきっている。だから、私がこいつのことを考えてもしかたがないと思った。

私がそんなことを思考していた間に、エニーはマナの巨木を眺めていた。

「ここ、きれいだと思わねぇか?マナが飛び交って、宇宙みたいな空が広がってて…。」

空島の景色について語っていたエニーは、急に私の方に視線を向けたまま静止した。私は、なぜかと思ったが、その理由はすぐわかった。

「お前、そんな水滴浮かんでたっけ?」

エニーは、私の周りをキョロキョロ見渡してそういった。

その理由は、まさしくマナだろう。

マナが、私の水の力に反応して、こうやって水滴を作り出しているのだ。

7要素のどれかの力を持っていると起こる現象だ。

火であれば周りに火球が。風であれば緑に輝く、小さなオーブのようなものが、周りを浮かぶ。別に、これをエニーが知ってようが知らまいが問題はないので、わざわざ喋るようなことはしなかった。

「…まあ、神だし?何でもありか。じゃあ、えっと、あっちだ。」

私はそのまま連れて行かれると、目の前には、水の大精霊。

ウンディーネがいた。

「あらアリアちゃん、久しぶりね。ずいぶんと大きくなって…ふふ、元気そうで良かったわ♪」

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