第57話
「ノーティス様、どうなっちゃったのか心配だね…。レグルス、あなたの力なら彼を探し出すことができる?」
「…?」
一方的に冷たい扱いを受け続けていたとはいえ、心の中ではノーティスが失踪してしまったことを気にしている様子のエリッサ。
もちろん今の彼女にノーティスに対する特別な思いやこだわりなどは何一つないであろうが、それでも一人の人間が忽然といなくなってしまったという事実を知ってしまっては、なにも心配しないわけにもいかなかった。
そしてそんな彼女の言葉を聞き、レグルスはその頭上に?マークを浮かべて見せる。
レグルスにしてみれば、エリッサがノーティスの事を心配する気持ちがあまり理解できなかったのだろう。
「ノーティス様はもう私とは無関係だし、どうでもいいと言えばどうでもいい存在だけれど、それでもノーティス様にだって仲の良い人がいるはずだし、心配している人だっているだろうし…」
バッ!!!!!
「!!」
「ど、どうしたのレグルス!?」
エリッサがそう言葉をかけていたその時、それまで大人しくしていたレグルスが突然にその体を大きく動かし、敵を警戒するかのような態勢を取り始める。
エリッサはその動きの意味が最初は分からなかったものの、レグルスの様子からこの場でなにかが起こったことはすぐに理解し、彼女もまた自身の周囲を見回し始める。
…すると、部屋の陰の位置から一人の人物がその姿を現した。
「ア、アクティス…様…?」
現れた人物の姿を見てエリッサはそう言葉を漏らしたものの、その口調は相手がアクティスだと確定させるものではなかった。
…それもそのはず、たった今彼女の目の前に現れた人物は、外見こそアクティス第一王子の姿をしていながらも、その背中から翼竜のような羽が生えており、口の端からは吸血鬼のような牙がその姿をのぞかせていたためだ。
「え、えっと……あ、あなたは…」
「なんだ、憧れの王子様がこうして迎えに来てやったというのに、あんまりうれしそうじゃないな」
「む、迎え…??」
「っ!!!!」
エリッサの前に現れた人物は正真正目、アクティス第一王子本人である。
それを証明するかのように、レグルスはやや殺気を放ちながらエリッサの前に立ち、アクティスの事をにらみつける。
「ククク…。レグルス、お前はこのお姫様を相当お気に入りみたいだな…。夢中で彼女に付き従うそんな姿を見せられてしまったら、俺はますます彼女への興味が深まるばかり…。なぁレグルス、俺たちは同じ聖獣だろう?少しくらい俺にもその思いを味見させてもらったっていいじゃないか♪」
「(ア、アクティス様が聖獣って…!?し、しかも私の事を味見って…!?)」
「っ!!!!」
アクティスの大胆不敵な言葉を聞いた二人は、それぞれが大きなリアクションを見せる。
エリッサの方は、アクティスの発した言葉の意味を理解することができず、その表情を驚愕の色調で染め上げていた。
一方、レグルスの反応ぶりはすさまじく、決してエリッサの事をアクティスには渡すまいとの思いからか、最大限にアクティスの動きに警戒心を持って備えた。
「お姫様の事は自分が独り占めしたいって事か?お前も見かけによらず独占欲が強いんだな…」
「(レ、レグルスって私の事を独占してるつもりだったの!?)」
「だがレグルス、お前は昔から変わらないところがある。それを今から教えてやろうか?」
「(ふ、二人は昔からの付き合いなんだ!?っていうことは、昔は二人で遊んだり話したりしていたのかな…!?聖獣同士の絡み合いってどんな感じなのか結構気になるかも…!?)」
「お前は昔から、意識が前にばかり集中する悪い癖がある。まぁ人間を相手にするなら別に問題にはならない性質だろうが、俺を相手にするなら別だ。ちゃーんと後ろもみないとな?」
「っ!?!?」
「ひゃぁっ!!!!」
アクティスがそう言葉を発した直後、彼は瞬時にその場から姿を消すと、一瞬のうちにレグルスの背後に回り込み、そのままエリッサの体を軽々と抱き上げる。
「ア、アクティス様!?こ、これはどういう!?」
「囚われのお姫様を第一王子が直々に助けに来たってところかな」
「わ、私別に囚われの身ってわけじゃ!?」
エリッサからの返事に構わず、アクティスは彼女の体を少し揺らしてその反応を楽しむ。
はたから見ればなんだか美男美女の恋人同士がイチャイチャしているようにしか見えないその光景を見せられて、レグルスがその心の中に抱く殺意はついに最高潮に到達した。
「!!!!!!」
「おっと、これ以上はさすがにまずいな…。それじゃレグルス、言った通り俺にも姫様の味見をさせてもらうからな。それじゃまたなっ♪」
「レ、レグルス待っててね!すぐ帰るからぁぁぁ!!!」
刹那、アクティスは自身の翼で勢いよく上空へと舞い上がり、屋敷の屋根を貫通してそのまま目的の場所を目指して飛び立っていった。
後を追いたいレグルスだったものの、エリッサから待っていてと言われてしまった手前二人の後を追う事はできず、その場で全身を床にうちつけてやり場のいないジェラシーを発散させるほかないのだった…。
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