第56話
「ど、どうやら間違いないようですカサル様…!ノーティス第二王子は本当に神隠しにあったように消えてしまったと…!」
「ふむふむ、それは非常に興味深い…♪」
部下からもたらされた知らせを聞き、ノーティスはその顔に不敵な笑みを浮かべて見せる。
シュルツが想像していた通り、彼がこの一件に関わっていた関わっていないは別にして、やはりこの状況はカサルにとって非常に都合のいいものである様子だ。
「自分から消えてくれるとは、これはこれはなんと引き際の良い王子様であろうか」
「しかしあのまま第二王子のイスに座り続けていたとしても、もはや彼がその立場を剥奪されることは紛れもない事実だったことでしょうから、カサル様が王子になるというストーリーは変わらないですけれどね!」
「まぁ、それもそうだな」
部下からの言葉を受け、カサルはさらに一段とその機嫌を良くしていく。
が、それと同時にどこか腑に落ちない要素にも彼は気づいた。
「しかし、妙だとは思わないか?ノーティス第二王子の往生際の悪さは有名だった。少し自分の置かれている状況が厳しいものになったからといって、自分からいなくなったりなどすると思うか?」
「それは確かにそうですが…。しかし同時に、ノーティス様は大変にプライドの高い性格であることもまた有名でした。競争の末にカサル様に第二王子の座を奪われてしまうくらいなら、いっそ自分の方から逃げ出してしまおうと考えたとしても、ありえない話ではないかと…」
「うーむ…」
二人の考えはいずれも鋭く、ノーティスの性格を考えればどちらも考えられうるものではあった。
しかしまさか、正体を現した第一王子によってその身を滅ぼされてしまったというのが実際の所であろうとは、この時二人は夢にも思わなかったことだろう…。
するとその時、カサルの部屋の中に二人の人物がその姿を現した。
「お父様、こちらにいらっしゃったのですか!」
「大変ですお父様!ノーティス様がどこにもおられないと…!」
カサルの娘であるサテラとシーファが、やや慌てた様子でカサルにそう言葉を発する。
カサルはそんな二人を諭すように、冷静な口調でこう言葉を返した。
「落ち着くんだ二人とも。いいかい、ノーティス様はこの俺に第二王子の座を奪われることを恐れて、自分からその身を消したんだ。王子らしからぬ間抜けな最後だが、それが真実なんだよ。本当に彼のことを思うなら、そっとしておいてあげるんだ」
「まぁ、そうだったのですか…。ノーティス様もお気の毒ですね…」
「ちょ、ちょっとまってお父様!!それじゃあお父様が第二王子になるってこと!?」
冷静なシーファとは反対に、長女のサテラは語気を荒げながらそう言葉を発した。
カサルはその言葉を受けて、どこか得意げな表情を浮かべながら高らかにこう言い放つ。
「あぁ、そうだとも!すでにアクティス第一王子様からもバックアップをもらっているし、王宮に仕える貴族たちも俺のことを推してくれると約束してくれている!どうだ、驚いたか?」
「さいっっっこう!!!お父様最高!!!」
サテラは高ぶる感情の勢いのままにカサルの体に抱き、うれしさを全霊でアピールする。
「それじゃあ私は王族令嬢になれるってことね!!まさかこんな日が来るなんて!!(これでシュルツ様の隣に立てる確率もかなり上がったはず!!身分差が埋まるってかなり大事な事ですもの!!)」
シュルツとの距離を縮められるかもしれないという期待感に胸を弾ませるサテラだったものの、その一方でシーファの方は非常に落ち着いた雰囲気を見せていた。
「(ノーティス様、逃げ出しちゃったのかぁ。こっそり距離を縮めていい関係を築いて、お姉さまの事を見下そうと思っていたのに…。まぁでも、結ばれる前にこうなってくれてよかったって考えるべきかしら。だってもしも私がノーティス様と結ばれた後になって、負けるのが嫌だから逃げ出そうなんて言われたら、私はノーティス様を選んだことを後悔してもしきれないもの)」
密かにノーティスとの関係を築こうとしていたシーファだったものの、意外とその気持ちが切れるのは早かった様子。
その実彼自身にはあまり魅力を感じてはおらず、彼の座る第二王子のイスにしか興味を持っていなかったのだろう。
「それでお父様、お父様が第二王子の後を継がれるとして、エリッサとの関係はどうされるのですか?」
シーファの投げかけた言葉を聞き、カサルは再び得意げな表情を二人に見せつけながら、自信にあふれた様子でこう言葉を返した。
「決まっているだろう?聖獣の力はきちんと頂くとも。俺はあいつの父親だからな、聖獣をよこせと俺が命じればあいつは必ず聞き入れる。あいつが今まで俺に逆らったことがあったか?なかっただろう?今回も同じだとも♪」
「くすくす…。それじゃあ完全に私たちにとっていい方向に話が進んでいるというわけですね♪」
「第二王子のイスも聖獣の力も、全て私たちのものに…!どこまでもエリッサは不憫ねぇ、さすがは誰からも望まずして生まれてきた女だわ♪」
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