第58話
「え、えっと…なにからお話したらいいのか分からないんですけど…」
「何でも聞きなよ。別に時間はいくらでもあるんだから」
アクティスは自身の腕の中にエリッサの体を抱きかかえながら、広い大空を自身の翼で颯爽と飛翔していた。
エリッサはアクティスに半ば誘拐されるような形でその場にいるのではあるものの、彼女の聖獣に対する直感がアクティスから悪い気を感じていないのか、特にこの状況に困っているような様子は見せていなかった。
「あ、あの…アクティス様ってほんとのほんとに聖獣なんですか?レグルスと同じ?」
「無論だとも。あいつとも長い付き合いだぜ?」
「そ、それじゃあえっと…レグルスとはどういうご関係になるんですか?私そのあたり全く分からないので…」
「別に特別なことはなにもないさ。聖獣は何らかの生き物に魂を宿す形で生まれる。俺は人の器に魂が入り込んで生まれたから人の形をしていて、レグルスは獣の器に魂が入り込んだからあの形をしている。出会ったのはもう数えきれないくらい昔の事だからはっきりとは覚えてはいないが、別に敵対するもの同士ってわけじゃないぜ?」
「で、でもなんだか二人はよくケンカしてるような雰囲気に見えたのですが…」
「同じ聖獣同士ではあるが、あいつは獣の身だから俺とは喋れなくてな。だから何が言いたいのか分からないことがよく合って、そのたびに俺たちはよく衝突していた」
「そんなことが…」
「だからこの時代で再会を果たした時も、きっとこれまでと同じことになるのだろうとばかり思っていた。しかし、君にはあいつの言っていることがよく分かるみたいじゃないか。俺にはその方が衝撃だったな。いったい何をどう勉強したんだ?」
「べ、勉強というわけではないんですが…。なんというか、自然と言っていることが心に入ってくるっていうか…」
「ふーん…♪」
エリッサからの返答を聞き、アクティスは自身の表情に一段と深く笑みを浮かべて見せる。
おそらくその言葉を聞いて、エリッサに対する興味をそれまで以上にそそられているのだろう。
「俺さえも聞き取れないレグルスの声、それがまるで親のようにすんなりと理解できる、か…。(ノーティスには相当のヒントを出してやってもかけらも理解できなかったというのに、まるで奴と正反対…。時の第二王子さえ持ち合わせていなかったなにかを、この女は持っている。まったくどこまでも俺の心をつかんでくれるな…♪)」
「っ!?」
アクティスは機嫌を良くしてか、抱きかかえるエリッサの体にそれまでよりも強くぎゅっと力を入れると、そのまま自身の王宮を目指して飛翔していった。
――――
「つ、ついに俺の元にこの書類が…!!」
アクティスがエリッサの事を第一王宮にへと運んでいたその一方、第一王宮では一人の男が心からのうれしさを隠せない様子であった。
「これはアクティス第一王子様調印の決定書…!俺の事をノーティスの後の座に置くことを決定したと…!ついに、ついにこの俺の時代が…!!」
男は心の底から湧きあふれ出る感情のままに、自身のこぶしを天高くつき上げる。
そんな男のもとに、一人の女が歩み寄る。
「やったわねあなた!!忌々しい存在だったエリッサを追い出したことが、まさかここまで効果を発揮してくれるだなんて思ってもいなかったわ!娘たちも心から喜んでくれるわ!」
女はそう言葉を発しながら、自身の夫の体に強く強く抱き着く。
それまでは第二王子に仕える存在でしかなかった夫は、今やその座を継ぎ、第二王子その人へとなっていた。
「ユリア、これで君もついに第二王子夫人だぞ??どうだ、ものすごく気分がもりあがってくるだろう??」
「当然よ!!王宮は生意気なエリッサの飼い犬が勝手なことをしたせいでボロボロではあるけれど、それでも王宮であることには変わりないもの!私はこの王宮で最も位の高い女になれたという事でしょう?こんなに胸が躍る経験は今までで初めてよ!」
「そうだろうそうだろう!しかし気にする必要はないぞ?俺がこの王宮のトップになったからには、必ず聖獣の力を我が手にして見せるとも!聖獣がエリッサに従うのなら、やつの父親である俺や母親である君にも必ず付き従う!そして聖獣の力でこの王宮を元に戻す!そうすれば我々に対する評価はとてつもないものとなり、俺たちを見る周囲の目はますますいいものとなっていく!こんなにも完璧なストーリーがあるだろうか!」
カサルはこの上ないほどに自身の目を輝かせながらそう言葉を発し、自信に満ち溢れた雰囲気を醸し出す。
そしてユリアもまたそんなカサルの言葉に夢中になっている様子で、自分たちの理想の実現を全く疑っていなかった。
「アクティス様も我々の味方であることに違いない…!ゆえに、アクティス様がエリッサに味方をするはずがないのだから、我々の勝利は確定的と言える…!」
「そんなの当たり前だわ!あなたが第一王子となったのだから、もう二人は兄弟のようなもの!そこにエリッサが割って入れるはずがないもの!」
意気揚々とそう話をする二人。
この時すでにアクティスとエリッサが物理的に非常に近い距離にいようなどとは、全く想像さえしていないのであった…。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます