第43話

ノーティスが一世一代の大勝負に出ようとしていたその一方、当のエリッサは自室にて、レグルスが王宮から持ち出した書類に目を通していた。


「これって……あの子たちがいた貴族家のことだよね…」


その資料を見つめながら、エリッサは大いに驚きの表情を浮かべていた。

というのもそこに書かれていたのは、ノーティス第二王子が行ってきた貴族家たちへの弾圧の記録であったためだ。

エリッサが救出した子どもたちは没落貴族の子どもたちだと彼女自身教えられていたものの、貴族たちが没落するまでに追い込まれてしまった裏には、ノーティスが彼ら一部貴族家の事をつぶして回っていた事実があった事がはっきりと記されていた。


「(レグルスってやっぱりすごい…。ただ王宮を壊しただけじゃなくって、もしかしたらこの資料を探して回ってたのかな…?)」


エリッサが王宮にとらわれていた子どもたちの事を案じていたことに、レグルスははやくから気づいていた。

おそらく彼はそれゆえに、エリッサだけでなく子どもたちの事も考えた行動をとったのだろうと考えられた。


「(これがあれば、みんなのお家の貴族家の人たちが立場を取り戻せるかも…。そうなったら、またみんながそれぞれの家族と一緒に生活できるかも…!)」


没落した貴族家の長たちは、家族に迷惑をかけないためにすべての責任を自分たちで背負い込み、その姿をくらませることが美徳とされていた。

そして行く当てのなくなった子どもたちはノーティスが拾い上げ、あの王宮で政治の道具として生活させる毎日が続いていたのだった。


「問題は、この資料を誰に突き付けるかだけど…。ノーティス様に突き付けてもしらを切られちゃうだろうし、それなら彼よりも上の立場の人に言うのがセオリーだけれど、そんな人いるかな…」

「ギャアアァァァッァァ!!!!!」

「っ!?」


その時、エリッサの耳にとてつもないほどの大きな声が突き刺さった。

聞こえてきたのは部屋の外からで、おそらくその声の主は子どもたちであろう。


「な、なになに!?」


突然の叫び声に一体何事かという表情を浮かべるエリッサは、そのまま勢いよく自室から飛び出し、声の発信源と思われる部屋に向かって全速で駆けていった。


――――


「うわあぁぁぁぁん!!!!」


エリッサが駆けつけていったとき、子どもたちの中でも一番年齢の低いカノンが大きな声で泣いていた。

そこにはほかの子どもたちもいたものの、泣きわめくカノンにどう声をかけたらいいのか分からないような様子で、あたふたとした雰囲気を浮かべていた。

エリッサはそのまま彼女のもとに駆け寄り、優しい口調でこう言葉をかける。


「ど、どうしたのカノン?なにがあったの??」

「大事にしてた服が破れちゃったよおぉぉ!!!」


カノンの言葉を聞き、エリッサは改めてカノンの着ている服に視線を移す。

…なるほど、どうやらここではしゃいで遊んでいた拍子かなにかで、服が破れてしまったらしい。


「大丈夫よカノン、ここには服がいっぱいあるから、代わりの服をプレゼントしてあげる!」


そう、エリッサの言った通り、ここには以前レグルスが生み出した無数の洋服がピッカピカの状態で残されていた。

生み出された洋服のサイズは多岐にわたるため、子どもたちにフィットするサイズの服もきちんと用意されていた。


「ほんと!?新しいお洋服!?」

「えぇ、レグルスが作ってくれた服よ?気になるでしょう?」

「気になる気になる!!」


エリッサの言葉を聞き、機嫌を完全に取り戻した様子のカノンだったが、そんな光景を見せられた他の子どもたちもまた、当然黙ってなどいられない。


「い、いいないいな!私も欲しい!!」

「おねえちゃん!!いっぱいあるんでしょ!!ならいいよね!!」

「はいはい、みんなにもプレゼントするわね♪」


エリッサは優しく微笑みながらそう言葉を返すと、そのまま子どもたちと手をつなぎ、かつてレグルスが大量に服を召還した場所まで案内していった。


「おおぉぉ!!!」

「すっごいすっごい!!」


まるで宝の山のようにあふれかえる色とりどりの洋服を前にして、子どもたちは色めき立つ。

すると、エリッサは数ある服の中から厳選に厳選を重ね、これぞという一着を取り出してカノンの前に差し出した。


「これなんかどう?あなたにすっごく似合うと思うの!!」

「………」

「…あ、あれ?」


数ある中からエリッサが選んだのは、上下緑色のだぼだぼパーカーセットのような服だった。

そんなエリッサのチョイスした服を前に、カノンはその表情を硬く好調くさせる…。


「…」

「カ、カノン…?大丈夫…?」


…一体何をどう間違えればこの山の中からそんな組み合わせを思いつくのか、とでも言いたげな表情を浮かべて見せるカノン。

それは彼女だけでなく、この場でエリッサのセンスを目の当たりにした子どもたちの全員がそう思っていた…。


そしてそんなエリッサの事を、遠目に残念そうな瞳で見つめるレグルス…。


「あ、あれ!?わ、私またやっちゃった…!?ど、どうしようレグルス!!!」


…子どもたちから向けられる憐みの視線を受け、若干冷や汗をかきつつあるエリッサ。

レグルスはやれやれといっや表情を浮かべながらエリッサの元まで歩み寄ると、普段と変わらぬジェスチャーである知らせをエリッサにもたらした。


「…え?私にお客様…??」

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