第42話
その後、シュルツとも別れる形となったノーティスは、あまり原型をとどめていない王宮廊下を歩きながら、一人でこう言葉をつぶやいていた。
「ちくしょう……どいつもこいつも、俺の立場が苦しいものになった途端に俺から離れていきやがって…。いったい今まで俺がどれだけ面倒を見てきてやったと思っているんだ…」
部下だった者たち、ノーティスのもとで兵をしていた者たちの多くが彼の元から離れていき、味方を失った彼の立場はさらに苦しいものとなりつつあった。
…もっとも、果たして本当に彼が部下の面倒をきちんと見ていたのかどうかについては
「本当にもう、エリッサに詫びるしか俺に残された手はないのか…?もはや顔も見たくないのだが、破壊された王宮を元に戻すことなど、聖獣レグルスの力を借りなければ実現などできるわけがない…」
ノーティスにとってアクティス第一王子からの宣告は、半ば死の宣告でもあった。
それが実現できずに終わってしまったなら、彼はそれこそどんな罰を受けることになるかも分からないからだ。
…しかし、これほどまでに追い詰められた状況にあっても、それでもノーティスはエリッサのもとに頭を下げに行くことには抵抗がある様子…。
「いや、そんなこと絶対にごめんだ!俺の期待を裏切り、自分勝手なふるまいをしたのは向こうの方だというのに、なぜ俺が謝らなければならないのだ!」
彼の中ではあくまで、エリッサは自分になつかなかった不届き者であることになっているらしい。
…最初からエリッサの事を愛してなどいなかったのは自分の方であり、すべての種をまいたのは自分の方なのだが、そこには全く言及するつもりはない様子…。
その後もぶつぶつと愚痴を吐き捨てるノーティスだったが、そんな彼のもとに一人の男が大急ぎで現れた…。
「ノーティス様!また大変なことになりました!」
「こ、今度はなんだ!?」
いらいらを募らせていたノーティスのもとに現れたのは、現在の彼にとって数少ない味方の一人である部下の兵であった。
彼はその息を切れ切れにしながらも、非常に重要なある知らせを持ち込んだ。
「そ、それが…。どうやらカサル様が現在裏で暗躍して、ノーティス様が座る第二王子のイスを自分のものにするべく準備を進めているのだと…」
「な、なんだと!?!?」
…その知らせは現在のノーティスにとって、非常に受け入れがたいものであった。
「(あ、あいつ…!この俺に味方をしなかったばかりか、俺を蹴落として自分が第二王子になろうとしているのか…!な、なんとろくでもない男…!)」
…同じことをつい先日まで自分もやろうとしていたのに、自分がされる立場になるとそれが許せない様子のノーティス。
いずれにしても今のノーティスの立場は非常に危険なものであり、もはや一刻の猶予もないことを兵の知らせは示していた。
「ど、どうされますかノーティス様…?」
「(くそ…。ここまで追い詰められてしまうとは…。これはもはや、本当にやるしかないのか…?この俺が直々にエリッサのもとに謝罪に行かなければならないのか…?)」
ノーティスの心はこれまでにないほど大きく揺れていた。
…というのも、自分が座る第二王子のイスをカサルに奪われることは、彼にとってこの上ない屈辱であった。
自分が王の座から追い落とされる姿を、笑みを浮かべながらどこかで見ているであろうカサルの表情を想像するだけで、とても受け入れがたい怒りの感情が沸き上がる…。
そうなるくらいならいっそのこと、エリッサの前で自らの頭を下げることの方がまだマシなのではないかと思っていたのだった。
「(どうする…。重大な裏切り者であるカサルに第二王子の座を奪われることなど、絶対に阻止しなければならないことではあるが、だからといって自分が切り捨てたエリッサに謝罪に行くことなど、それこそ第二王子としてのプライドをすべて捨てることにも等しい…。ど、どちらの方がマシなのだ…)」
悩みに悩んだノーティスであったが、ようやく一つの結論にたどり着いた様子。
彼は軽く深呼吸を行い、感情を少し冷静に安定させたのち、部下の兵に対してこう言葉を発した。
「…確か、エリッサの居場所はもうわかっていたな?馬の準備をしてくれ。今すぐに出発したい」
「しょ、承知しました!」
…ノーティスは非常に苦しい表情を浮かべながらも、心の中では納得していないような雰囲気を感じさせる。
しかしここまで深刻な状況になってしまった以上、もはやエリッサのもとに行く以外の方法がいよいよ思いつかなかったのか、結局彼女のもとに頭を下げに行くことを選んだ様子だった。
「(全く気は進まないが、もはや仕方がない…。エリッサに頭を下げてレグルスの協力を仰ぎ、破壊された王宮を元通りにさせる。そうすればアクティス第一王子も納得し、第二王子の座を狙うカサルの思惑も封じることができるだろう…。そもそも、関係ない人間が王になろうとすることが無理な話なのだ。叶いようのない夢を抱くのは勝手だが、あまり調子に乗るならきちんと現実を教えてやらなければ…)」
…ノーティスはもうすでに計画が順調に進行しているかのような雰囲気に包まれているが、なにより大切なことを失念してしまっていることに彼は気づかない。
彼が頭を下げてエリッサに謝ったとして、エリッサが果たして素直に彼の事を許してくれるのかどうか、ということに…。
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