第41話

「ちくしょう…。どうして第二王子である俺がこんな思いをしなければならないのだ…」


アクティス第一王子はノーティスにそう言葉を告げた後、行くところがあると言い残して王宮からその姿を消していった。

残される形となったノーティスは愚痴をこぼしながら、その心の中に沸き上がるイライラを盛大に吐き捨てる。

するとその時、さきほどアクティスに対して証言を行ったシュルツとカサルの姿がノーティスの目に映った。

その瞬間、ノーティスは目にもとまらぬ速さで二人の元まで駆け寄ると、叫びにも似たような口調でこう詰め寄った。


「おい待て!どういうことだお前たち!!俺が今までどれだけお前たちの面倒を見てきてやったと思ってるんだ!あんなにも目をかけてきた俺の事を裏切るなど、そんなことをして心が痛まないのか!」


大きく感情的になりながら、ノーティスは二人への思いを爆発させる。

…しかし二人はそんなノーティスの姿を見てもなんの思いも抱いていないかのようであり、冷静な口調でこう言葉を返した。


「ノーティス様、私はあなた様の事を裏切ってなどおりません」

「なにを言うシュルツ!私をおとしめることをアクティスに言ったではないか!」

「私は本当の事をお話しただけです。私の見たもの、ノーティス様に言われたこと、そして私の考えたこと、それらのすべてを正直にお話しただけです」

「だ、だからそれがこの私を貶めることであると…!」

「正直にお話しすることがノーティス様を貶めると?それでしたらノーティス様は自らの行いを後悔し、恥じておられるという事ですか?であるならそれはつまり、ノーティス様はご自分の行いが間違いであったと認めておられるという事ではありませんか?」

「そ、それは…」


どこまでも冷静な口調で淡々と言葉を発するシュルツ。

彼がそう言う男であるという事はノーティスが最も理解しており、そんな彼だからこそノーティスはここまで自分の隣に置き続けていた。

…だからこそノーティスはシュルツになにも言い返すことができず、それ以上の追及を行うことができなかった。


「カ、カサル!お前もだ!俺はお前の事もここまで取り立ててやってきたよな!エリッサの事もすべて自分に任せてくださいと言ったのはお前だったよな!それがどうしてこんなことになったんだ!きちんと説明しろ!」


シュルツに言葉が返せないとみるや、ノーティスはそのまま言葉の矛先をカサルに変更する。

しかしカサルもまた特に変わった表情を浮かべることなく、冷静な雰囲気でこう言葉を返した。


「あのですねぇ、ノーティス様。最初に私の事を追い出そうとしたのはあなたの方ではありませんか。忘れたとは言わせませんよ?」

「は、はぁ?」

「エリッサに聖獣がなついたことを最初に報告した時、あなたはそこで私の役目は終わったとお考えになったのでしょう?だからそれ以降の事はすべてこのシュルツに一任して、私の事は追い出そうとされていたではありませんか」

「な、なんのことだか…」

「やれやれ…。自分が私の事を追い出そうとして置いて、自分がやり返されたらそうやって泣きわめくんですか。みっともないですねぇ…」

「っ!?」


みっともない。

カサルから勝ち誇ったような表情でそう告げられたノーティスは、その感情をさらに一段と強く爆発させる。


「みっともないのはどっちだ!自分の娘を不吉だのなんだのと言って冷遇しておいて、エリッサが聖獣になつかれた瞬間手のひらを反すようなお前の方こそよっぽどみっともないじゃないか!」

「おっと、この私にそんなことを言ってもいいんですか?」

「…なんだって?」


カサルはその言葉を待っていましたと言わんばかりの雰囲気を放ち、得意げな表情を浮かべながらこう言葉を返した。


「ノーティス様、あなたがエリッサに許しを請わなければならないことはもう決まったことなのです。でも、あれだけのことをしでかしたあなたが謝りに行っても、彼女は素直には許してくれないんじゃないですかね?そして彼女からの許しが得られないなら、あなたはその責任を取って王の座を降りなければいけないのではありませんかねぇ?」

「…何が言いたい?」

「私はエリッサの実の父ですから?私が彼女に一言お願いすればその考えを改めて、あなたの事を許してくれるかもしれませんねぇ?さて、あなたは私に偉そうな態度をとってもいいのですか?今のあなたには、私の協力が何より必要なのではありませんか?」

「お、お前…!!」

「ククク…。さぁ、きちんとした態度をとってもらわないと困りますよ、♪」

「っ!?!?」


カサルは完全に勝ち誇ったような表情を浮かべると、そのままノーティスの横を挨拶もなしに通り過ぎ、そのまま姿を消していった。


「カサル…調子にのりよって…!」


カサルの背中を恨めしそうに見つめながら、ノーティスは低い口調でそうつぶやいた。

そんな二人のやり取りを隣で見ていたシュルツは、現状を冷静に心の中で分析する。


「(…カサル様がエリッサ様に一言言ったくらいでは、何も変わらないんじゃ…?)」

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