第40話

「さて…。ノーティス、いったい何があったのか、そのすべてを話してもらおうか?」

「……」


荒れ果てた王宮の一室において、ノーティスはその体を震え上がらせていた。

そんな彼の前に鎮座するのは、現在この国で最も高い地位にある存在である、アクティス第一王子であった。

彼はノーティスの管理する王宮でとんでもないことが起こっているという知らせを聞きつけ、こうしてノーティスのもとに聞き込みに訪れたのだった。


「どうしたノーティス、答えられないのか?この王宮の事はすべて自分にお任せくださいと、お前が私に言ったのだぞ?忘れてしまったのか?」

「い、いえ…そ、そのようなことは…」


たどたどしい口調でノーティスはそう言葉を発し、この場の雰囲気も相まって彼は完全に押されムードであった。

ノーティスの頭の中にはいろいろな言い逃れの言葉が思い浮かんではいるものの、それを言ったところですべてアクティスに跳ね返されてしまいそうという不安感が勝っており、それを口にする度胸が持てないでいた。


「お前が話さないというのなら仕方がない。今回の一件を詳しく知っているであろう者たちを呼ぶとしよう」


アクティスはそう言うと、自分の横に控えていた使用人になにやら耳打ちを行い、言葉を伝えた。

その声はノーティスには聞こえなかったものの、この場に誰が呼び出されるのかという事に心当たりがあった彼は、ひそかにその心の中で期待感を弾ませた。


「(ここで呼び出されるとすれば、おそらくシュルツかカサルあたりだろう。二人ともこの私に不利な事など言いはしないだろうから、問題はなさそうだ…。なんとかして、この状況を打開しなければ…)」


アクティスの言葉を聞いた使用人はそのまま扉の外に出ていき、その場で待機していたらしき人物を呼びに行った。

その後、時間を経ずして第一王子から呼び出された人物が彼らの待つ部屋の中へ入ってくる。

そこには二人の人物の姿があり、その姿を見たノーティスは改めてその心を安堵させた。


「(やはりカサルとシュルツか…。頼むぞ二人とも、全力でこの私をかばってくれ…!)」


完全に他力本願になってしまっているノーティスだったものの、現実的に彼が助かるには二人からの協力が必須であった。


「さて…。お前たち二人は今回の一件を間近で見ており、事情をよく知っていると聞いた。そのすべてを話してくれたまえ」


アクティスは彼らに対し、威厳あふれる口調でそう言い放った。

…部屋の中を重い沈黙が支配するものの、アクティスの言葉に最初に答えたのはシュルツであった。


「今回の一件は、ノーティス様がエリッサ様に婚約を持ち掛けられたことから始まりました。お二人は確かな未来を歩まれるものと私は思っていたのですが、ノーティス様がエリッサ様を乱暴に切り捨ててしまったために、その未来が実現することはありませんでした」

「お、おいっ!!!」

「ノーティス、黙れ」

「うっ……」


大いに期待していたシュルツの言葉は、ノーティスをかばうものではなかった。

その事に大いに腹を立てたノーティスだったものの、彼の声はアクティスの前に一蹴いっしゅうされてしまう。


「シュルツ、続けろ」

「はい。王宮がここまで破壊されてしまったのは、エリッサ様が従えている聖獣の存在によるものです。ノーティス様はその力を自らのものとするべく、エリッサ様にだまし討ちを仕掛けたのですが、完全に失敗してしまいました。私も王宮の兵たちも、今すぐにエリッサ様に謝罪をするべきだと申し上げたのですが、ノーティス様には謎の自信があったようで、結局最後の最後までエリッサ様に謝罪を行うことはなく、気づいた時には王宮はこの有様になっていたというわけです」

「なるほど…」

「っ!!!」


その説明を聞き、アクティスは非常に鋭い視線でノーティスの事をにらみつける。

ノーティスは一段と大きく自身の体を震え上がらせ、恐怖を抑えるのに必死だった。


「次はラクス、貴様の考えも聞かせてもらおう」

「(ラクス!!分かっているだろうな!!シュルツは私を裏切った!!お前は私をかばうんだ!!)」


ノーティスは心の底からもてる限りの念をラクスに送った。

そんなラクスがアクティスに返した言葉は…。


「アクティス様、私というものがそばについておりながら、ノーティス様の暴走を止められませんでした事、誠に申し訳ございません…。エリッサは正真正銘私の娘でして、ノーティス様から婚約のお話を頂いた時には本当にうれしく思っていたのです。…それがまさか、身勝手な婚約破棄の上でエリッサに嫌われ、その果てに聖獣を怒らせて王宮を荒廃させてしまうなど…。まさかノーティス様がこれほど愚かなお方だったとは夢にも思わず…」

「(カサル!!貴様!!!!)」

「…♪」


どこか殺気さえ感じさせるような雰囲気を放ちながら、ノーティスはカサルの事をにらみつける。

しかしそんなノーティスの事を、カサルはフンと鼻で笑って見せた。

…その光景はまさしく、シュルツ、カサルの両名から、完全に愛想を尽かされたことを意味していた…。


「ふむ。私が事前に聞いていた通りの説明だ。お前たちの言っていることに偽りはないのだろう。…さて、ノーティス。この落とし前をお前はどうつけるつもりなのか?」

「う……」

「お前が決められないというのなら、この私が決めてやろう。そうだな……」


アクティスは自身の右手を顎下に添え、どのような処分がふさわしいかを考えていく。

…その時間はノーティスにとって果てしないほど長く感じられ、半ば生き殺しと言ってもいいほどの精神状態だったことだろう。

一瞬にも無限にも感じられるその時間を経て、考えをまとめたアクティスはノーティスに対し、こう言葉を告げた。


「今回の責任を取り、王宮を永久追放…。ではなんの責任を取ることにもならないな。ゆえに、お前には破壊された王宮を完全に元に戻すことを命じる」

「そ、それは…正直、無理というもので…」

「無理ではないだろう。ある者に協力を仰げばな?」

「…!?」


…アクティスの言葉の真意を理解した時、ノーティスはその心を震え上がらせる。


「エリッサに謝るでも土下座をするでもして、聖獣の力で王宮を元に戻せ。それがお前の罰である」

「そ、そんなぁ……」


プライドの高いノーティスにとって、エリッサに頭を下げに行くという事は、王宮を追放されるよりも苦しいことであった…。

しかし、第一王子から直接命じられたことを拒否などできるはずもない。


「…わ、分かりました…」


彼はその罰を受け入れ、エリッサに許しを請いに行くほかないのだった…。

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