第31話
ノーティスから招集をかけられ、パーティー会場の周囲の警戒に当たっていた兵たちが、次々にレグルスの元へと集められた。
全員を集めてしまっては部屋の中に入りきらないため、兵の中でも高い魔法の実力が認められる10人ほどの者が代表してこの場に姿を現した。
「よく来た、魔法部隊よ。ひとまずこのわからずやの聖獣を、魔法の力によって外に連れ出すのだ。その後外で待機している兵たち全員でこいつを我が王座の隣まで連れて行く。…いくら聖獣と言えども、これだけの人数に力をかけられては抵抗することもできないだろう…。そして私の力を思い知ったレグルスは、必ずやこの私に対する認識を改め、私に従うこととなるだろう…!」
どこまでも自信に満ち溢れた様子でそう言葉を発するノーティスに、兵たちは逆らう言葉を見せることはなかったものの、正直なところその胸中には複雑な思いを抱いていた…。
「な、なぁ、ほんとにやるのか…??」
「し、仕方ないだろ…。第二王子の直々の命令なんだから…」
「聖獣を力づくでなんとかするなんて、絶対無理だろう…。変に機嫌を損ねさせてかえって俺たちが痛めつけられることになるんじゃ…」
「あぁ…。もう帰りたい…」
…聖獣を前にして多くの兵がネガティブな言葉をつぶやいているものの、その思いがノーティスのもとに届くことはなく…。
「恐れるな!勇気を持て!お前たちはこの私が直接任命した魔法部隊なのだ!必ずや聖獣にもその実力は通用する!」
大きな声をあげて兵たちを鼓舞するノーティス。
しかしその内心にあったのは、別の思いだった。
「(このままでは完全に俺がエリッサの格下という事になってしまうではないか!!しかも聖獣を操ることができる唯一の人間であるそのエリッサを、俺はついさき追放したんだぞ!?これじゃあまるで俺が馬鹿みたいじゃないか!このまま終わってしまったらそれを受け入れるほかなくなってしまう!そんなもの絶対に認められるか!!)」
ここまで来てしまった以上、自分たちだけでやるしか面目を保つ方法はない。
王としての高いプライドを持つ彼にとっては、エリッサに自分の頭を下げて謝るよりも、このまま聖獣に殺されたほうがマシらしい。
「さあ魔法部隊!!さっそく生意気な聖獣をその手で教育してやれ!!別に倒せと言っているのではないのだ!威嚇して驚かせることができればそれでいい!」
高らかにノーティスはそう言葉を発し、それと同時に兵たちはレグルスに向けて魔法を放つ準備に取り掛かる。
あるものは魔法具をレグルスに向け、あるものは詠唱をはじめ、またあるものはレグルスへの距離を詰めていく。
戦法はそれぞれ多彩ではあるものの、当然その目的は互いに同じである。
「テールバインド!!」
「グロウ筒、発動!!」
「なんとかなれ!ローピック!!」
兵たちの発した魔法攻撃が、一斉にレグルスの方に向けられて放たれる。
それに対しレグルスは全く反応を見せることなく、そのまま直撃を受けるような態勢でいた。
「(ほ、ほれみろ!いくら聖獣といえども、これだけの人数にいっせいに魔法攻撃を仕掛けられたならどうすることもできまい!!素直に最初からこの俺の言うことに従っていればよかったんだ!!)」
その光景を見て、ほんのひとときの安堵感を覚えるノーティス。
これでレグルスの事を力で支配できると確信したのもつかの間、次の瞬間にはそれまでと全く違う光景が彼の目の前に広がっていた…。
「……は?」
ノーティスは、第二王子には全く似合わぬ間抜けな声を上げてしまう。
…それもそのはず、ついさきほどまで自分の近くで魔法攻撃を放っていた兵たちが、跡形もなくその場から消え去っていたのだから…。
「…な、なんだ??何が起こった…??」
…あまりに現実離れしたその現象を前にして、ノーティスはそれまでの余裕を完全に失い、言葉をなくしてしまう…。
しばしの時そのような時間が続いたのちに、一人の兵が外から部屋の中に駆けてきて、急ぎノーティスにこう言葉を告げた。
「ノ、ノーティス様!!魔法部隊がパーティー会場の落とし穴に落とされていることが確認されました!!」
「……」
…その報告を耳にして、少なくとも魔法部隊の存在そのものを消されたわけではなかったことを知ったノーティスは、ひとまずその心をほっと落ち着かせた。
しかし同時に、その心の中にはそれまで以上に強くレグルスに対するイライラが沸き上がっていた。
「(ゴミはゴミ箱にってか?なら俺もあの兵たちも自分の前ではゴミ同然ってことか?…あいつらだけならまだしも、この俺まで同じ扱いというわけか?こいつ…)」
ノーティスはイライラの感情を隠すこともなく、兵に向けてこう言い放った。
「早く全員を呼び戻せ!!もう一度魔法攻撃を行う!!今度こそこいつをあっと言わせてみろ!!」
…ノーティスは高らかに攻撃の続行が宣言し、兵たちは再び彼のもとに集められる。
そして準備の後再び再攻撃が仕掛けられたものの、一度目の時と全く同じ結果となり、当のレグルスは全くその場から動かず、半分眠っているような状態であった。
「こ、こいつめ…どこまでもこの私を愚弄しよって…。こ、こうなったら致し方ない、最後の手段を使ってやろうではないか…」
全くノーティスと目を合わさずそっぽを向いたままのレグルスに対し、ついにノーティスは我慢の限界の様子。
シュルツはそんな彼らの様子を俯瞰で見つめながら、ある一つの可能性をその心の中に抱いていた。
「(これって、もしかして……)」
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